第18話
いつも読んでくださってありがとうございます。
今週からできるだけこの時間に更新できるように頑張ります。
母さんはそれ以上なにも説明してくれなかった。
俺には、母さんがなにを言いたいのかさっぱりわからない。学校に行くために自分のことに真剣になれ? 俺の学力がどうしようも無いくらい落ちたのは自覚してるし、受験を控えてる今それがどれだけ致命的なことかなんて十二分に分かっている。だからここ数日引きこもって勉強に明け暮れていたんだ。
僕は……俺はちゃんと俺の駄目なところをわかってるはずだ。
ちなみに6階じゃなくて5階だった。そりゃそうだよね。中学生にもなって……っていうか例え小学生でもこの体格で子供服売り場はない。
「あっちゃん、何とか制服はサイズ直しで済むみたい。しばらくかかるから屋上にでも行ってみる?」
「屋上?」
「ペットショップがあるわ。あっちゃん好きだったでしょ?」
「……ああ、うん」
好きだったんだっけ? ちょっと覚えてないけど、少なくともその趣味に関しては変わってしまったことに間違いないだろう。動物は遠くで見るに限る。それが俺の今の素直な気持ちだ。
理由は……もちろんドラゴンに丸呑みにされたトラウマが一番根っこのところにあるのは当然だけど、それだけじゃない。それなら小さい動物は怖くないはずだ。だけど実際は怖い。すごく怖い。理由は丸呑みのすぐ後に味わったとある体験……端的に言うと『鳥』もしくは『The Birds』なんだけど、向こうだと伝わらなかったなぁ。
っていうか『鳥』をネズミでも犬でも猫でも狼でもウサギでも何でもかんでも一通り体験したもんな。しかもどれも魔獣。体が燃えてたり、牙が氷だったり、目玉が真っ暗な穴だったり……目玉が真っ黒な穴になったウサギの群れにたかられるのはもう二度とごめんだ。一羽見るだけですごく不安な気持ちにさせられるのに、それが群れ。別に無敵とか関係ない。無敵なのは体であって心じゃないんだから。サスペンス映画の神様は俺達から大事な物を削り取っていきました。それは小動物を慈しむ心です。
ちなみに一番強くて怖くて危なかったのは『熊』だけど。あれはもうなんか別物だったのでノーカン。感覚的には巨大ハムスターボールに入ってる時に自動車の群れが突っ込んでくる感じ。それはそれで怖いけど、他とは違う。
「熊はねーよ。熊は」
「え? ええ、熊はいないと思うわよ? アライグマとかならともかく」
うん、そういうことじゃない。
「そうじゃなくて……ところで母さん、また階段?」
「ええそうよ」
「大変じゃない?」
「だってあっちゃんを一人にするわけにはいかないでしょ」
なんでエスカレーターとか、エレベーター使っちゃダメなのさ。そう聞きたくなるけど、また怒られるのがわかってるから聞かないでおく。
自分のことに真剣に。
俺が、真剣じゃないこと。
俺がちゃんと考えてなかったこと。
向こうにいたときはどんな時だって、どんなことにだって真剣だった。最初は無敵だからっていい加減にしてたけど、なんども無敵と不死身は違うんだって、無敵だからなんでもできるわけじゃないって、無敵でも……失敗することはあるって、その責任はいつだって俺自身にあるんだって思い知らされて。
それが、戻ってきてから変わってしまったんだろうか。どこか緩んでるんだろうか……そりゃあ、緩んでるんだろう。少なくとも帰ってきたばかりの時は失敗が多かった。風呂場の水道は壊すし、洋服箪笥の底は抜けるし。それもこれも力が強くなったことをわかってなかったからだ。
失敗……そういえば、今日は朝から母さんに注意されることが多かった。
電車に乗るときは、ちゃんと話を聞かなくて頭をぶつけたし、自転車に乗るのもダメだって言われたな。エレベーターに乗るときも母さんの言う通り重量オーバーだった。エスカレーターも乗っちゃダメだって。あと服を買うのは6階の子供服売り場じゃなかったし。
体が、大きくなったから。
……あれ?
…………あれれ?
ちょっと待った俺、確かに勉強は大事だ。大事だけど……よく考えたらこの一週間俺、勉強しかしてないぞ。
いや、勉強しかしてないのはいい。それはそれで置いといて、もっと重大なことがある。
「俺、まったく進歩してないじゃん……」
「なあにー?」
「なんでもなーい」
いつの間にか引き離されていて慌てて階段を上る。
確かにこの一週間、体が縮むことを期待してあまり運動とかしなかったし、元に戻ることを期待してあまり動かしたりもしなかった。もちろん手加減ができるようにくらいは気を使ってたけど、それはむしろすぐに慣れて意識もしなかったくらいだ。変わったことを認めたくないが故のささやかな抵抗。
だけど、それはもう諦めたはずだ。
こうして外に出て、服を買いに来て。もう、今の自分を受け入れなきゃいけないってわかったはずだ。
ふと周りを見てみる。被害妄想かもしれないけど注がれる視線には結構奇異の色が強い。それどころか、たまたま目があった小さな男の子は遊んでいたミニカーを落としてお父さんの足の陰に隠れてしまった。その父子の顔には見覚えがある。一階でエレベーターに並んでいた人だ。
俺がエレベーターにあわてて乗ろうとした時、この子はどんな顔をしていたんだろう。
今思えば母さんから添乗員 は見えてなかったはずだ。もちろん、単に知ってたって可能性もあるけど、それよりも単にこの子たちの表情を見てたからああ言ったんじゃないか?
——そんなこと考えてたの? しょうがないわねぇ——
あの言葉は、そういう意味だったんじゃないのか?
知ってる人に変な目で見られることを恐れていた。だけど、それじゃ自覚が足りないんだ。今の俺は知らない人から見てもデカい、怖い人間なんだ。母さんが家を出る時にあんな冗談を言ったのは、俺がそういう覚悟を決めたと思って、それで励ましてくれようとしてたのか!
俺は、俺がもっとどういう人間なのか知らなきゃいけないんだな。そういうことなんだな!
……なんか違う気がする。
主人公自覚する……と思わせてしない! 全然しない! そんな話をいつまで書いてるんでしょうね。
ちなみに『鳥』は私にとってトラウマコレクションの一角です。あれは本当に怖かった。




