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【 稲井 響子 】
「まずキョーコさんに聞きたいんだけど、あの新聞の事件が『秘密』を思い出すきっかけになったってことは、キョーコさんはそれに関わってるってことだよね? 」
マブチはキョーコに対して早速切り込んだ話をする。しかし、その問題を解決しないことは、話が先に進まないことをその場の誰もが理解していた。
「……関わってるも何も、あの事件を起こしたのは私です。まだ世間では犯人が分かっていないだけで、私がやったことなんです」
キョーコはそう言って、あっさりと認めた。その様子に他の3人は驚いてしまう。あれだけ気弱に見えたキョーコが悪質な事件の犯人になることが想像できなかったからである。
「それはあなた自身の意志でやったことなの? 」
「……はい」
「あなたに何があったのよ。ここでも仕事をやり始めるくらいには仕事熱心に見えたけど」
ユリカの言葉を聞いて、マブチは初日の夜を思い出す。こちらから話しかけても気が付かないほどに集中して書類を何枚も見直していた彼女の姿を覚えていた。だからこそ、マブチはユリカの意見に同意する姿勢を見せた。
「……」
そこまで言ってキョーコは黙ってしまった。うつむいて下を向いたまま、彼女は顔を上げようとしない。
「あの日記が、関係してるのか? 」
アサヒはそう切り出した。それはキョーコにとって図星だったようで、体が震え始め、ポタポタと涙を流しているのが見えた。
「……私は、助けられなかったんです」
そんな中でも言葉を漏らすようにしてキョーコはそう言った。それを聞いて、マブチとユリカは彼女の言いたいことを部分的に察した。
「私のクラスには、虐められていた子が居たんです。クラスで起きていることは知っていたのに、間に合わなかった」
「その子は……」
「亡くなりました。学校の屋上から飛び降りて」
それを聞いて、マブチは日記の内容を思い出す。いじめについて知ったという内容、そして狂気的なまでの謝罪の文章。その原因は、彼女の自責の念から来ていたのだった。
「最初にあった寄せ書き、一人分のスペースが空いてたのはそういうことなのね」
「そうです。あの時は思い出せなかったですけど、今ははっきりと思い出してます」
寄せ書きにあった謎の空間。その時は転校か何かの理由で急遽埋めることが出来なかったのだと思っていたが、そのような背景があったのだ。ユリカはそう納得した。
「ちょっと待て。おかしくないか? 」
それを遮るようにしてアサヒは疑問を呈する。
「あの日記だといじめがあったのは4月からだったはずだろ? なのになんで寄せ書きを書くタイミングまで、意図的にスペースが空けられてんだよ」
マブチはそれを聞いてハッとする。言われてみれば確かにそうだ。寄せ書きを書くシーズンよりも先にいじめによる死は起こってしまったと考えるべきだろう。ならば、何故最後までそれが続いていたのか。
「……いじめが、終わらなかったからです」
キョーコはゆっくりとそう言った。
「いじめで亡くなった子、名前は加藤君と言います。彼が亡くなった後、しばらくクラスには動揺が広がっていて、静かなものでした。でも、クラスの子達は次第に元の生活に戻っていき、次の標的を探し始めたんです」
「同じようなことが起きたのか?」
「……いいえ。彼らが標的にしたのは、私です」
「……!? 」
キョーコのカミングアウトは、あまりに衝撃的なものだった。生徒が先生をいじめるという不可解な状況を信じることが出来なかったからである。
「加藤君にやっていたようないじめから、私の授業の妨害、クラス内でのボイコット。今思えば、あの状況はとっくに学級崩壊していたんです」
キョーコのその話に、マブチ達はそれ以上口を開くことをためらった。彼女の苦しみを引き取れるほど、自分の心に余裕がないことを理解していたからだった。
「だから私は……」
キョーコがそこまで言った時、そのすぐ側にはカゲが立っていた。そしてキョーコの口を塞ぎ、彼女にこれ以上の発言をさせないようにしていた。
「キョーコ様、残念ながらお時間でございます」
「おい、まだ話は終わってないだろ! 」
カゲの自己中心的な行動に激昂したアサヒは、カゲに対して殴りかかろうとするが、その拳は空を切り、アサヒはキョーコを越えて、勢いのまま奥の方に倒れこんだ。
「館からの、退出を」
その瞬間にカゲは姿を変え始め、いくつもの小さい物体に分裂し始める。そしてパレットに絵の具が落とされるように、カゲの漆黒の体には色が付き始めた。
「みん、な……」
キョーコが見上げる先には、数名の子供のような人影が立っていた。
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