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15話目

いつも読んでくださってありがとうございます。

「あっちゃん、いくわよー?」

「あ、うん。ちょっと待ってー」


 下。玄関から母さんが呼ぶ声がする。いけない、明日から試験だからってちょっと期末の対策に没頭しすぎてた。

 今日は一週間ぶりに外に出るんだって、母さんと一緒に出かけるんだって昨日からわかってたのに。

 慌てて学生証と携帯電話をポケットに突っ込み、部屋を飛び出す。階段を駆け下りると、母さんはちょうど窓の鍵を確認して回っているところだった。


「ん、ちゃんと来たわね。それじゃあ行きましょうか」

「うん」


 そう、一週間ぶり ・・・・・の外出である。

 俺は未だ、こっちの世界に帰ってきてから一度も学校に行っていない。それどころか、あの日家に帰り着いて門扉をくぐってから、約九日間一度も家から出ずに過ごしていた。あれから特に体に異常はなく、食事量が増えてしまったことを除けば健康そのものだ。健康すぎてさらに大きくなった……なんてこともない。

 現状を鑑みればこうして学校に行かず、外出すらせずに過ごしている俺の有り様は、サボりの引きこもりである。

 こんな時あの魔剣が手元にいたら意気揚々とあのセリフをエンドレスリピートするだろう。


『母さん、俺』『学校行くよ。多分』『母さん、俺』『学校行くよ。多分(笑)』『母さん、俺(笑)』『学校行くよ。多分(爆)』『母さん、俺(爆)』『学校行くよ。多分(核爆)』・・・・・・


 多分こんな感じで、俺が頭の中で学校って言葉をなんちゃら崩壊させるまで延々とリピートするはずだ。こっちが弱ってる時はすごく紳士で頼り甲斐のある態度をとるのに、暇でお互い余裕があると全力で怒りをあおってくるんだよな……あいつ。

 それでもこうやって思い出すのは、それなりに俺があいつのことを……えー、大事に想ってたとか言いたくないな。なんだろう? 大切……だとそんなに変わんないし、頼りにしてた……だとこの場面で思い出すのはなんか違う気がする。なんだろう? 近しく思ってた、とかがそれっぽいような。親友とか、相棒? みたいな。うん。まあそんな感じに思ってたんだと思う。時々煽ってくることを踏まえて、少なくとも会話して楽しい相手ではあった。知識欲も妙にあったし、結構日本語とか和製英語とか覚えてたはずだ。寝言で『かあさん』て呟いたのを覚えられたらしくて、後々意味を聞かれて大喧嘩したこともあったな。若干無神経というか、人の心の機微をわからないところもあったような……でもあれ、今思えば俺のガス抜きのために無理に怒らせようとしてくれてたのかもしれない。なんとなくそんな気がする。

 っとなんか湿っぽくなっちゃったけど、あれだ。この際だから一つ言い訳をしよう。

 べつに俺、学校に行くのが怖いとか勉強するのが嫌だとかでサボってるわけじゃない。むしろ家にいる間は教科書の読み直しから参考書のひっくり返し、小学校の時の漢字ドリルの解き直しまでがっつり勉強してたくらいだ。じゃあなんで家に引きこもってたかといえば……まあ、体が万全だって保証がなかったからだ。

 インフルエンザの薬を飲んで熱が下がっても、一週間くらいは他の人に移るかもしれないから休む、みたいな。

 本当はあの日、かあさんと一緒に買い物に行って、服や制服を調達する予定だった。履ける靴も欲しかった。

 でも、カレー食べ終わってスリッパを踏んづけたところでふと思ったんだ。


『ねえ母さん、食器洗ってる最中に悪いんだけどさ』

『なあにー?』

『俺って今朝に比べて縮んだの?』

『そんな気はするわねー』

『ってことはさ……』


 まだ伸びたり縮んだりするんじゃね? って。

 ただでさえこの体格の変化は大問題なのに、これで毎日学校に行くたびに体格が伸びたり縮んだりしてたらさすがにごまかしようがないな、と。

 まあどちらかといえば少ししたら完全に元のサイズに戻るまで縮むんじゃないかな……? って希望的観測が大元で、服を買ったりすると今の自分の状態を認めたことになっちゃって、取り返しがつかなくなるような気がしたってのが一番根っこになるんだけどな。

 まあ結局、多少筋肉が減ったくらいでちっとも縮む気配はなかったんだけど。

 母さんはむしろ伸びることを期待してた節がある。

 でも伸びも縮みもしなかったよ! バネじゃないしね! それに減ったって言っても、なんか、こう、俺はちょっと衰えたかな? って思ったけど、母さんいわく見た目変わってないらしいし……うん、見てわかる程度変わったんじゃなければ意味がない。相変わらず俺は筋肉お化けだ。

 この一週間でほとぼりさめねーかな。二日で身長30センチ……一週間で身長30センチ……二日……一週間……いや、50歩100歩もいいとこだろ。


「それで、あっちゃんどれくらい服いるかしら?」

「え、どうなんだろう? とりあえず制服と、家で着るジャージはこれがあるし、体育の授業は出るのちょっと怖いし……そっか、学校のロッカーにまだ体育着 タイクギあるのか」

「外に着てく服はいいの?」

「とりあえず高校生になってから考える。受験って制服でいいんでしょ?」

「どうかしら、浮くわよ?」

「今更だし」

「んー……背が伸びたあっちゃんの服選ぶの楽しみだったんだけど……まあ行ってから考えましょうか」

「どこ行くの?」

「隣駅のデパートよ」


 隣駅ってことは電車か。電車乗るのも感覚的には十年ぶりだな。もともと、乗る機会が多かったわけじゃなかったと思うけど。


「……」

「どうしたの? 母さん」

「……変な噂たてられちゃうかもしれないわね、うふ」

「ないない」


 確かに母さん今日はおしゃれでちょっと若く見えるけど、俺ジャージだもん。

現在の彼の成績は数学を除いて絶望的なラインに落ち着いています。

受験対策の年号暗記カードと英単語カード以外なにも持ってけなかったからね。仕方ないね。

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