百年の門
『記憶喪失少女は、それでも生きていく』番外編。
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文献によると、
異界の人間は、残忍で、非常に好戦的らしい。
人間同士が常に殺し合い、奪い合っているという。
そして、この世界のように魔法という概念はない。
しかし、魔法がないからと言って、不便だということもない。
火の魔法がなくても、火を起こす道具もあるし、
風の魔法を使わなくても、遠く離れた場所にいる人と道具で連絡することもできるらしい。
「異界の人間って、ろくなやつがいねぇじゃないか」
マーティスは呟いた。
「だから、門が開いたら、絶対に異界の人間がこっちに来てほしくないわけだ」
そう言って、納得したように何度も頷いた。
「文献によると、国同士で何度も戦争を起こしているみたいだよ。
なんでそこまで争う必要があるんだ、こいつら?」
ジルは文献を捲りながら言った。
「戦争を起こして、どうなった?」
俺は尋ねた。
「うーん、ある国から奪えば、また別の国と戦争になるみたいだ」
「……なんだ、それ?」
「文献を読めば読むほど、異界のことがわからなくなるよな」
マーティスは呟いた。
「とんでもないやつばかりだってことだ。それだけだ」
ジルは皮肉めいた視線で文献を眺めた。
この一ヶ月、俺たちは文献保管庫に通い、異界について調べ続けた。
「これ、読んでみろ」
ジルはある文献を俺とマーティスの前で滑らせた。
それは、この中で一番新しい文献だった。
もっとも——
その文献は前回の百年の門の任務で残されたもの——
つまり百年前の情報だ。
「道を走る馬車みたいな乗り物があるみたいだ。
でも、まったく魔法も動物も使ってないって。
それなのに、馬車よりも遥かに速く、目で追えないほどだってさ。
意味が分からないんだが」
ジルは顔をしかめた。
「魔法も動物も使わないのに、道を走る?どうやって?」
俺は聞いた。
「そんなこと、あり得るのか?」
「さあな。でも、この文献」
ジルはその文献を指で軽く叩いた。
「当時の第二王女が自ら赴き、ご本人が記述したものだ。自分の目で見たはずだ」
しばし、沈黙が落ちた。
王族自らが命を賭して残した記録だ。
どうにも、嘘には思えなかった。
俺は、妙な記録を見つけた。
「……おい、これを読んでみろ」
そう言いながら、ある記録を指さした。
「三百年前に、異界の人間がこっちに来たみたいだ」
「……えっ?本当か?」
「ゼラニア国で、記憶のない男が突然現れた。
武器の扱いに異様な適応力を見せ、
初めて見た武器でも——
自分の手足のように、すぐ扱うことができたらしい」
「へぇー、異界の人間はそんな能力を持っているのか?」
「......いや。そうじゃないみたいだ。
異界の人間にはそんな能力がない。
しかし、百年の門を通ったことによって、特別な能力を与えられる、と記述があった」
俺は文献に目を走らせながら、話した。
「へぇー……いいな。俺もその能力がほしい……
えっ!待った!
じゃあ、俺たちも特別な能力を与えられる!?やった!」
ジルは声を上げた。
「……いや。イリアス隊長の護身魔法で抑えられるはずだ」
ジルは肩を落とした。
「……マジか。せっかくの機会なのに、もったいないな」
「その男は残忍だったようで、現れた数年後に、ゼラニア国の騎士に殺害されたみたいだ」
「……へぇー。やっぱり、異界の人間はろくなやつじゃなさそうだな」
「記憶のない男か……」
マーティスは口を開いた。
「団長が言っていた、記憶を失うって話……やっぱり本当なんだな」
「そんな人間がここに来ないように、俺たちは全力で尽くすのみだ」
俺は文献から目を離さず、静かにそう言った。
——任務が開始した。
俺を含めた十名の騎士とファビアンは、トレストの辺境へ赴いた。
その高原には、大きな門がこの場にあるのが当然であるかのように、ぽつんと立っていた。
数日前に、突然現れたと報告があったらしい。
俺たちが全力で押しても、びくともしなかった。
みんな、警戒しながら門に触れた。
その門は石製のような感触で、冷たく、ただただ静かに存在していた。
こんな物がこの世に存在しているなど、想像したこともなかった。
門は今閉まっている。
開く気配は微塵もなかった。
「……門は、本当に開くのか?」
ジルは不安そうに呟いた。
誰も答えなかった。
それからも、門は動かなかった。
数日が過ぎた。
俺たちは門の近くで、気を抜くことなく野営を続けた。
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