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 【 右上の引き出し 】





 「……あの、右上にしませんか? 」


 マブチがボイラー室で手に入った鍵を握り、どの引き出しを開けるのか考えていた時、キョーコがそう呟いた。今4人の中で最も『秘密』に近づいているであろうキョーコの意見を、他の面々は協(・)力(・)関(・)係(・)という歪(いびつ)な関係性から無視することは出来なかった。


 全員で『秘密』を取り戻す。その選択をここで違(たが)えるわけにはいかないのだ。


 「キョーコさんがそう言うなら、僕は従いますよ」


 マブチはそう言って、ボイラー室で入手した鍵を、右上の引き出しに差し込んだ。鍵は途中で何かによって遮られることなく、そのままスッと奥まで入る。マブチはそれを左に回すと、カチャリという音が部屋に響き、マブチは引き出しを手前に引いた。




 そこに入っていたのは、とある新聞の記事が切り取られたものだった。



 【市内の中学校で集団食中毒  児童3名が意識不明の重体】



 その見出しを見て、マブチは記憶の片隅にあった事件を思い出す。


 「これ、去年の事件ですよ。相当衝撃的だったので今も覚えてます」


 それに対してアサヒとユリカは同様に首をかしげていた。アサヒは普段から新聞など見ない生活をしており、ユリカも芸能ニュースにしか知見がなかったからである。


 しかし残る1人、キョーコの顔は、前日のそれよりも明らかに悪化していた。それはつまり、彼女がその新聞の記事に対して、『秘密』が関与していることを認めているのである。


 「あ、あぁ……」


 もはや彼女はその場に立つことすら叶わず、腰を抜かして地面に座り込んでしまう。


 




  ゴトンッ!


その時だった。部屋の外から強い衝撃が加わったかのような音が聞こえたかと思うと、4人の居る部屋の扉がひとりでに閉まる。部屋の中は闇に包まれ、4人は平静を保つことが出来なくなる。


 「な、なんだ!? 」


 「ひいっ! 」


「おい、なんか動いてないか? 」


「部屋自体が、移動してる? 」


 暗闇のまま、部屋には振動が起こり、4人はそのままその場に倒れこんでしまう。機械の駆動音のような音が鳴り響き、部屋全体の振動はさらに強くなった。最早誰が何をしているのかも分からない状況に、4人は混乱することしかできなかった。






 ◇






 謎の揺れは、途端に収まった。すると勝手にしまったはずの部屋の扉が、今度は反対にひとりでに開く。光の導きがあるのはそこだけで、4人は何とか辛うじて部屋の外へと出ることが出来た。


 「なんだよ、ここ……」


 アサヒがそんな言葉を漏らす。引き出しのあった部屋から出た先には、この世のものとは思えないおぞましい光景が広がっていた。




 そこは、拷問部屋とも形象すべき場所。血で赤く染まった診療台、何に使われたか不明な金属器具、そして、床にいくつも伸びている、何者かが這いずったかのような血の痕跡。照明は小さな裸電球がいくつも無造作に吊り下げられているのみで、それもいくつか電気が切れかかっている。チカチカと光っては消えてを繰り返す電球が、不気味さを増幅させている。




 「おめでとうございます、キョーコ様」




 どこからともなく、声が聞こえた。機械が話しているかのような、そんな違和感を感じる無機質な声だった。その声の主は、正体を探るまでも無く、向こうからやってきた。




 「どうやら、『秘密』を思い出されたようですね」


 影。影が、動いている。


 そう思えるほどに、黒く、ゆらゆらとした、形の無い物体。それでいて、そこが目だと嫌にでも分かる白い光が、その漆黒の中に浮かんでいた。


 「……なんで、分かるの」


 「私はこの館の使用人、カゲと申します。皆様の『秘密』に関する情報は全て心得ておりますので、あしからず」


 キョーコの怯えた声に対して、影の姿をした謎の物体、カゲはそう答えた。使用人と名乗るだけはあって、最低限の所作は心得ているようである。


 「さて、キョーコ様。見事『秘密』を思い出されたということで、貴方には白詰の館から出る権利がございます」


 カゲと名乗った存在はそう言いながらキョーコの方へと近づき、手を伸ばす。キョーコは座り込んだままその手を掴もうとした。彼女からすれば、カゲは自分を悪夢から救う救世主のようにも見えたのだろうか。しかし、それが叶うことは無かった。




 パシンッ!




 実態があるのかないのか分からないカゲの手を振り払うように、キョーコとカゲの間に立ったアサヒはその手を弾いていた。アサヒは目の前の得体の知れない存在を睨みつけて言う。


 「待てよ。お前が何と言おうと、俺達には先生のことをちゃんと知る権利があるはずだろ」


 「ほう? 」


「この人がここから出て行くつもりなら、俺は別に止めねぇ。でも、最後に真実を聞く時間くらいはあるんじゃねぇのか」


 「そうですね。では私はしばらく待機しておりますので、ご自由になさってください」


 カゲは意外にもあっさりと引き下がり、キョーコとアサヒから離れた。そしてアサヒはキョーコの方を振り返り、その場にしゃがんで目線を合わせた。




 「この館に最初に来た時、あんたが俺を前向きにしてくれた。だったらどんな過去を背負ってても、俺には隠し事をしないで欲しい。秘密の1個や2個あるだろ、人間なんだから」


 アサヒはそう言って、館に来て初めて笑顔を見せた。その笑顔に感化されたのか、キョーコは涙を流していた。


 「そうよ、ゆっくりでいいから、私たちにもあなたの過去を話してくれると嬉しいわ」


 「僕も同じ気持ちだよ。こうなったのはきっと僕のせいもあるから」


 マブチとユリカも同じように寄り添う姿勢を見せた。それを受けてキョーコは、ゆっくりと口を開き始めた。






 ◇ ◇ ◇





 【 アイテム⑭ 食中毒事件の記事 】 を入手しました。





 目次から「27」へお進みください。






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