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第41話

「なんで? なんでって言われてもなぁ……」


 彼は少し困ったように頬を掻く。いや、そんなに困ったような顔をされても困るぞ。困った困ったでちょっとゲシュタルト崩壊しそうだけど、困ってるのは俺だ。

 いや、困ってるわけじゃないけどなんていうか、その、気味が悪い。

 いくら俺が10年の時間を向こうで過ごしたにせよ、誰か知っている人間の落し物なんだとしたらそれを忘れているはずがない。俺は絶対借りパクしない主義だから……なんて話じゃあもちろんなくて、単に毎晩のようにこっちでのことを思い出して過ごしていたからだ。

 魔剣 サーシスの覚醒機能で得た能力 スキルのせいで、俺はほとんど眠る必要がなくなった。それはどんな怪我も病気も毒も相応の時間眠りさえすれば回復するうえに、寝ないでいる期間が寝溜めとしてカウントされていざ眠った時の睡眠の質が向上するというとんでもチートスキルだったわけだけど、逆に言えば必要がないときは眠らない方が都合がいいわけだ。当然一緒にいる仲間に付き合わせるわけにもいかないから、結果的に俺は一人で眠らない夜を過ごすことが多くなった。

 そしてその時間何をしていたかといえば……まあ当然見張りにも時間を割いていたけれど、同時に俺だけしかわからないことを考えるのに使ってたわけだ。たまたま向こうに召喚された時手に持ったままままだった暗記カードを使って勉強したり、ケータイを見ながら電話帳に入ってるはずの名前に思いを馳せたり。正直、ほとんどの時間はこっちのことを思い出すのに使っていたと言ってもいい。

 だからもしこの暗記カードが友人の落とし物だとしたら、そう記憶していないはずがない。ただの落とし物だと認識していたからこそ、自分のものじゃないなんて事すら忘れてたんだと思う。まあ、こいつと知り合いだけど暗記カードのことは知らないで拾ってたって可能性はあるけどな。だとしてなおさら思うんだ。なんでこんなに姿が変わった俺を見分けることができたんだ? と。


「ついこないだここで会った時が俺たちの初対面だったんだろ? 俺の成績は一覧表に乗るほど良くないし、それなのに知らない奴に名前知られてんのは、そりゃちょっと気味が悪いだろ」

「ふむふむ。まあ、俺だったら『ああ、俺の名前も有名になったもんだ』と思って済ませるけど」

「ええ……それって自意識過剰なんじゃ……」


 あ、なんか今己絞……もとい自爆した気がする。

 いやでも、知らん奴に名前知られてるのを『俺も有名になったなあ』で済ませるのは間違い無く間違ってるはずだ。間違ってるよな? それとも普通の中三の感覚ってそんな感じ? 俺が間違ってる? いやいや、たとえ中三の中で間違ってても、世間一般では間違ってないはずさ。


「そうか? 少なくとも俺に待ち伏せされてたとか思ってるお前に言われる筋合いじゃないな」

「ば、別にそんなことおもってねーし。単にお前の名前教えろって言ってるんだよ!」


 っていうか結局お前本当に待ち伏せしてなかったんだろうな? 暗記カードの要件を考えるとそれも疑わしいぞ。


「名前ねぇ。ちなみに俺はお前のカバンに書いてある名前を見ただけだぞ。暗記カードのことはその後聞いた」

「……俺、最後にお前に会ってからかなり見た目が変わったと思うんだが」

「それこそカバンの名前以外にお前を知る基準ないもん」

「いや、さすがにこんだけ見上げるようになったら変に思うだろ!?」

「変って言われても……お前の格好そもそも変だったぞ? むしろなんで今日普通の格好してるんだよ」

「ええぇ……そんなんあるか?」


 もっと変な格好してろってか? 俺に一体何を期待してるんだか……いや、ちょっと落ち着け俺。期待してるとか自意識過剰だってば。

 そうじゃ無くてこうさ、もっと普通の話をするんだよ。なんていうか……


「いや、ていうか名前」

「ああ、俺の? 伊達だよ伊達。伊達羅須 ダテラス。羅須地人協会のラスな」

「いや、そのなんとか協会知らんけども……怪獣みたいな名前だな。ダテって、あの変な字だろ?」

「変な字て……イタチとかじゃなくてか?」


 イタチ? ()たち。なるほどな。そんな読み方あったか。俺初めて見た時別の読み方したんだよな。すぐにわかったけどさ。


「俺、『俺たち』より『俺ら』って方が馴染み深かったし、『イタチ』じゃなくて『イラ』って」

「うがぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」


 どうしたおい、また叫ぶのか? 二回目だからもうそんなにびっくりはしないぞ。


「なんでお前はそう俺のトラウマをビシバシ……」

「ええ、そんなこと言われても知らないぞ俺は」


 確かにちょっと変な読み方をしたけど、それが君のどの円のトラウマを刺激するかなんか知ったことじゃないぞ。なんなんだ? 君も俺と同じで自分んお名前を『イラ』とか読んでたのか? それはさすがに恥ずかしいと思うけど、まさかそんなわけないだろ。自分の名前の読み方なんて普通に考えたら平仮名から覚えるもんだろうし。それとも名前と続けて読むとなんかあったりするのか? 『イララス』……別に怪獣っぽさが増したりもしないよな。


「もういい、なんかお前と話してるとごりごり削れる」


 疲れ果てたような声でそんなことを言われても、俺から言うことは特に何もないぞ。何が削れるのかもさっぱりわからないし。


「お前への俺からの要件は暗記カードだけだし、クラス違うからもう会わねえだろ」

「そうか?」

「そうだよ。もう半年早かったらもっと話でもしようって気になったかもしれないけど、今更だろ」

「そんなもん、かな」

「そんなもんだよ。受験まで後二ヶ月ちょっとだぞ?」

「そっか。もう残りはそんなもんか」

「んじゃ、そういうことで。暗記カード明日にでも持ってこいよ? 今週はずっといるから」

「おう」


 ……あれ? 俺カバンの名札に名前書いてないぞ。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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