俺が選ばれた理由
『記憶喪失少女は、それでも生きていく』番外編。
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団長はイリアス隊長に視線を送った。
「だから、イリアス。おまえの護身魔法はこの任務に必要だ。よろしく頼む」
「そんな百年の門の影響に、私の護身魔法だけで防げるとは限らないのでは?」
「鳥の姿になってから、おまえに護身魔法を使ってもらう。
人間の姿より、体が小さい分、魔力が拡散せず、鳥の姿の方が魔法を浸透させやすい。
それに強化道具も用意された。おまえの魔法の効力を底上げできる」
「あぁ、そういうことですね。承知いたしました」
「……なるほど。鳥への変身は、私の役目ですか?」
ジョエル隊長は自分を指さしながら、言った。
「そうだ。この任務のために選ばれたおまえの役目だ。
鳥の姿であれば、門の影響が幾分か緩和されるそうだ。
だからこそ、おまえの特殊魔法はこの任務に欠かせない。
全員を鳥へ変身させるのは大変だろうが、頼むぞ」
「つまり、こちら側で変身させ、護身魔法をかけてから、異界へ向かう、ということでよろしいでしょうか?」
「そうだ。異界では、魔力はかなり制限されてしまうからな。
すべてこちら側で準備してからだ。強化道具も使え」
「了解いたしました」
「ちなみに、任務の期間はどのくらいですか?」
トーマス副隊長は尋ねた。
クラウド団長は小さくため息をつき、首を横に振った。
「……それは、誰もわからない」
トーマス副隊長は目を見開いた。
「……えっ、わからない?」
エミール副団長は口を開いた。
「百年の門は勝手に開き、勝手に閉じる。
だから、この任務は、門が閉じるまで続くことになる」
「……本当ですか?」
「終わりの見えない任務ですね」
イリアス隊長は苦笑した。
「文献では、六ヶ月も長引いたときもあったらしい」
「……半年」
誰かが呟いた。
クラウド団長はみんなを見回した。
「この任務は、極秘だ。絶対に漏らしてはいけない。
誰かに漏らせば、大逆罪に等しい罰を受ける。忘れるなよ」
執務室がしんと静まり返った。
誰かが唾を呑む音さえ聞こえた。
「おまえたち以外に、ファビアン殿下も同行なさる」
クラウド団長は続けた。
「ファビアン殿下は、異界の情報を収集し、次代へ正確な記録を残すために同行なさる。
王族としての務めだ。
王族は代々、百年の門の記録を直接確認する役目を担っている。
殿下にも、おまえたちと同様に鳥へ変身していただく。
ただし、おまえたちの見張り任務には関わらない。
あくまで記録のための同行だ」
その沈黙の中、俺は口を開いた。
「あの、団長……」
団長は何も言わず、俺に視線を送った。
「異界の人間と接触してしまった場合はどうしますか?」
「原則接触禁止だ。こちらの存在を知られてはならない。異界の秩序を乱すな。
やむを得ない場合を除き、会話も干渉もするな」
……なるほど。
まあ、鳥の姿だから、異界の人間と関わることはないだろう。
「承知いたしました」
「他に聞きたいことがあるか?」
その場の騎士たちは首を横に振った。
「では、話は以上だ。下がってよい」
騎士たちは次々と執務室を出ていった。
「クラウド団長、よろしいでしょうか」
執務室を出ようとしたとき、俺はふと、ひとつ気になったことがあった。
「なんだ?」
俺は足を止め、団長へ向き直った。
「なぜ、私がこの任務に選ばれたのでしょうか?」
「なぜそんなことを聞く?行きたくないのか?」
「いいえ、そうではありません。
このような重大任務に参加できること、光栄です。
しかし、私は入団してまだ二年しか経っていません。
そんな経験の少ない私がなぜ選ばれたのか……」
クラウド団長とエミール副団長は顔を見合わせ、ため息をついた。
「俺たちもできれば、おまえやジル、マーティスを行かせたくはない」
「……では、なぜ……」
「俺たちの判断じゃない。大賢者様のご意向だそうだ」
「大賢者様のご意向……?」
「俺も詳しくは知らん。だが、アーロン大臣から、おまえを大賢者様が指名したと聞いている」
「そして、マーティスとジルも一緒だったら、なお良い、とのことだ」
エミール副団長は続けた。
「そうですか……」
つまり、この任務に俺を選ぶ理由があるのだろう。
マーティスとジルにも、何か意味があるのだろうか。
大賢者様の意図は分からない。
胸に小さな棘を残したまま、俺は団長の執務室を出た。
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