第17話
いつも読んでくださってありがとうございます。
遅くなってすいません。
来週から更新時間が早くなる……かもしれません。今のままのほうがいいですかね。
降りるときはさすがに手を引いてもらう必要はなかった。一人でできるもん!
……いや、『もん』って年じゃ無い。見た目はもっとかけ離れてるし。
隣の駅のデパート、駅から徒歩五分。人の多さはそこそこ。気をつければ特に人にぶつかる心配もない。
「しかし……不便な体だな」
「何か言った?」
「んーん。言ってない」
実際は体がどうとかじゃなくて、急成長したことのほうが問題なんだろうけど。いや、でも電車に乗るたびにしゃがまなきゃいけない生活は普通に面倒くさそうだな。志望してる高校、第一が電車二本乗り継ぎなんだよな……あ、でも距離的にはちょっと早めに家を出て走ったり自転車に乗ったりすればなんとかなるかな。この身体だし。
「でもなれなきゃダメよ、あっちゃん」
「え、なに?」
「電車に乗るのにしゃがむの、なれなきゃダメよ?」
「……そう?」
「まあ、ほとんどの建物の扉って、2メートルくらいあるから少し難しいかもしれないけど……あっちゃんは来年から電車に乗って学校通うでしょ?」
「う、うん。でもちょっと考えたんだけどさ、電車じゃなくて走ったり自転車にったりすれば」
「ダメよ」
さらっと言われたけど、その言葉には強い意志が感じられた。はっきりした拒絶は、こっちに帰ってきてから初めてかもしれない。なんで? ちょっと怖い。
別に、家から走って学校に行くことの何が問題なんだろう。去年一昨年なんかは、毎朝遠回りしながら走って学校に登校してた。家を出るなり逆走してたんだ、父さんと一緒に家を出るところを玄関まで見送りに来てくれた母さんが、それを知らなかったはずが無い。自転車は……そりゃ、体格合わなくなってるだろうから買い直さなきゃいけないかもしれない。もしかしてそれで?
「だって今のあっちゃんが自転車で人にぶつかったら、大惨事よ?」
「あー……」
その考えはなかった。でも、自転車で人にぶつかったらそもそもが大惨事じゃないか? 確かに人よりちょっと力強くなってるかもしれないけど、殊更あげつらうことじゃないと思う。だいたい、自転車じゃなくて自分の足で走ったっていいじゃないか。
脇を突かれた。慌てて振り向く。
「どこまで行くの?」
「どこって、ああ、ごめん」
「ううん。ほら行くわよ」
うっかりデパート通り過ぎるところだった。こんなことで他が目に入らなくなるとか、子どもすぎるだろ。
「母さん、何階だっけ?」
「多分6階だと思うけど、ちょっと待って、そこの案内図見るから」
「んーん。見える。6階」
ん、5メートル先の案内図なら普通にこっから見える。大丈夫だよ。6階で間違ってない。子供服売り場だよね。
あ、エレベーター来てるし。並んでるのは1、2、3……20人。ドアが開くと同時にぞろぞろ入ってく。
「母さん、エレベーター」
「あ、走っちゃダメよあっちゃん。たくさん並んでるじゃない」
いや、ジャージでここにいるのいたたまれないから早く買い物済ませたいんです。走らないから急がせて。
「そのエレベーター定員23人なのよ? きっと間に合わないわ」
「20人しか居ないから大丈夫」
「一人で二人分くらいあるわよ、きっと」
「それでも23!」
ぶつぶつ言いながらも、母さんは俺の気持ちを汲んでくれたのかパタパタと忙しなく足を動かしてついて来てくれる。それが見えてるのか、エレベーターもまだ扉が閉まらない。
しかし定員23人か。子供も混じってるし女性が多いし、それほどきつくはなさそうだけど、確かに混んでる感じはする。俺が入ったら迷惑かな……まあ勢い良く駆け込んだりしなきゃ大丈夫だろ。扉の前で一息ついて、ふぅ。それじゃ失礼しまー……
「やっぱり無理よ」
——ブー
母さんの声と同時に、上から妙なブザー音。すごく耳に痛いんだけど……
「ほら、それ定員オーバーの音よ」
「ええ!?」
あ、え、なんで? これが定員オーバーのブザー? なんで? もしかしてエレベーターに踏み込む時勢いが良すぎたとか? だったら一旦足上げて、今度はそー……っと足を……
——ブー
えええ……なんでだ。別に子供が飛び跳ねたりしてる様子も無いし、変なボタンを押してたりもし無い。ボタンを押してるのは……あれ? 知らない人がいる……いや、当然知人なんて一人もいないんだけどそういう意味じゃなくて、さっき並んでた人たちの中にはいなかったよ、こんな人。制服みたいなのをきっちり着て、帽子まで被ってる……ああ!?
「あの、お客様? 申し訳ありませんが、次のエレベーターを待っていただけますか?」
「どうもすいません。ほらあっちゃん、降りて」
服の裾を引っ張られて、一歩下がる。まさかそんな罠があったなんて……
はぁ。ため息をつくと、膝から力が抜ける。いや、こんなことで一々ショック受けてどうする俺。
「どうしたの? ほら階段でいきましょ?」
「うん……ねえ母さん」
「なあに?」
「俺、ホントに二人分の体重あるんだね」
母さんに手を引かれながらぼそりと呟く。
まあ、二人分くらいあって当然の体格かもだけど、地味にショックだ。なにがショックなのか自分でもよくわからないけどショック。辛い。まあでも、一応常識的な範囲だったのかな。
っていうかエレベーターガール? って今でもいるんだね。初めて中学の制服を買いに来たときもここだとして、約13年ぶりか。まあそのうち11年はエレベーターそのものが無かったけど……あ、でもむしろ常にメイドさんがいたな。初めて召喚された時案内してくれたサリナと、その妹で旅に付き添ってくれたナナリス……再開した時、サリナの露出度高かったなぁ。ナナリスの色々諦めたような表情と、死んだ目のハルディンが印象的だった。
……俺としてはナナリスにあのサリナの服着てみて欲しかったけど。
「もう、そんなこと考えてたの? しょうがないわねぇ、あっちゃんは」
「はえ!? え、そ、そんなことって?」
いや、体重の話だよね? いくら母さんが察しが良くても心は読めないでしょ? ……けどまあ体重の話だとしても、地味とは言えほんとにショックなので、それはそれでそんなこととか、あんまり言って欲しくないんだけどな。
母さんの足が止まる。
「学校行くっていうから、甘やかしちゃダメだと思って黙ってたけど……」
はぁ〜……と大きなため息。珍しい。
「あっちゃん、学校行くんならもっと自分のことに真剣になりなさい!」
「えっと……うん?」
俺は何を怒られてるの?
ちなみにエレベーターの重量制限は約1500kgほどだと思われます。




