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【 災いを引き取る村 】
その少女を見た瞬間に、マブチ達の意識はスッとその場から離れていくように感じた。地面に足がついていない、ふわふわと空中に浮いているような感覚だった。
少女は、泣いていた。その瞳に吸い込まれるようにして、マブチ達の意識は彼女の中に吸い込まれていった。
◇
京日村。それは○○県○○市の山奥にある小さな集落の集合体の総称だった。そこに住む人々は古くから人々の「災い」を引き取る、という特殊な職を持っていた。どのような理屈かは解明されないままに、その名前だけが知れ渡ることになる。
「今年も、溜まって来たな」
人々から引き取った「災い」は穢れとして扱われ、京日村の住人達はその穢れを近くを流れる川でそれを流し清めていたとされている。しかしそれだけでは不十分であり、災いを引き取るという作業を行い続けると、その作業にあたっている当人にも穢れが蓄積していったのである。
そのため京日村では、人柱を定期的に立てていた。まだ世の穢れを知らない幼子を天に捧げることで、その幼子が一手に引き受けるとされていたのである。
そうやって人柱とされた幼子は、所定の手順を踏んで穢れを祓われたのちに、京日村の人々が「落ち川」と呼ぶ川に流される。その後の幼子の生死については誰も関与しない、というのが村でのしきたりだったのだ。
その異常な儀式は、幸か不幸か確かに効果があったのだ。だからこそ、京日村ではその儀式が疑うことなく続けられた。そしてある時、1人の少女が同じように人柱として立てられることになる。
「源三、光ちゃんが選ばれた。わりぃが、村のためだ」
「そうか……。でも、ずっとやってきたことだもんな」
光、という名の少女は、村に穢れが溜まってきたと判断されたときに人柱となった。父親である源三はひどく悲しんだものの、村の掟に従った。
「じゃあな、光。向こうでも、元気にな……」
そして儀式の行われる夜、神聖な色とされる白色の装飾に包まれた光を、源三は泣きながら見送った。村の為になるのだ。そう自分に言い聞かせて、光を見殺しにしたのだ。
光は、捧げられた。落ち川に流され、全ての穢れを祓うと思われていた。
しかし、その年に京日村の人々は全員無残な姿で発見されることになる。獣に食い荒らされたかのような人々の姿が村中で見つかり、住人の居なくなった京日村は地図から消されることになった。
災いに苦しむ人々は、それでも京日村の役割を求め続けた。京日村の跡地に祠を建て、欠かさずに祈り続けた。すると不思議なことに、災いは解消されていったのである。特に、誰かに対する恨みは、まったく同じようにしてその人物に返ると話題になっていた。
京日村はもう存在していない。しかし、恨みを引き取り続けている存在が確かにある。それだけが、一部の人々の中で語り継がれていった。
◇
「今のが、京日村……」
マブチ達の意識は元に戻っていた。しかしその脳内には、確かに京日村に関する過去の記憶が残っている。そしてその内容は、今のマブチ達の現状を表しているようにも見えた。
「あれが本当なら、私たちは文字通り、復讐を受けているってことになるのかしら」
ユリカの言葉で、4人はそれぞれ目の前にカゲが姿を変えて表した人物を思い出す。
マブチの前には、兄である馬渕洋平が。
キョーコの前には、子供たちが。
アサヒの前には、野口と父親が。
ユリカの前には、桜井祥子が。
「その通りでございます。当館が引き取っているのは、『恨み』。皆様から傷つけられた人々の思念が、この館を創り出しているのでございます」
カゲはいつの間にか元の姿に戻っており、館の真実を口にする。しかし、4人の誰も、それを疑おうとしなかった。復讐された未来の自分を知っているからである。
「この館は存在いたしません。ですが、人の恨みをその身に背負った少女の大きな『恨み』によって、今も皆様の目の前に在るのです」
そうだ。少女は役目を受け入れてなどいなかった。夢で少女が語っていた。
◇
「お兄ちゃん、あそぼ?」
「私は、要らない子なんだって……。だから、こうなったんだって……」
◇
少なくとも彼女は、まだ生きたかった。自分が死ぬことなんて、万に一つも思っていなった。きっと、マブチ達が傷つけた人々達も、そう思っていたはずだ。
「それで、僕たちがこの館に来たってわけですか。それこそ復讐で」
「その通りでございます。それに……」
カゲは少し言い淀んだ。何か言いづらいことがありそうな雰囲気だ。
◇ ◇ ◇
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