第28話
いつも読んでくださってありがとうございます。
今週もがんばります。
さて。どうせ騒ぎになるとしたら教室だろうと思って、呑気に盲腸という病気のことをウンウン唸りながら考えていた俺だったけど、現実はそんなに甘くなかった。
いや、道すがらびっくりした目で見られることはあったけど、身長が180越えてる生徒がいないわけじゃないし、俺だって生徒の顔を三学年分全部知ってるわけじゃない。試験期間だから普段と違う時間に登校してる生徒だなー……くらいに流して貰えると思ってたんだ。
甘かった。
登校時間関係なく、ほぼすべての生徒の顔を知っている人間が普通にいた。
「ん? 君生徒手帳見せてくれる? うん、おじさん毎朝ここで見てるけど、君みたいな子は知らないなぁ。いや、背の高い子は目につくからねぇ、ほんとにうちの生徒かい?」
教頭先生。身長170ちょい也。そうですね、若干見下ろすことになったから最初はピンと来なかったけど、毎朝ずっと校門の前にいましたもんね。部活の朝練があるときは毎回目礼だけしてた覚えがあります。
いや、ぶっちゃけ見てもわかんないけど、他の生徒におはようって挨拶してるのが気になったというか覚えがあったというか。結構大きな声でおはようって声をかけられて、『う、うっす……』とか言いながらそそくさと立ち去る情景がね。頭にね。なんとなく浮かぶんだな、これが。
……周囲からの好奇の視線がいたたまれない。
「えっと、これ、生徒手帳ですけど」
「ふうん……あぁ? 蘭堂在人!?」
そんな大きな声で名前呼ばないでくれ!? 目が! 視線が!? こっちだって怪しいのは十二分にわかってるんだって!
「おじさんねぇ、彼のことは知ってるんだよ。小さくても堂々した子でね、君みたいに大きい身体縮こまらせたうえに下を向いて歩くような子じゃないよ」
そ、そうなんですかね。俺の記憶ではそそくさ立ち去ってるんだけど、実は勘違いなのかな……しかも褒められてる? まあその相手が俺を俺だと認識して無いんだけど。
ところで何で教頭先生自称が『おじさん』なんですか?
「そういえば彼、一週間くらい休んでたな……」
「いや、あの、教頭先生」
「君のような怪しい人間に先生と呼ばれる筋合いはない!」
なるほど、だからか……じゃなくて!
「病気で休んでたんです、そのそれでなんか背が伸びちゃって」
「はぁ?」
全く信用してもらえない……まあ、そりゃそうだよな。と、思わないでも無いんだけど……困る。学校に入れないなんてことは想定してなかったぞ……いや、入った後『誰?』って聞かれる想像はしてたけど、それにしたってそのあとのことを考えていたわけじゃなかったな。
というか今更だけど、そんなにわからなくなるものなのか? 身長は伸びたし筋肉はついたけど、伸び放題だった髪や爪は、寝込んでる間に母が整えてくれてたわけで。顔自体ははほとんど変わってないんだ……ですよ? 多分。10年ぶりに再会した幼馴染がーとかって、ラブストーリーの定番じゃ無いか。それで顔がわからなかったら喜劇にもならないぞ? あ、いや、だからラブストーリーになるのか? それとも適度に離れている期間があるから顔がぼやけて逆にわかったりするのかな……って、今は関係無いなこれ。
うーん、しかし困った。どうやって俺が本人だと証明すればいいんだろう? 生徒手帳、名前書いてあるだけだもんなぁ。写真でも貼ってあれば良かったんだろうけどそんなのないし……
「ええと、その……」
「んん!?」
うえぇ、怖い。怖いけど、自分よりちっさいおっさんに威圧されるのってどうなんだろう?
ぶっちゃけそんな自分含めてファイナルウィンドバーンあたりでまとめてなかったことにしたい気持ちがもりもり湧いている。まあ、この世界にあんなもの放り出すわけにはいかないし、実際やったら大問題になるのがわかってるからできないけど。
……でも考えるだけならいいかな。できないことをこうやって夢想するのは、それはそれでちょっと楽しいというか。ちょっとしたストレス解消というか。まあ、できないからちょっと虚しいけど。いわゆる学校がなくなっちゃえば的な……いや、今の俺があんまり具体的なことを想像するとシャレにならない。
「だいたい君な、なんで私が呼び止めたかわかるかい?」
「え、はあ……なんでですか?」
「その制服が明らかに新品だからだよ! この時期に新品の制服を着ている3年生なんているかね!」
「いえ、だから体が急成長して」
「ああぁん!?」
「ひっ」
詰め寄られて思わずあとずさる。ぶっちゃけ校門前の生徒たちのボルテージはマックスだ。みんな完全に物見遊山で立ち止まってしまい人垣になってる。後ろの方は何がなんだかわからず足止めをくらっているだろう。あ、なんか聞こえる。一番外の奴が自分の前の奴に何が起きてるのか聞いてる声だな、あれは。
しかしどうすればいいんだろう。意外と力 ってあるだけじゃ何もできない。
力……力……使い方……? だめだ。何も思いつかない。アプローチを変えよう。
力……責任……ヒーロー……なってほしいわけじゃ……母さん……んん?
「あの、母から電話が来てると思うんですが……」
「……お母さんから? なんて」
「いえ、息子が病気で休みますとか、学校行くけど大きくなってますとか……その……多分……」
「だから、それで何を信用しろというんだね」
いや、母さんからの電話信用できないって言われたら何も言えないじゃ無いですか。
「ふん、まあいい。職員室まできたまえ」
「あ、はい」
まだ信用はされてない……と思うけど、とりあえず校舎内には入れそうな空気になった。
いまんとこひたすらやな人教頭先生。
ただ、実際は前日のうちに学校に顔を通しておくとか、他の生徒がいない早い時間に来ておくとか、そういう対応が主人公にもあってしかるべきだったと思います。
おまけ魔法事典
《風魔法:ファイナルウィンドバーン》
成り立ち:
初期にのりと勢いで作った『神魔の張り手 』こと芭蕉扇的な武器の魔法。なお『神魔の張り手』には試作品の『神のビンタ 』がある。
詠唱:
『ゴッドスラッシュ!』『デビルスラップ!』と言う掛け声と共に、それぞれ左手で水平チョップと平手打ちを空振りする。
効果:
一刀目の水平チョップで半径30メートルの周囲をねこそぎ にし、返す平手打ちで全てを吹き飛ばす。
余録:
・どちらも左手を180度振り切らないと発動しない。
・途中で動作を止めると鎌鼬が無かった事になり、全て元通りになる。その場合普段の10倍(体脂肪1キロ分くらい)の魔力を消費する。
・範囲がおおざっぱで狙いがつかない。うっかり喰らった仲間も多い。
総評:
ピーキー過ぎて使い出が無い。
なお道具としては扇がなければ良いので安全な方。当然みんなのトラウマであり勇者の黒歴史の一角……なのだが、彼をいじるために頻繁に話題に上がった。




