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第30話

いつも読んでくださってありがとうございます。

「椅子は……パイプ椅子か。うお!? 触ると結構ギシギシ言うな……ちょうどいい、試そう。確か……『ジュネーブヨンキョトウゴーゴーバンドンレイセンシュウケツ・AAカイギ』!」


 呪文とともに右手を差し出すと、手のひらから現れた四つの半透明な三角形が大きさを増しながらパイプ椅子の周りを飛び回り、三角錐を形作る。まるで結界かなんかのようにパイプ椅子の周りをくるくる回って……ちょっとだけ光って消えた。


「本当に出たな……」


 体重の増加が不便に感じるようになった頃作った魔法、自分がぶら下がったロープが切れないように作った魔法だ。機能は単純に、一時的な不壊 アンブロークンステータスの付与。後々これが無いと色々不便なことに気づかされてとても重宝した魔法だが果たして……?


「ん、問題なく使えるな。家に帰ったら色々使って……いや、それより筆箱の中身だな。ん……あとで人気の無いところでやろう」


 先生がいつ来るかわからないのに、あんまり危ない橋は渡れない。今回は椅子を壊したほうがまずいからやったんだ。

 しかしどうやら魔法はちゃんと機能するようだ。あまり魔力が無いように見えるこの世界でちゃんと使えるとはな。もっと早く気付いてればなぁ。まあ、いまさらしょうがないんだけど。それどもなぁ。

 うー……なんだかなぁ。

 っと、ドアが開いて誰かが入ってきた。


「遅くなりました」


 生徒指導室のパイプ椅子でぼーっとすること体感10分。なぜか呼ばれたはずの佐竹先生 たんにんではなく、再び教頭先生が現れた。ちなみに時計を見たらぴったり10分だったから、案外俺の中には時計とかも入ってるのかもしれない。無節操に旅のための道具を取り込んで、まとめてくしゃっと一つにしたりもしたしね。


「ええと、蘭堂在人君、本人のようだね。すまなかった」

「いえ、ご理解いただけたようで幸いです」


 どうやら理解してもらえたらしい。決め手は……多分先生の右手の謎の紙だな。何だろう?


「お母様からFAXで診断書が送られてきてね。最初聞いた時は冗談かと思ったが、わざわざこんなものを偽装することも無いだろう」

「は、ハァ」

「なんというか……大変だったね。体の調子が悪い時はすぐに保健室に行くんだよ?」


 診断書ですか。帰ってきた直後、俺が寝込んでる間に近所の病院から先生を呼んだって、あの時のかな。日付的には変に思っても良さそうなものだけど……そこはうまく説明したってことかな。いや、あんまりうまくなかったのかも。

 先生の口調は優しいし、態度も普通だと思う。ただ、本人の前で声に出して『偽装』とか言っちゃうあたりは、まあ、信じきれてないってことなんだろう。真相を説明したほうがよっぽど信じられないだろうけど、それを端折ったら信ぴょう性が増すわけでなし。細かいことは気にしないほうがお互いのためだろうな。

 さてと、とりあえず俺は教室に行っていいってことなんだろうか?


「ところで蘭堂君、時計に気づいてるかね?」

「はい?」

「時計は見たかね?」

「はあ、8時半ですね?」


 さっき確認した時28分だったからな。体感2分で、今30分だろう。それがどうしたんだろうか。


「……君」


——キーンコーンカーンコーン——


「ぐあ!?」


 すごい音がする。電子音? 頭が、音が頭に響いて!? とっさに耳を塞いで顔を上げると、目の前で教頭先生が口をパクパクしている。喋ってるんだろう。だけど今の音がまだ頭の中で反響してるせいで何言ってるのかわからない。

 ……じょう……ね? ……とくん…………どうか……たか……

 まあ、言いたいことは何となくわかるけど。

 っていうか、何だこの音、すごい急がなきゃいけない気分にされるんだけど……っと、止まった。


「あの、先生、俺教室に行かないと」

「あ、ああ、大丈夫かい?」

「はい、ええと? 今のは」

「ああ、チャイムは鳴りましたけどそのことでね。君にはここで試験を受けてもらいます」


 チャイム……? チャイム……チャイムってあれか。授業が始まる時に鳴るやつ。一瞬なんでこんな中途半端な時間に鳴るのかと思ったけど、学校の、朝のホームルームのチャイムってこの時間だったっけか。それで試験? 試験を受けろってどういうことなんだ? 俺の実力を暴く的な……? 違うよな。試験……試験……ああ、テストのことか? 試験と言われてとっさに剣を振り回したり、村一番の力自慢を叩き伏せたりするシーンが頭の中に浮かんでたよ。まだ慣れてないなぁ。こっちに。

 あ、なんか変なこと言ったな。帰ってきたのに慣れてないとか……いや、どうでもいいけどさ。

 ……じゃなくて。何で? 俺、教室行きたいんですが。


「いやね、佐竹先生と相談したんだけど……君が教室に入ったらみんなが落ち着かなくなっちゃうでしょう?」

「え」

「今朝私が校門の前で騒ぎにしちゃったこともあるけれど、それを差し引いてもねぇ……」


 先生は無遠慮な視線で上から下までじっくりと俺を眺める。

 思わずムッとしたが、それはまあ、わかっていたことでもある。実際俺だって、教室に行ったらクラスメイトのことばかり気になってテストをまともに受けられないかもしれないしな。ここは大人しくしよう。


 ……あ、筆記用具に魔法をかける時間が無い。

魔法の呪文と効果の組み合わせは結構フィーリングです。

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