第33話
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「……これは無いだろ」
自分で自分のことを言うことになるからナンだけど、180オーバーの大男が机の下で体育座りしてるのって相当シュールな絵面なんじゃないだろうか? 特に、今いる生徒指導室の机はデスクと言うよりテーブル的な感じで大きいから良いけれど、本来の教室の生徒用の机だったらもっとこう、ギチギチのミチミチになってるんじゃないだろうか?
これで包丁でも何でも、適当な刃物を持っていれば完全にホラーだ。『怪異・机の下のマッチョ』。よく聞く『ベッドの下の男』とどっちが怖いだろうか? 俺は断然マッチョを推すね。
「……」
いや、体育座りなのが悪いんじゃ無いか? とっさにこういう姿勢とっちゃったけど、こんな座り方他でする機会ほとんど無いぞ。正座でもしてみようか? いや、せっかくでかい机の下なんだし足を伸ばして座るのもいいな。なんでもいいからちょっと姿勢を変えて、あ、背中に変な力が入って、なんか、肩が? あづっ!?
ゴギン!
……やべ、やらかした。
手のひらに伝わるこの感触。冷たくて硬質で、握るには少し大きくて丸い筒状のもの。要するに机の足。が、今地面に置いてある左手に掴まれている。つまるところ、まあ、へし折れてる……いや、俺が机の足をへし折ってしまってるってことだ。姿勢を変えようとした拍子に掴んだあげく、転びそうになってこう、うわぁ……やらかしたなぁ……あれだ、体育座りで背中丸めてたのが妙にストレスになってたんだな。見た目だけじゃなく体にも悪いなんて、なんてひどい座り方なんだ体育座り。
……いや、アホなことを考えるのはやめよう。多分『修復 』の魔法あったよな、踏み抜いた橋とか椅子とかを直すための。あとはもっぱら道具にして配り歩いたからほとんど使ってないけど『巻き戻し 』の魔法とか。なんとか早めに呪文を思い出してこれをもとに戻さないと。
ガラッ!
「おーっす、蘭堂いるか?」
「あ?」
机の天板のくぼみにへし折った足を戻そうとした瞬間に、扉が開いて誰かが入ってきた。
口調もそうだし、服も制服だ。明らかに先生じゃ無い。生徒だ。雰囲気的には同じクラスとか、同じ部活の仲間だったってところだろうか? 机の下から伺うようにそっと上を見上げてみると、案の定教師らしくは無い若くて幼い顔、見覚えは……あるようなないような?
「ひっ!?」
……おい、俺の顔見に来たんだろお前。なんで悲鳴をあげる。
「誰だ? 今試験中だろ」
「あ、ああ。なんだよ、ここのところ学校来てるらしいのに会えないから、心配してきてやったのに」
「今俺の顔を見てびびっただろが」
まあ、誰だかわからないのは事実だから、半分言いがかりだけどな。
口ぶりからしてクラスメートかなとは思うけど、携帯に電話やメールがあったわけじゃ無いことを考えるとそれほど親しいやつってわけじゃ無いと見た。能天気な奴がさっきの異常事態に浮かれて、俺の方 を見に来たってとこか……いや、というか俺、一週間学校休んだ上に、学校に行ってる三日間も誰にも会ってないのに、特に誰からも連絡が来なかったんだよな。
「いや、顔じゃなくてさ、目の前で机の足へし折られたら誰だってビビるし……」
「あ?」
「お前なんかめちゃくちゃ恐いぞ!? そんなだったか?」
「俺は何も変なことはしてないし。びびってるお前が変なだけだし」
ヤベェ。うっかりそんなことまでやらかしてたか。
そっと目を落とすと、確かに机の足の銀色がこの手の中にある。どうやら『怪異・机の下のマッチョ』は包丁の代わりに棍棒を持っているらしい。
……机、本当にどうしよう。
「な、なあ、お前本当に蘭堂なんだよな? ちょっと出てこいよ」
「お前が知ってる『本当の蘭堂』ってのが何者かわかんないけどな。俺は蘭堂在人で間違いないよ」
いつまでもそうしていてもなんだし、とりあえず足はその場において机の下から出る……こいつ、170くらいか? 元々とは身長差が逆転してるんだな。さっきと比べると、断然顔に見覚えがな……いや、ある。普通にある。こないだ校門で俺と教頭先生囲んだ生徒の中にいた、面白がって見てるだけで何もしなかったやつだな。今もあの時も特に親しみのある表情じゃ無いし、やっぱり他人だな。
「んでなんかよう? カンニングの疑いがかかるのは勘弁して欲しいんだけど」
「いや、その……」
口ごもってる彼を前にじっと待って、じっくり観察してみる。反応薄いなぁ。しかも俺に怯えてるよなぁ。
「……めんどくせぇ」
「ひっ!?」
おいこら後ずさるな。さっきも言ったけどお前がここに来たんだろうが。呼び止めるような感覚で思わず手を伸ばす。と、彼が後ろを向く。
あ、逃げた。
パタパタと上履きで廊下をかける音がする。なんなんだよもう。
とりあえずドアを閉めて、机の下に戻る。別に何かが恐いわけでも無いけど、とりあえず机の足を戻さないと先生が戻ってきたときが恐いし。
ガラッ!
本日2度目の音。手遅れだった模様。
家に帰ったら早急に『巻き戻し 』の魔法を探そう。
「ふう、今誰かが走っていったようだ……が、うん? 机どうした?」
うん、それは聞かないでくれませんかね、教頭先生。
キャラが増えても名前が出ないのは、別に名前を考えるのがめんどくさいからでは無い……はずです。うん。




