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ミコとスイの国の始まり  作者: 佐々礼石 
序章 神々の暮らす地
3/7

笏鳴婆の住処

森は繁っており、どんどんとミコは進む。

既に日は落ちて暗闇の中進んでいた。

不思議と恐怖感はなく、ただ道なき茂みを手でかき分ける様にミコに着いていった。


少し開けた所でミコは止まる。


「よし。ついたよ〜疲れた〜」


「ハァハァ‥やっと着いた。。ってここは?祠?は?」


僕は多分間違えていない。そこは凄く簡易的な、小さな「独立棟持柱屋置」というのだろうか。遠目に見たら鶏小屋に柱が着いただけのツリーハウスの様だった。


笏鳴婆(しゃくなりばぁ)〜起きてる?くたばった?」


暗闇の茂みからその声で鳥がバタバタと飛びさる。僕もビビッた。こんな大きな声が出るなんて。


五月蝿(うるさ)いのぅ!‥なんじゃみぃか。。来ちゃいかんと言ったじゃろうが!」


「おー♪生きてた。(ばぁ)、泊めてよ。お腹空いた〜」


「‥また喧嘩して来たんか。ほれ勝手に上がれ。水瓶(みずかめ)に注いで水もって上がれ!」


 器用に水瓶から少し大きめの木器で軽く洗い水を注ぎ、グビグビ飲む。また注ぎ頭に乗せてトン、トンと飛び上がる。うーん猿っぽい。


「ほら!スイも上がりんさい!」


ともかく僕も二本の柱に空いた足掛けを蹴って上がる。階段などないし、高さ1mくらいなので普通に上がれた。

祠の奥には少し明かるくなっていたが、それは僅かな火がジリジリと小さな皿受けで揺れていた。そこにミコと同じ位の大きさの老婆が丸まっている。


「なんだい、(がき)も連れて来て。みぃ。。ここは知らすなと「婆、ムラ無くなった」‥何だって!?」


弧萼(こがく)が攻めて来て。殺られた。父も村長(ムラオサ)もスイの父大慈おじさんも。皆死んだ」


少し口に詰まったが、婆さんは木器から大きめの葉で水を掬い喉に流し込む。

「‥ほうか。何人逃げれた?」


「小戸の一家は直ぐ北に。後は皆海岸で死んだ。あ。奴さんは逃げたかな?見なかったよ」


「みぃは良く生きてたのぅ」


「ん?切られて死にかけたん。だけどスイが来てくれて。(きょ)が増えて治せたよ!」


「‥ほうか。スイと言ったのぅ。有り難うの。みぃを救って」

「え。。いや僕は何も‥」

「‥妙な言霊を使いよるわの。。ほうか。みぃ相性はいいのかの?」

「うん!うちはスイの氣好きじゃわ♪」

「??あの‥意味がわからない」

「まあゆっくりしてけ。坊主。なんも無いがのぅ。ほれみぃ火種じゃ。裏下に米はまだ有ろうて」

「おう♪握り飯作って来るわ〜」

「あ、僕も手伝い‥」

「ええけえおりんさい。飯は女子(おなご)の仕事じゃけぇ。いろいろ聞かしんさいよ?冥土の土産になりそうじゃわ。イヒヒ♪」


 火種をワラに移し、そっと消えない様にミコは降りて言った。確かに。。空腹感は半端ない。水を一口もらい喉を潤す。

ああ。。こんなに水が旨いなんて!


「しかしムラに()ったのかの?これだけ強い氣はあまり見んし覚えがないはずが。。ほぅ?こっち見てみい?」


婆さんはジリジリと寄ってきて僕の目をジッと見る。

火の明かりが近づきその明暗にさらけ出す皺に驚そうになった。

そのボサボサ白髪姿はまるで。。魔女か。浮浪者か。


「ほうか!双臂(さうひ)か珍しいのぅ。。ふむ、”痛み”は分かった。坊主、何が足り無いんじゃ?」


「”匂い”です。何もかも”匂い”が消えて。。」


「なんと!神五柱(いつはしら)の一つか。。これは」


 ゆっくりと身体を触られ。。ううっ気持ち悪いんですけど!しかし婆さんは腕触りつつ声をかける。


「感じはあるのか?」


「触られているのは分かりますが、なんか人の腕みたいです」


「‥全部は失ってない、か。それもまた人生じゃ」


「えっと‥ありがとうございます?」


それを最後に婆さんはまた水を口に含み息をつく。


僕はぼくで他の事を聞こうかと思うが、どうも疲れている様だ。歩き疲れたのと起きてからいろいろ合ったせいか。森に入り今ここにいる事が不思議と落ち着いた。


外では蟲の鳴き声が聞こえた。

しばらく聞くことがなく酷く懐かしい。初夏を知らせるギーギーと鳴く音が懐かしかった。これはコオロギだろうか。



―――その時気がついていなかった。


あれだけ繁みの中を裸足で歩き回ったのに傷ひとつ無かった事を。

いや、それだけでない。痛みのひとつすら感じない事が当たり前になっていた。




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