↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/46

第27話

いつも読んでくださってありがとうございます。

 おおよそ11年ぶりの通学路を歩く。

 案外道は忘れていない、というのはこっちに帰ってきたばかりの頃に悟ったことだけど、一応昨日のうちに確認もしたから、心配は無い。

 実際、少し歩いているとちらほらと俺と同じ服……中学の制服を着た子が目につく。


 おはよー。

 おう、おはー。

 おはよう。

 おはようございますセンパイ!

 おっす。

 おいーっす。

 うっす。

 押忍!


 お互いの顔を見てすれ違いながら口々に挨拶の言葉を交わし、あるいは手を取り共に歩き出す。これが朝の通学路というものか。懐かしいような、そうでも無いような……うん、違和感がすごい。

 そう、言っちゃなんだけどちっちゃいよな。みんな。

 これが180の大台に乗った者の視界ってものなのか……其れとも11年という時間の重みを積もらせた俺の、人間的な成長の成果というやつなのか。その辺は判断に迷うところだけど。


「……」


 いや、11年の重みとか俺に積もってるわけ無いよな。たとえあっても、この一週間で俺ごとコテンパンになってるだろう。ここのところ全然何もわかってないことが露呈するばかりで、ほぼほぼ母さんの負んぶに抱っこ状態だった気がするし。


『久しぶりだな。背が伸びた……ということは無いようだが、落ち着いて見える。今のお前は召喚されたばかりの頃の頼りない子供じゃ無い。まさに英雄の風格、勇者というに相応しい佇まいだよ。安心して、それから自信を持て』


 思い出すのはそんな言葉。

 あの時久しぶりに再開したハルディン=ボナートが褒めてくれたのは決してお世辞なんかじゃなかったはずだ。なのにこっちに戻ってすぐこれじゃあ情けないにもほどがある。もしかして俺って叩いて伸びるタイプ……というか、重石を載せて無いとすぐ丸まってダメになちゃうタイプなんだろうか。調子に乗りやすかったあたりにそういう兆候はあったかもしれないけれど、一度決めたらバシッとキメれるのが俺という人間なんじゃなかったのか。

 なかったんだろうなぁ。


 はよー。

 おっすおっす。

 よう。

 元気?

 うん、元気元気。

 ねえねえ。

 お、お前か。


 そういえばなんだけど、俺ってこういう時なんて言ってたんだろう。其れともあまり友達と出くわしたりしなかったんだろうか。仮にも部活に参加してたわけで、陸上部といういわゆる体育会系の部活である以上朝練とかもあったはずだ。というか朝練のために誰もいなさそうな校舎内をうろついてる自分が確かにイメージできる。そうなればなんかこう、あったんじゃ無いか? 一列に整列して、校門の前で『おはようございまーす』とかいうやつ。それは無いにしたって、朝一で一緒になった部員と何かしら挨拶をしたりもしたはずだ。

 こう、なんだろう? さっきからしきりに頭に思い浮かぶ情景がある。

 教室で、廊下で、通学路で、校門の前で。

 顔が黒く塗りつぶされた誰かと俺が、お互いに顔を向け、右手を上げて何か言葉を交わしている。

 それは、たいした内容じゃ無い。『よう』とか『おう』とか、多分そんな内容で、教室に荷物を置きジャージを着た二人は連れ立ってどこかに歩き出す。そんな風景だ。

 なんか言ってる。

 絶対この光景はあったし、その時なんか言ってる。


「でも、顔が出てこないんだよなぁ……」


 ぼそりと、口をついて出た言葉。絶対にこれはその時の言葉じゃ無い。

 もしかして、イメージ通り朝練の時間に教室にでも入ればもうちょっとイメージが湧いたんだろうか。今は残念ながら普通の——何が普通かはさておいて——登校時間だ。学校に着く頃には教室の三分の一から二程度が埋まっていて、遅刻すれすれに入ってくる一部の生徒を見守る立場になることだろう。

 ……これは、予想なのか、経験なのか、確信なのか。

 さらっと頭の中で転がった言葉に疑問を持つ。

 こう、なんだろう? 教室にいる人間の人数とか、どうでもいいことが普通に頭に浮かんだ。それならもっとクラスメートの名前とか、なんかこう、もっと出てきてもいいんじゃ無いのか? ……いや、きっと意識して思い出そうとするからうまくいかないんだ。ここ数日いろいろあったけど一つはっきりしてることがある、それは意識しすぎると何事もうまくいかないってことだ。

 ついさっきまで普通に持っていたリンゴが自分の怪力を思い出した瞬間爆発したり、歯を磨いてる最中に変な想像をしてうっかり喉に突き刺してしまったり、そーっと触ってるつもりでうっかり水道のハンドルを握りつぶしそうになったり、そういえば椅子は大丈夫なのかな? とか思った瞬間に足が折れたり。

 ……久しぶりに母さんの手伝いでトマトを切ってる最中だったから、椅子の足が折れた拍子にうっかり落とした包丁が俺に向かって落ちてきたんだよな。

 あれは痛かった。切れてホッとした自分にがっかりしたけど……母さんにも心配かけちゃったし。

 そういえばなんか一人でブツブツ変なこと言ってたな。モウチョウがどうのとか。

 モウチョウってなんだっけ。病気……だよな? 入院するやつ。

 あ。

 あああああ!?

 思い出した! クラスメートに一人盲腸になったやつがいたぞ! ええと、宇藤とかそんなやつ。いや、クラスメートじゃなくて隣のクラスだったんだ。盲腸で入院したって聞いて、だれかがなんか騒いで、退院したところをみんなでなんかよくわかんないけど見に行って! 見に行って、見に行って……なんかがっかりして帰ってきたんだよな。

 なんでだっけ。

主人公は『盲腸を入院する病気』としか思っていません。

ちなみに宇藤くんは盲腸を薬で散らしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。