第42話
鞄の名札入れ。制服の胸。そのどこにも俺の名前は無い。というかそもそもあの日身につけてたのは制服じゃなくて鎧だしな。少なくともこっちの人間が見て俺の名前だとわかる俺の名前はどこにも書いてなかっただろう。召喚された時落とした鞄は、あいつが背中をさすってくれてる最中は足元に落としたままだったはず。
というかあいつ、記憶が確かなら『おい、お前蘭堂だよな?』って声かけてきてたはずだぞ。
たとえ鞄に俺の名前が書いてあったとしても、地面に落ちた学生鞄の横にいた変な鎧の男にその鞄の持ち主だと判断して声をかける……だろうか? あの時のあいつの振る舞いというか、アクションというか、どう考えても同年代とはいえ初対面の人間に対してすることじゃ無いんじゃ無いか?
それに、俺が何も言わないのに塾生だとも見抜いてたような気がする。さっきあいつは、暗記カードのことを聞いたのは『その後』だと言っていた。つまり流れとしては、俺を見つけて塾に行って暗記カードのことを聞いたら俺の名前が出てきた……そこに俺が塾生だという情報が更新された経緯が無い。塾生だと知っていたのは当然 ってことだ。いや、学生服着て学生鞄持ってここに立ってたっていうんならその判断もわからなくは無い。だけど隣に学生鞄が落ちてようが、鎧着て鉢金つけて地面に伏せてゲーゲーやってるやつを同じ塾の塾生だと思うやつなんて、どう考えてもおかしいやつだろう。『イラ』とか『セイヨウハナズオウ』、『ユダの木』っていうのがそれとどう関わってるのかは知らないけど、間違いなくあいつは尋常じゃ無い。
……まあ、その格好で塾に行くのか? っていうのがカマかけだったと思えば最後のはこじ付けなんだけどな。それでも、あいつはなんか隠してると思う。絶対。
「……とか言って空を睨んでも虚しいだけだよな。俺も塾行くか」
まあ、突っ立ってグダグダ考えている間に『あいつ』ことダテラスはいなくなっていた。別に俺頭回すのそんなに早く無いしな。ぼーっと突っ立って考えてる間に駐車場を出たんだろう。クラスがどこに移動したのかもわからないし、俺もとっとと塾に行かないといけない。あいつのことも、向こうで聞けることがあるだろう。
一番気になるのはやっぱり……あいつがどうやって俺を見分けてるかだ。
別に名前くらいはどこかで聞けたかもしれない。ちょっと俺が忘れてるだけで入塾のクラス分け試験とか一緒に受けたって可能性だってある。自分で言うのもなんだけど、あいつの名前に劣らず俺の名前もちょっと変だ。普通『アルト』って言ったら『有人』とかだろう。っていうか名前に『在』かなり珍しいんじゃ無いか? 一文字だと意味が『いなか』らしいし。親近感を覚えて覚えていたのかもしれない。
だけど、全く変化してないはずの見上げていた顔をただ見下ろすようになるだけで印象が違くて戸惑ってるのに、俺のこの変化をまるで問題にしないのはおかしいだろう。どうしたらそんなことになる?
よっぽど目が悪いとか? それとも人の顔が見分けつかないタイプの人とか? 可能性だけなら色々ありそうだなもんだけど、正直根拠としては弱いよな……そういう普通の基準で考えることじゃ無いってことか? どう控えめに見ても俺のビフォーアフターなんてアハ体験にもならないしな……
っと、塾についた。けどなんか暗くね。
「おはようございます」
「……」
「あの、おはようございます。蘭堂ですけど」
「ああうん、蘭堂くんね」
「……」
「……」
「あ、あの、先週クラス分けテスト受けなおしまして」
「ああそうなの? 悪いけどそういうのはケガク先生に聞いて。今1−3教室にいるから」
「ああ、はい」
ケガク……間楽義太 先生って塾長じゃなかったか? 他の先生は……いないみたいだけど、そうか、試験日程だからいつもより早いのはあるのか。それにしたって塾長しかいないのはどうなんだと思わんでも無いけど、とりあえずどっちかっていうとあれだ。この事務員さん役に立たねーな。その辺に名簿くらいあるだろ。成績張り出したりするのはこの事務員さんなわけだし。
……まあ、ここで愚痴ってもしょうがない。1−3教室行くか……それともいっぺん帰って暗記カード持ってくるかなぁ? どっちにしよう。
いつも読んでくださってありがとうございます。
ここのところ日程通りの更新が滞っていてすいません。




