第19話
いつも読んでくださってありがとうございます。
しかし何が違うのかさっぱりわからない。
とりあえずはなんでも無いかのようにデパートの階段を上っていく母さんの体力に感動するばかりだ。服を選ぶ時間は立っていただけだけど、逆に言えば特に座ったりとかして休んでたわけじゃ無い。しかもハイヒール。
もちろん俺は階段の100段や200段ごときをものともしない体力があるけれど、それが誰でもそうだってわけじゃ無いのはわかっているし、たとえわかっていなかったとしても単に心情としてめんどくさいとか、エレベーターやエスカレーターの存在意義を考えればすぐわかることだったろう。母さんすごい。
それにしても……どうしよう、ペットショップあんまり行きたく無いんだけど……断る理由も無いしなぁ。
っていうか本当に俺はそういうの好きだったんだろうか。特に犬とか猫とかを飼ったことはなかったと思う。それどころか、ハムスターとか金魚すら覚えが無い。
うん、怪しい。
「そういえば母さん、母さんは動物好きなんだっけ?」
「んー? 好きよ。それがどうかした?」
「うち、ペット飼ったこと無いなーって思って」
「うーん……そうだったかしら」
「そうだよ」
「そうよねぇ」
そうよねってどういうことなんですかね。
「実はね、うちでは動物を飼えない3つの理由があるの。幼稚園くらいの頃はあっちゃん毎日猫か兎を飼いたいって言っててね。だからよくここの屋上に連れてきてたんだけど……」
「どっちかっていうと飼えない理由の方が聞きたい」
「そお? でももう着いちゃったわよ」
「あ」
えっと……そりゃそうだよね。8階建てで5階から屋上だもん。
屋上、とは言ってもいきなり建物の外に出るわけじゃ無いみたいだ。安っぽい金属のフレームと不透明な茶色いプラスチックの壁で覆われたドームみたいな場所 。床の感じも、ビニール張りっぽいというか。タイルっぽいというか。外に出てきた感じじゃ無い。変な場所。
目を逸らしていると、そんな景色だ。
視線を水平に戻すと、やたらごちゃごちゃした景色が見えてくる。妙な観葉植物の鉢、ぶら下がってたり積まれてたりする金属の檻。その檻で構成された狭く圧迫感のある通路。
今まで中を歩いてきたデパートの一角とは思えない薄汚れた景色。
「うわぁ」
それ丸ごとが多分ペットショップなんだろう。
これは感動の悲鳴じゃ無い。呆れ返ってる感じだ。
確かに子供ならこんなんでも喜ぶかもしれない。さながら動物園というか。いろんな動物がまるで剥製みたいに微動だにせず突っ立っている。隠れる場所が無いからか、何かに興味があるのか、どの動物もじっと通路の中の何かを見てるみたいだ。胸が動いているから息をしてるのはわかるけど、よく躾がされてるんだろう。通路に立つと、周りの動物たちがこっちに顔を向けて一斉に首を傾げたり……いや、一斉にだとホラーだな。
いやだけど、一匹二匹がこっちを見て首を傾げたりしたら多分かわいい。可愛ければ許されるのが小動物という生き物のはずだ。はずだけど……
臭い。
それがこの空間にいる鳥獣の持つ元々の匂いなのか、それともここを管理する人間が不潔にしてるのかわからないけれど、臭い。信じられるか? この下の階レストラン並んでるんだぜ。このペットショップの店主にそう尋ねるのが正しいのか、それともレストランの店主にその逆を尋ねるのが正しいのか。
そりゃ下まで匂いは届かなかったけど、衛生的にどうなんだろうと思わせる、そんな匂いだ。
ぶっちゃけ、向こうで見た奴隷市場に近い。
「あら、気に入らなかった?」
「あ、うん、ていうか……」
「そっか、もうあっちゃんも高校生になるものね」
というか、昔の俺はここでどんな反応してたんだ? 想像できないぞ。適当に鳥のいるカゴでもつついて話しかければいいのか? インコっぽいのに向かって、オハヨーオハヨーとか。全然身に覚えが無い。
触れてみればわかるんだろうか。一番近くの鳥かごに目をやる。
いわゆるオーソドックスな、半球と円柱を組み合わせたような普通の鳥かご。中には木の棒が吊るされていて、その上に緑色の鳥がいる。原色っぽい緑色の体で、頭のてっぺんは黄色、目元は赤い縁取り、尾羽などの先っぽは目の覚めるような青。くちばしが黄色いからまだ子供だと思うけど、どこからどう見てもオウムだ。隣には雪のように真っ白で、頭の後ろに黄色いツノが生えてるやつもいる。
そういえば、同じ部屋でネズミと鳥を同時に並べて商売するのってどうなんだ、ネズミにストレスは無いのか。ネズミの獣人と鳥の獣人に聞いたときは確かに無いって言ってたけど、あいつら動物と似てるだけで別物だからあてにならないぞ。
一歩踏み出す。
そっと脚を前に出して手近な鳥かごに近づく。
向こうでもこっちでも、動物と話すような能力は無い。ただ、案外動物の考えてることはわかりやすいものだとは、学んだ。直接触れることはできなくても、カゴにだって触れれば何かしらわかるかもしれない。それに、そうすれば多少は子供がはしゃい出るように見えるんじゃないかな。
そうすれば母さんの気持ちに報いることになるかもしれない。
そう思って、そんな不純なことを考えて。
「え、あ?」
指の触れたカゴの主人が、死んだ。
更新時間早くするって言ったのに、もう遅刻です……orz
0時に目を光らせていただいていた方々、申し訳ありません。




