表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/46

第20話

 『こと切れる』という言葉がある。詳しいことは知らないけど、要するに『死ぬ』ってことだ。

 多分だけど『こと』っていうのは言葉のことで、この場合の言葉っていうのは『息』に近い意味なんじゃ無いかな。それで、『息絶える』に近いニュアンスで『こと切れる』と。漢字にすると『言切れる』かなぁ。本当のところはどうだかわからないけど。

 カゴの主人の風情はまさにそんな感じだった。

 真っ黒な体にオレンジのくちばし、黄色いエリマキをつけたような九官鳥は、まるで最初から飾り物に人形だったみたいにピクリとも動かず。吊るされた止まり木に止まっていたときのままの姿で籠の底に転がっていた。


「え」

「あっ……」


 どっかの誰かが間抜けな声を上げた。こういう時、そんなボケた真似をしてると仲間を失うことになるぞ。まずはどこから、何を目的にした攻撃なのかを見極めないと。この鳥が目当てだったのか、他の何者かへの……俺への攻撃が当たってしまったのか。

 いや、こんな鳥一羽殺したところで何になる。当然、俺への攻撃だったと判断すべきだ。なら次に考えるべきなのは、俺を狙ったのか、母さんを狙ったのかだ。いや、今はごちゃごちゃ考えてる暇は無いまずは防御を固める。


「『イクサゴメ』」

「あっちゃん」


 ぐえ。

 母さんに後ろからジャージの襟を引っ張っられた。別に苦しくは無いんだけど、何となくぐえっと思うのは癖なのか反射なのか。

 ……今更なんだけど、苦しく無いのって結構おかしいことだよね。向こうでもそうだからピンときてなかったけど。


「あっちゃん、行くわよ」

「え、母さん?」

「ごめんなさい、ここまでだとは思ってなかったの」

「どういうこと? 何を知ってるの?」

「いいからまずは下に降りるのよ」

「母さん!」

「今は言う事聞いて! もう保たないの!」


 保たないって何が? その疑問は口にする必要がなかった。

 そんなに細かく見えるわけじゃ無い。そんなわけが無い。だけどわかる。

 今この部屋の中にいる鳥が、獣が、一斉に俺を見た。

 ずっと目をそらして、顔をうつ向けて、目が合わないように、目をつけられないように、嵐が過ぎるのを待つようにじっとしていた動物たちが、その恐怖に耐えられなくて決壊した気配。大型の魔獣や幻獣が通り過ぎた森で聞こえるのと同じ、世界が砕ける気配。

 やらかした。


 きぃきぃきゅうきゅうぴいぴいぎいぎいがあがあぎゃおう

 がちゃがちゃぎしぎしがたがたばたばたきゅるきゅる

 ひいいぎゃあなんだこれはきゃああどうなってる


 目が回りそうな音と気配の奔流に人の悲鳴が混じる。

 全部俺のせいか。

 いや、何が? 意味がわからない。何が『俺のせいか』だよ。

 意味とかそういうの全部どうでもいい、今俺は何をすればいいんだ? 何でこんな事になった。向こうじゃこんな事にはならなかった。向こうにいた時の方が俺は強かったはずだろ。

 魔法が使えた。雪崩を止める事も、地震を起こす事も、海を割る事もできた。やろうと思えば剣の一振りでドラゴンの首を落とせたし、それこそ殴り殺すことだってできた。それでも村人にだって慕われてたし、仲間に怯えられる事もなかったし、そりゃちょっと『鳥』とか『鼠』とか『熊』とかあったけど、あんなの突発的な事故みたいなもので普段は普通に馬車に乗ったり小鳥のさえずりで目を覚ましたりしてた。むしろこの状況とは逆の現象だし。

 今は魔法は使えない。剣も持ってない。体がちょっとでかくなっただけで、力自体はむしろ多少衰えてるはずだ。

 何でこうなる。


「いいから行くわよ! あっちゃん!」


 母さんがさっきから服の裾を引っ張っている。もしかして、母さんも俺に直接触れるのが怖いのか。

 頭の片隅でそんなことを考えてしまう。それどころじゃ無いだろ。とうとう幾つかの檻が地面に落ちて、動物たちが飛び出した。母さんを守らなきゃいけないのに。

 さっきは癖で魔法を使おうとしちゃったけど、今はもうそれはできない。だからまずは状況を見極めろ。小動物の一匹や二匹、襲い掛かってきても問題無いだけの腕力はあるんだ。落ち着け。


「話を」


 動物たちの動きを見極めて、できるだけ少ない手数で……


「聞きなさい!」

「ぐえ」


 母さんに思い切り襟を引っ張られた。


「わかりなさい! 今あなたがここにいるのが一番悪いの、あなたがいなくなれば動物たちはここから逃げられて騒ぎはおさまるのよ!」

「で、でも」


 言われてみれば動物たちは壁にぶつかってこっちに戻ってきたりはしてるけど、基本的にはみんな俺から離れようと動いてるように見える。その過程で人の服に潜り込んだり口に飛び込んだりしてるから酷いことになってるけど、積極的に人間を襲ってるわけじゃ無い。無いよね? 人間の敵意は何となく察知できるけど、動物の本能に基づいた害意はみてもわからない。

 小さい子が泣いてる。女の人が悲鳴を上げている。定員さんが電話みたいなもので何かを呼んでいる。これ全部見なかったことにして、逃げるのか。

 逃げなきゃいけないのか。

いつも読んでくださってありがとうございます。

ちなみに『こときれる』は『事切れる』なので完全に主人公の考え違いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ