第22話
いつも読んでくださってありがとうございます。
最近更新日のPVが1000越えすることがあって嬉しいです。
目を隠していた手を、母さんが外した。振り向くとニッコリと微笑んでくれる。
映画で聞いたような台詞で何を真に受けてるのかという人があるかもしれない。だけどフィクションの台詞だって人が作った人を動かすための言葉だし、母さんが選んだ言葉だ。そこに冗談やおふざけが含まれていないわけじゃ無いけど、ちゃんと俺のことを考えて選んでくれたことはわかる。だから俺はその言葉の通り、俺の力にちゃんと責任を持たなきゃいけない。そのためには……そのためには……
「あ、でも」
「ん?」
「あっちゃんに危ないことして欲しくは無いからね」
……え?
あのセリフで彼はヒーローを目指したんだよね? 今すぐヒーローになれって意味じゃ無いにしても、一段落したから上の様子を見て解決できるならしてこいってことじゃ無いの? いや、今の俺がたかがペットショップの小動物相手に危ない目にあうかっていうとそんなことは無いとは思うけど、危ない目にあって欲しく無いってそういうことじゃ無いよな。
力に伴う責任ってあれだろう? 力を持つものは持たないものを守らないといけないってやつだ。向こうの世界でもよく聞いた。というか『勇者は勇者としての力を授けられたのだから、力を持たぬ者たちのために戦う義務がある』って。それが、俺が最初に剣を持たされた時の言葉だった。
はっきり言って最初はすごく反発した。
別に、元々の生活に何か不安や不満があったわけじゃ無い。受験勉強で忙しかったからそういうのを考える暇がなかっ他のかもしれないけど、とにかくそういうのはなかったんだ。それがいきなり異世界に呼び出されて『力を与える』『魔王を倒せ』『お前にはその義務がある』なんて言われて、受け入れる方がどうかしてると思う。
その上もらったスキルが不老に不死に無敵だ。そりゃ面白半分に憧れることはあっても、いざ物の試しにと切られ殴られ炙られて、一切の痛痒を覚えなければ何が何だか分からなくなって恐怖に喰い殺されそうになると思う。
だけど魔剣 が言ってくれた。
自分を手放しさえすればこれは全部夢になるんだ、って。
死にかけのハルディン=ボナートが詫びてくれた。
全ては僕の至らなさ故だ、君は逃げてもいいんだ、と。
今思えば吊り橋効果というか、ギャップにほだされただけだろう。みんなが勇者に期待する中で、無理をするなと言ってくれた二つの言葉に。
だけどそれで思ったんだ。確かに俺には力があって、なおかつ逃げ道がある。
どうせ全部夢にできるならちょっとくらい戦ってもいいんじゃ無いかって。
少なくとも、片足を失ったのに泣きながら俺に謝ってる少年と、そいつが魔王から奪ってきた剣とやらが悔しがってるうちは、少しくらいその代役をしてもいいかと思ったんだ。
そうして目を開けてみれば、世界は思ったより広くて狭くかった。
剣を持って人の前に立ってしまえば、もう見て見ぬ振りなんてできなくて。人が魔物に襲われるのを見て黙っていられるはずもなくて。気がつけばあっという間に世界の事情に飲み込まれて、勇者 をやっていた。最初はもちろん……と言ってもいいのか。ただ『無敵』のゴリ押しで戦っていたけど、それでは仲間が犠牲になったり人質が取られるのだということを思い知った。
戦いのために自分ができることを調べて、相手が何をしてくるのかを考えて。必死に戦い方を考えて。敵を倒して。
だけど、今思えば彼らの言う『責任』というのは随分簡単なものだったと思う。
だって最終的にただ魔王を倒しさえすればよかったんだから。
たとえ一度敗北しようと、10年の月日を彷徨い暮らそうとも、その後の間に誰に何があったとかみんなどうでもいいみたいで、世界の外側から内側に戻った時の仲間たちの第一声は『早速魔王を倒しに行こう』だった。
だけど俺はそう思えなくて、世界中に散り散りになった人に強く生きてくれと頼んで『力』……戦うための道具と、傷ついた仲間を癒す道具と、それから失った恵みを回復させる道具の三つを与えて回ったけど、そうされる方も仲間たちも俺が何を考えてるのかわからないって顔をしてたっけ。
たださっさと魔王を倒せって、そう言われてたきがする。
だけど俺は、もっとちゃんと、一回魔王を倒しそこねた責任を……そう、その『責任』を取りたかったんだ。
「今思えばあの『責任』って、ほとんど自己満足だったのかもしれないな」
「ん? どうかした?」
「んーん」
っと、回想に浸って今のことを忘れてた。
結局、母さんがいう責任って何のことなんだろう? 危ない目にあって欲しく無いっていうのは、できるだけ安全に勇者 をやれってことなのか、そもそも勇者をやるなってことなのか。
責任って、普通に考えたら暴れる小動物を何とかしろってことだよな。違うのか。
「さて、あっちゃんもいろいろ考えてくれるみたいだし、帰りましょうか」
すっくと、母さんが背筋を伸ばして立ち上がった。
その言葉に思わずその腕を掴む。
「ちょ、何言ってんだよ母さん!」
「何って……堂宇いう意味?」
「俺まだ何もしてないよ!」
きょとんとした顔に、必死でそう返す。自分がしでかしたことをほおっておいて帰るなんて、冗談じゃない!
そんな俺の考えをきっとわかってるだろう母さんは、それでもあれに立ち向かうというそぶりじゃ無い。
「大事なのは、何をするかどうかじゃ無いでしょ? あっちゃんが今何かをすることは決して責任を取ることにならないもの」
「でも……」
「これを見なさい」
母さんが袖を捲り上げ、思わず手を離すと、そこには赤黒い俺の手形があった。
俺は黙って母さんに付き従うことしかできなかった。
前回の台詞で誤解した方がいるかもしれませんが、別にヒーローモノになったりはしませんので悪しからず。




