父親運がない
「全く!胸糞悪いな!」
ジンが吐き捨てた。
「クズなヤツらの小賢しさに足を引っ張られ続けるって経験がないと、ああいう発想になるんだろ?許してやれ。
それでいて、さっきの冒険者の面は覚えておけよ。アイツがどんなに困った状況になって俺達がその場に居合わせても『絶対助けない』事で人生の世知辛さを学習させてやるべき世間知らず君なんだからな」
ダンがそう言うと
ジンは
(分かったよ)
と言うように頷いた。
そして不意に
「俺達ってホント父親運が無いよな…」
と呟いたのでウエストポーチの中のジョニーは心臓の音がドキンと大きく跳ね上がった。
「…だが『父親運が無い』という事実を人生の早い段階で自覚できた事自体は運が良かったのかも知れないぞ?」
「…そうかもね?…でも、嫌なものは嫌だったよ。俺とダン君が前世の記憶を思い出したのだって、クズ父が母さんの家出中に子供だった俺達を真冬に追い出したからじゃないか」
「そうだったな…」
「近所に犬を外飼いしてる家があったから犬小屋に潜り込んで犬の毛布を二人と1匹で使って凍死を免れたけど…。普通に死んでるよ。ああいう目に遭わされた子供は」
「だけど、俺達は生き残った」
「おかげで前世の記憶も思い出したんだけどね」
「ああ、前世の母ちゃんが子供の頃に真冬の自分の誕生日に家を追い出されたって話を思い出したんだったな」
「そうそう。前世の母ちゃんが犬小屋に潜り込んで犬と一緒に毛布で暖を取って凍死を免れた話。
アレが潜在的に記憶にあって、俺達も同じ方法で生き延びたんだったよね…」
そこまで聞いてジョニーは確信してしまった。
(コイツらはやっぱり前世の息子達だ!)
と。
子供時代に真冬に家を追い出されて犬小屋で暖を取って生き延びたという経験を実際に体験した女の子が前世の嫁以外にも日本にゴロゴロ居たと言うのなら話は別だが…
そんな経験を子供時代にした人間がゴロゴロ居たとは思えない。
(それに、弾も仁も俺の事は「親父」、妻の事は「母ちゃん」と呼んでいた…)
ジョニーはなんとも言えない気持ちになった。
今世の二人のクズ父と違って秀二は借金したり、借金返済させるために危篤だと嘘をついたりはしてなかったが…
良い父親だったとは言えない。
「今世の母さんもだけど前世の母ちゃんもロクデモナイ男と結婚しちまってたんだな…。
男を見る目が無さすぎて不幸になる女って自業自得なのかも知れないけど、自業自得と切り捨てるには苦しみが大き過ぎて過剰懲罰的なんじゃないかな…」
「そうだな。だから俺は絶対結婚なんてしない。クズ父の血が混じってるし、前世でも親父の色気狂いのせいで酷い目に遭ったんだ。
女に惑わされる隙なんか絶対に作らないつもりだ」
「ダン君はストイックだよね」
「お前は親父の全裸死体が瓦礫の中から見つかった現場に居なかったから実感がないんだろうな。
精神障害の未成年少女に家出を唆して、家出させた後、家に引き込んで性交渉をしようとした性犯罪者の息子として勝手に偏見持たれて後ろ指刺されてた事も、仁は実感してないんだろ?どうせ」
「俺、ネットでエゴサーチとかしない人だったし、地元に友達もいなかったから」
「まぁ、それが良いんだろうな。世間の奴らの無責任な偏見を知ると本当にあの世界自体を滅ぼしたくなるからな」
「そんなに悪口酷かったんだ…」
「…元々、親父は買い物依存症で色気狂いだったからな。お前は覚えてないかも知れないが、親父は女とのメールのやり取りとかに夢中になるタチで、食事中とかもメールが入れば『後で返信』みたいなクールな対応も出来ずにその場でメール開いてるヤツだったよ。
しかもそうやって浮気しだすと、自分の方が母ちゃんを裏切ってるくせに、どうでも良いようなくだらない事で母ちゃんに因縁つけて怒鳴る暴力を振るうってパターンだっただろ?
ちょっと母ちゃんが気に触る事を言っただけで『俺を怒らせるお前が悪い』ってノリでさ。
それでいて外では『口うるさい嫁に抑圧されてる可哀想な夫』を装って母ちゃんの悪口を言いふらしてたんだ。
挙句、自分でこじつけた悪口と被害者ぶりっ子を自分で信じてその気になって『最低な嫁に搾取されて抑圧されてる俺は被害者だ』と本気で母ちゃんを逆恨みするようになってたんだからな。
狂い過ぎてて呆れるよ。実際、親父は精神科に掛かるようになったし、『ずっと前から狂ってたんだろうな』って思ってたよ。俺達も親父には訳の分からん理由で殴る蹴るされてたからな。
そうやって精神科やセラピーに通えば通ったで、そこで知り合った女にもやっぱり色目を使ってたし、救いようがない。
親父が通ってたセラピーにさ、俺の小学校時代の先生が居た頃があって、そういう間柄の女性にまで変な色気出して擦り寄って行ってたんだぜ?気持ち悪いだろ。
あり得るか?散々家庭内暴力で家庭機能を破壊しておいて、そういった事情を知ってる元教員にまで色気出してしまえるなんてさ。
『自分というものが分かってない』『自己客観性が完全欠如してる』って事だったんだろうけど、あの色気狂いぶりは限度を超えてたよ」
「…ああ、そう言えば。一人暮らしの精神障害者女性にも変な気起こしてたよね。
『飼ってた猫が居なくなったんで探してる』って聞いたら、ビラまで作って、作ったビラまで貼って『趣味でヒーロー活動してます』とか言って誤魔化してたけど、ああいうのもワンチャン狙いの媚び売りだったんだよね?
俺達家族に対してはそんなサービス精神カケラもなかったのにね?
何かのヒーローアニメで『ヒーローってのは他人を助けて自分の家族を苦しめるクズだ』とか言ってた気がするけど、本物のヒーローは浮気相手を探すための下心満載の押し付け親切を『ヒーロー活動』だのと言ったりしないよね?」
「色気狂いってのは、色々こじつけて『下心なんかない』とか言って、結局チャンスが有ればモノにするつもり満々だからな。
第三者の傍観では丸分かりの汚さなのに、当人だけが『誰にもバレてない筈』と本気で思い込んで、自分自身の記憶すら改竄して潔白を装うんだからな。
狂い過ぎてて話にならないんだよな」
「…そう言えば、前世の親父の祖父ちゃん。俺達の曾祖父ちゃんって人がやっぱり色気狂いだったんだったよね?」
「ああ、そうだったな。金持ちでもないのに愛人作って、嫁と子供が一緒に暮らす同じ屋根の下で愛人と暮らしてたって話だから相当だよ。
金持ちが母家に妻子を暮させて、敷地内の離れ家で愛人を暮らさせるってのは金持ちの特権みたいなものだったんだろうが、貧乏人の色気狂いだとやる事が汚な過ぎるし家族への迷惑が半端ないよな」
「やっぱり『血』だったのかな…。俺は結婚相手もできなくて寂しかったけど、山本家の血は断絶して良かったんだろうね。
俺達が子孫を残せなかった事は、あの色気狂い親父の血を未来に残さずに済んだ事でもあるし」
「ああ。だから俺はあの事件がなくても結婚する気は皆無だった」
「ダン君、親父が事件起こして死ぬ前まではモテてたと思うんだけど…」
二人がそんな会話をしているのを聞きながらジョニーは
(「恨まれてる」というよりは「心底から軽蔑されてる」のかも知れない…)
と思った…。
(ジョニーの中身が俺だとバレたら虫ケラでも見るような目で見て殺処分するに違いない…)
と確信した…。




