「クズ父」と借金
ダンとジンが剣を振るって戦闘訓練しているとーー
「大変だ!アンタらチャームウッド村のシューさんの息子さんだろう?シューさんが危篤なんだ!すぐに会いに行ってやってくれ!」
とボロい格好をした臭そうなオッサンが寄ってきた。
「「………」」
ダンとジンは無言でオッサンを見つめた。
「親の死に目に会えないほど親不孝な事はないぜ。悪い事は言わん。早く帰ってやんな」
とオッサンがワケ知り顔で宣うたが…
「俺達に父親はいないんだ。人違いだな」
「俺達は父親のいない母子家庭で育ったんだ」
と兄弟はオッサンの言い分を退けた。
「なんでそんな事を言うんだ。シューさんが気の毒だろう。息子達からそんな風に言われるなんて」
「とにかく、俺達には父親なんて居ないんだ。変な言い掛かりをつけるのはやめてもらおうか」
「邪魔なんで離れてくれる?模擬専用の剣だから切れないけど、マトモに当たれば普通に骨は折れるよ?」
「なぁ、人間の心を大事にしようぜ。親を大事にしな。それが後悔しない生き方だ」
「…アンタ、しつこいな」
「警告はしたよ。冒険者の戦闘訓練の間合いに入って事故で怪我ないし死亡しても自己責任だ。それは分かってるんだよな?ダン君、この人無視して続けようか」
そう言われて流石に臭そうなオッサンは二人から離れたが…
「畜生、クソ餓鬼どもめ…」
と呟いて二人を睨みつけて、訓練場の床に痰をぺッと吐いてから去って行った。
ジョニーはジンのウエストポーチの中から様子を伺っていたが
(おいおい、本当の話だったら親父さんが可哀想だろ?)
と見も知らぬ二人の父親に同情した。
(幾ら仲が悪くても危篤なら会いに行くべきだ)
訓練場にいた他の冒険者達もジョニーと同じ事を思ったらしく、二人の戦闘訓練が終わると寄って来てお節介な事を言い出した。
「なぁ、さっきのオッサンの言ってた事なんだけど」
「話くらい聞いてやっても良かったんじゃないか?」
「そもそもお前ら以前から父親とそりが合わないって言ってたし、父親いるじゃん」
「母子家庭じゃないだろ」
そう言われてダンとジンは顔を見合わせた。
「…今までクズ父のクズっぷりに対して何も話して来なかったからなんだろうな」
「うん。ちゃんと周りにもアイツのクズっぷりを話しておいた方が良いよ」
ジョニーは何気に嫌な予感がした。
「…今後もまたああいうヤツらが押しかけて来る可能性があるんで、今のうちに言っとくが、ああいうのは確実に嘘だ。
以前も何度か同じ事があったんだが、危篤と聞いてクズ父の所へ行くと借金取りが待ってて代わりに金を払えって、クズ父を人質にして迫って来たんだ。
何度も同じ手口で有り金を巻き上げられたし、そもそも借金だって『俺達に払わせる前提』があるから貸す側も貸す訳だし、縁を切ってやった方が誰も金を貸さなくなる分、クズ父本人のためになるんだよ」
ダンがそう説明すると
一人を除く全員が納得したが、納得してない一人が
「それでも、今回ばかりは本当かも知れないだろ?」
と食い下がった。
「…アンタ。本気でそう思ってんの?」
ジンがジョニーに向ける優しい顔からは想像もつかない鬼面をその冒険者へ向けた。
「…オレに噛み付くなよ」
冒険者がムッとした表情をしたが
ダンが殺気を放ち
「アンタの言い分は『詐欺師に騙され続けて金を巻き上げられ続けろ』と言ってるようなもんなんだよ。
自覚はなくても、アンタは詐欺師に貢献して被害者を延々被害者で居させようとしてるんだ。
噛み付くなも何も、アンタが先に噛み付いてるんだろ?今度は『噛みつかれても噛みつき返すな』と反撃権すら俺達には持たせないつもりか?」
と睨みつけると
(二対一は分が悪い…)
と思ったらしい冒険者は
「分かったよ。もう口出しはしないよ。俺の善意すら捻じ曲げられるんなら、お前らには構わねぇし、金輪際助けたりもしねぇ。それで良いんだろ?」
と言って、クルリと踵を返して去って行った…。




