第39話
まあ、気持ちがわからないとは言わないぞ? 別に背が低かったわけじゃないけど、俺だってアスリートさ。身長が欲しいと思うことは多かった。実際、俺じゃなくて別の誰かが身長の伸びる奇病にかかって現れたら、感染ることを期待するだろうなーとは思うんだ。
だけど、それとこれとは別。
理屈でわかっててもなんとなく嫌なのだ。
早く帰りたいのに呼び止められてるシュチュエーションだと特にな。
「もういいや。俺帰る」
「まあ待てって、みんなまだいろいろ聞きたいんだよ」
「いろいろってなんだよ、具体的に」
ええい、いきなり堰を切ったように押し寄せてくるんじゃない! 少しは俺の意思を尊重する気配を見せろ。身長勝ってるから微妙にあれだけど、人数いるってだけで威圧感すごいんだよ。しかもほぼ顔に見覚えないしな!
なんだろう、たかが十人前後が周りに展開してるだけなのに、城で衛兵に囲まれた時とは比にならないプレッシャーを感じる。なんかこう、この感触はホラー映画で虫が群れてくる感じに似てる気がする。意図が読めないからか? それとも距離感? あるいは……ちょっと乱暴にしたら目の前の連中が吹き飛んじゃいそうだから? 怖い。窮屈。なんか気分悪い。
両手を上げて俺は思わず悲鳴をあげた。
「ええい寄るな、群れるな! 俺は帰るんだってば」
「おいおい、みんなお前のこと心配してたんだぞ」
「本当に心配してるやつは『感染る?』とか聞かない!」
「いやだってお前普通に元気そうだし」
まあ、そこは否定しないが。だけどなぁ、多少は気遣って欲しいなって思うんだよどうしても。まあお前らは俺のそんな事情気にしないんだろうけどさぁ。
「とりあえずまずはあれだ、ぶっちゃけどうよ。その身長?」
「どうってなんだよ」
質問が雑で答えづらいぞ。
「どうやったらその病気になれるんだ?」
「知らん」
話が繋がってない……っていうかお前誰だよ。
「一週間伸び続けたのか? それとも一気に伸びて成長痛で寝込んだのか?」
「いやそれは」
想定外の質問だな。どう答えるべ……
「制服新しくしたみたいね。ご愁傷様」
「ああ、それは、まあ。どうも」
えっと、ありが……
「試験結果どうだった? お前も補修か?」
「自己採点は……っていうかお前ら」
『も』って……
「とりあえず卓球しようぜ」
「しないから……じゃなくて」
いや……
「今からでもバレー部に」
「入ってどうする受験生!」
……
「高校どこ行くんだっけ? 西條?」
「西木能のつもり」
「とりあえず触らせろ」
「気持ち悪いぞ」
「バスケも楽しいぞ」
「入らんて」
「とりあえずカラオケ行こうぜ」
「いそが」
「それよりボウリングにでも」
「いや」
「だったら卓球でいいでしょ!」
「だ」
だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
「お前らいっぺんに喋るな! わざとやってるだろ!!」
「おう」
「肯定すんな!」
なんかこう、ファイナルウィンドバーンあたりでなぎ払ってやろうか。途中で止めれば全部元どおりになるし、ビックリするだろうけどそれもいい薬になるだろ。
……。
いや、あれはさすがにないな。俺がくらったら間違いなく吐くし。
「とりあえず端から答えるから、そしたら帰れよ。っていうか帰らせろ。点呼」
「イチ……ってやるかよ」
「ニ」
「サン」
「シ」
「ゴッ」
「ロク」
……おい、やってるやついるぞ。
「じゃあ二番からどうぞ」
「俺は!?」
「お前もう散々話したろ。っていうかさっきも言ったけど病気のなり方は知らん」
「ちぇー」
「ちぇーじゃないが。それで、二番は誰だっけ」
「おれおれ」
ええと、誰だろう。比較的背が高い男子。以前なら見上げてただろうな。顔も名前もわかんないけど……まあこいつに限った話じゃない。
「ではお名前とご用件を」
「2番、誉田沫流 。出席番号二十二。カラオケ行こうぜ!」
「寝込んでる間の勉強取り戻したいからいかない。はい次ー」
「3番、以東立一 。出席番号三。身長180オーバーってどうよ?」
「とりあえず電車乗る時頭ぶつける。以上。次の人」
「4番、土甘 まこ。出席番号十八。西條高校でバスケが君を待っている!」
「そういうのは体育の事業で実績を確認してからにしなさい。次の……おいこらお前ら列に戻ろうとすんな!」
「5番、蓮下編 。出席番号二十一。卓球しようぜ!」
「帰らせろ」
……。
…………。
………………結局点呼番号17番まで質問に答える羽目になった。
まあ、割と顔と名前確認できたからいいけど、お前らもうちょっと建設的な質問できねーのか。だいたい帰れと帰らせろしか言ってないぞ。俺。
……まあいい。次は塾だ。
前回実力確認テスト受けた時はいなかったけど、俺がこっちに帰ってきた時に最初に会ったあいつはどうしてるんだろう。いや、どうしてるってことはないけど……どんな顔して会えばいいのか一番困るやつなんだよなぁ。普通にあの時のことは忘れててくれると嬉しいんだけど……無理だよなぁ。
いつも読んでくださってありがとうございます。
ファイナルウィンドバーン……二度と名前を出すことはないと思ってたのに。




