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第32話

いつも読んでくださってありがとうございます。

 イイクニツクロウカマクラバクフ。

 それは、俺が向こうに行ってからだいぶ経って、魔法の扱いというものをわかってきたと思った頃に作った、『発動に失敗しない魔法』の呪文だ。


 そもそも俺が最初のころに作った魔法は、作った……デザインしたときに定めた効果や規模から一切変化させることができない、いわば『完全固定型』とでも言うものだった。

 所定の動作と呪文だけで発動でき、必要に応じて作り直すことは出来るものの……その使い心地が良いわけもなく。やがて俺が作る魔法は、動作の大小やあえて長く設定した呪文の省略する等の手段で調節出来る『能動調節型』になり、呪文を唱える直前のイメージである程度操作できる『イメージフィードB バック型』へと進歩して行った。

 中期にデザインされたカマクラバクフの魔法は当然IFB型であり、同時にその欠点である詠唱妨害、イメージ喪失による不発を回避する安全措置が組み込まれた以後の魔法の雛形となる魔法であった。以降の魔法が常にそうだったことを考えると、限りなく『完成型』に近かったと言える。とくに完全固定型とIFB型のハイブリットとも言えるこの安全措置は、仲間の魔法使いには散々デタラメだの世界の法則が乱れてるだのと言われたくらいだ。なぜって彼らの魔法は常に正しいイメージを必要とし、なおかつ効果の拡大縮小に応じて呪文を変化させる必要があったからな。イメージに失敗すれば不発。呪文のアレンジに失敗すれば不発。うっかり呪文の途中で噛んでも不発……いや、それは俺の魔法もだけど。


 さて、そんな『限りなく完成型に近い』この魔法。なぜこれが完成型じゃ無いのか。


 理由は簡単だ。この魔法の呪文は最初『イイクニツクロウカマクラバクフ』……ではない。ただの『カマクラ』もしくは『バクフ』だったのである。『カマクラバクフ』と唱えると威力が倍になるなんてことはなかったが、できるだけ短いキーワードでの発動を求めた結果だった。その結果……暴発しまくった。後にちゃんと『イイクニツクロウカマクラバクフ』に作り直したものの、それでも数回暴発した。というか俺がさせてしまった。

 よりによってみんなに『環境破壊魔法』と恐れられたこの魔法を。



「き、君は今の……いや、今は試験……うむう!?」

「あ、あの、先生?」

「試験は中止だ! とりあえず机の下に隠れていなさい!」


 それだけ言うと先生は生徒指導室を飛び出していく。

 すごい素早いな。ちょっとびっくりした。というか、感動した。意外とちゃんとしてるというか、人を校門で呼び止めて詰問するだけのことはあるというか。でも残念ながらドアを開けっ放しにして出て行ったので、隣の職員室で先生方と一緒に騒いでるのが普通に聞こえてくる。どうやら大混乱のようだが、今の所一番ありそうなのは隕石だそうだ。なかなかぶっ飛んだ話だと思うのだけど、確かに隕石がプールに飛び込んで水が衝撃で溢れたとするのが一番妥当なのかもしれない。

 さて、それでなんだけど、俺がおとなしく机の下に隠れてこの事態が解決するだろうか? というか、この事態はどう発展するんだ?

 ちょっと考えてみよう。

 『環境破壊魔法カマクラバクフ』。

 枕詞である『良い国作ろう』とはかけ離れた評価が下されたもんだ。俺としては元来の用途に合わせて制圧魔法という名前を推していたのだけど、残念ながらそれは認められなかったし。

 その効果は……まあ、簡単に言えば『水を大きくして冷やしながら暴れさせる』。

 この魔法は水というものをの体積を読んで字のごとく最低200万倍にまで拡大する。小さめのコップ一杯分の水で25M×12Mのプールを腰まで満たすことができるといえばイメージしやすいだろうか? それは当然水を対象にして使った場合だけど、例えば空気をねらって使ったとしてもそこに含まれる0.1%の水蒸気を100%強まで拡大するということだ。この三日で思いついて調べたのだけど、平均的な空気中の水蒸気量は0.4%だそうから、1リットルの空気が4リットルの水になる。そしてその全てを氷にできる力もある。

 最大出力で放てば小さな火山をふさぐことすらできる……一時的にだけど。

 さて、そんな馬鹿げた魔法であるこれの安全措置は自分で言うのもなんだがひどい内容だった。とりあえず近くにいる相手の気をそらすのにさえ使えればと思ってデザインしたわけだが、半径20メートル以内の最も大きい水源を対象にしてそのうちほんの1リットルを拡大、そのうち一割を氷に変えながら暴走させるというものだった。水の体積が増えた瞬間にものすごい爆音がするし、周囲の気温も軽く5度は下がるんじゃ無いだろうか。はっきり言ってこれが発動した時思わず水源の方を見ない奴はいなかった。そして警戒虚しく対応できないままそのあと訪れる洪水に押し流される。

 1リットル、つまり1000ミリリットル。小さな (150)コップ ミリリットルのおよそ7倍。つまり今暴走した水の量はプールの7倍である。それが氷混じりの水として溢れ出て、降り注いだ。おそらく校舎全体の温度がだいぶ下がっていることだろう。それほどのことであり……逆に言えばたったそれだけのことだ。

 そろそろすべての水が消えている頃。拡大した水が押しのけた量はあるにせよ、それもせいぜいプールの容積の3分の1くらいだろう。間も無く地面が濡らした痕跡も7分の1以下になるわけで。冷えた気温はさすがに戻らないけれど、本当にたったそれだけなのだ。

 いくら大騒ぎしてもにわか雨と集団幻覚以上の結論は出ないだろう。プールの水が減っていることが証拠として残ったとしても、隕石や爆発物の痕跡があるわけでも無い。

 今元気よく廊下を走っている先生方も、五分もしないうちに首をひねりながらここに戻ってくるんじゃ無いだろうか?


 結論、これはもうどうにもならない。どちらの意味でも。


 よって俺はせいぜい適当な石でもプールに放り込んで隕石説を推すくらいしかできることは無いだろう。それだって適当に焼け焦げた石ころを用意して校庭の端にでも置いておけば、後で水と一緒に流れ出た説を主張できる。今すぐ何かをする必要は無い。


「……寒ッ」


 とりあえず暖房の温度あげたいんだけどダメかな。だめだろうな。どうしよう。


「……ん?」


 ドアの向こうで気配がする。もう帰ってきたのか……カンニングとか疑われても面白く無いしおとなしく机の下に入っておこう。あ、もしかして試験明日に回されたりするかな? テスト休み楽しみにしてるみんな、ごめんね。

ファンタジー世界にいたせいか、主人公は結構おおらかというか、考えが甘くなっている気がします。

当然石ころがあったところで隕石説など推せるわけが無いです。



《魔法:カマクラバクフ》

成り立ち:氷精霊2と水精霊9、炎精霊8、風精霊1と、かなりの精霊を合成して作った魔石『イグアスコア』の魔法であり、その後の魔法を年号の語呂合わせにすることを決定付けた。なお魔王のしもべだった溶岩スライム(?)と溶岩ゴーレム(?)が溢れだす洞窟を叩き潰すためにデザインされた。

詠唱:『イイクニツクロウカマクラバクフ』と口頭で唱えるだけ。

効果:氷雪混じりの大瀑布を一時的に召喚する魔法。という解釈が一番正解に近い。

余録:

・呪文が短く使いやすい反面、威力と魔力消費が派手。しかもうっかり言うだけでも発動する。

・イグアスコアの名前の由来は世界三大瀑布イグアスの滝。

・周囲でもっともたくさんある水、あるいは周囲の空気中から集めた水分子をひたすら拡大(倍率200万倍)し、半ば凍りつかせながら誘導する魔法。滝のように叩き落とすだけでなく、空中を龍のようにうねらせることも可能なはずなのだが、彼にはそれだけの技量がなかった。

総評:威力手軽さともに申し分なく、落下地点とその後の流れる方向まで指定できるので味方に被害が出る確率はそう高くない。ただ、威力の制限ができないためオーバーキルになりがちであり、地形へのダメージがでかい。

総評:

・威力が必要な場面では有効。ただし暴発多し。

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