第23話
いつも読んでくださってありがとうございます。
へうれーか! へうれーか!
えーっと、サインペンは筆箱の中。マッキーは机の中。ホワイトボードマーカーは……水性だから使えない、よね。
「母さん、マジックって水の中で使えるかな?」
「使えないと思うけど、どうして?」
「ちょっと印をつけるのに使いたいんだけど……」
「そういうの買い物の最中に言ってほしかったわ……ええと、吸盤じゃダメなの?」
「吸盤って水の中で使えるんだ? ……あー、でもうちの風呂って古いからタイル張りじゃん、小さいやつ。吸盤のが大きくて使えないんじゃ無いかな」
「浴槽で使うなら、タイルを印代わりにできないの?」
「あ、そっか」
……なるほど。確かにそこまで精度が欲しいわけじゃ無いし、それでいいかもしれない。
「それと」
「ん?」
「たとえ使えてもお風呂でマジックは使わないで欲しいわ」
あー。
「そうだね。あと空いてる牛乳パックは?」
「切り開いてないのってこと? 無いわ。残り三分の一くらいのならあるけど」
「それでいいや、飲むから」
「なにに使うのかわからないけど、綺麗に洗ってから使ってね」
「うん」
冷蔵庫から出した牛乳を一気に飲み干して、水洗いする。計りに乗せたまま水を入れ、1キロを計れたところで切り取った。これで1リットル、つまり1000立方センチメートルが計れるわけだ。
人間の比重は水に極めて近いらしい。つまり1立方センチメートルあたり1グラム。(身長センチメートル)−105が適正体重キログラムらしいから、俺の適正体重は82キログラム前後。よって体積は平均して82000立方センチメートルになるわけだ。あるいは82リットル。風呂の面積がわからないけど、せいぜい100センチ×60センチと見て12センチ程度水位が変わる。
なんで必死にこんなことつらつら考えてるかって?
実は体重が350キロを超えていた。
聞いてる俺はなにを言われてるかわからないと思うけど、俺も自分がなにを言ってるのかわからない。っていうか聞いてるのも言ってるのも俺しかいないけどただひたすらにわけがわからない。
デパートのレストランコーナーで昼を済ませた後、帰りに母さんと別れ約一週間ぶりに……体感では約11年ぶりに、高校受験のために通っていた塾に向かった。一つは学力を確認するためのテストを受けさせてもらうためだ。休んでいた間にどれだけ引き離されたのか、客観的な情報がほしい。場合によっては志望校のレベルを下げないといけないし、下手をすればクラスを降格することになるだろう。これはあらかじめお願いしてあった。それから二つ目は……ちょっとした思いつきなんだけど、運動する ためだ。
この塾、駅の近くのなんて事の無い5階建ビルの2階に構えているのだが、店舗が入ってるのがそれと一階の回転寿司だけで、そこから上は埃をかぶったオープンフロアになっている。要するに階段と柱以外なにも無い。足音が響くことを考慮しても、4階まで上がれば人目につかず走り放題だ。鍵? そんなの何年も前の先輩がこっそり開けてある。まあ、使ったことは今までなかったし、使ってる人も見たこと無いけど。
さて、そんな素敵なビルには5人乗りの小さなエレベーターが付いている。普通の人は一階の回転寿司にしか用は無いだろうし、二階に用がある人間は皆若いのでいちいち待ってまでエレベーター使うことも無い。重量制限350キロ。
これに乗れなかった。
今日一日エレベーターにもエスカレータにも乗らせてもらえなかったので、ちょっとした悪戯心のつもりでボタンを押した。時間はあったし、楽をしたいと思ったわけでも無い。なんだけど。なんだかな。つい乗ってみたのだ。
そしてビーッ! だ。
最初は何かの間違いかと思ったけど、一回降りて乗り直してみても鳴るし降りれば止まる。天井のパネルを開けてみてもそこに誰かがいるなんてオカルティックな話があるわけじゃ無い。というか、天井の上を除くためにジャンプしたらめちゃくちゃ揺れて怖かった。
何が何だかわからなくて、気もそぞろで試験を受けることになった。血kは散々だったと思う。そもそもの学力が散々だったと思うけど、とにかく怖かったんだ。体重のことも揺れたことも。
地震大国日本に住む日本人がなにをと思うかもしれないけど、向こうで地面が揺れるっていうと主に吊り橋とか巨大な幻獣の闊歩とか、それから雪崩とか近場の火山の噴火だったからその度に結構ひどい目にあった。確かに元々は地震慣れしてたはずだけど、最後の方は結構地面が揺れるのが怖くてしょうがなかったっけ。本当に怖かった。船にもほとんど乗らなかったし、そのせいかこの一週間で一回、震度3くらいの地震に遭遇した時は相当怯える羽目になった。いや、本当に怖かった。魔法使えないし、無敵でも無いんだ。
……怖かったしか言ってない。閑話休題。
すぐ思考があさってに飛ぶな。
とにかく、今俺が知りたいのは俺の体の大きさと重さのバランスだ。つまり比重。
確かに俺はでかくなった。母さんに、体重が人の二倍はあるって言われてあっさり納得するくらいでかくなってる。
でもいくらなんでも350オーバーはおかしい。そんなの人間らしさというものからかけ離れすぎている。と思う。だけどもしかしたら、それに見合った大きさが、この体にあるのかもしれない。それは、測ってみなきゃわからない。だからとりあえず体積だ。確実に計れるものから潰していこう。それ次第では、ここ一週間何度も風呂で溺れかけたことの真相がわかるだろう。
知りたいんだ、この体が一体どうなってるのか。
「じゃあ風呂はいりまーす」
「はーい」
……ふと思った。
あの日母さんが家に医者を呼んだのは、外の病院でこの体の異常性を見世物にされることを恐れたんじゃなくて、単に運べなかったからだろうか。
うん、それっぽい。
前書きでいきなりなに言ってんだこいつ? とか思ったかもしれませんが、
アルキメデスの法則を用いた時の常套句なのですよこれは。
ギリシャ語で『わかった!』という意味らしいです。




