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第14話

いつも読んでくださってありがとうございます。

そして話しが進まなくてすいません。

 ああいうのってどういうのですか?

 その一言が言えないまま、俺は今カレーライスを食っている。

 なんかこう、むやみやたらに美味しいんだけどいまいち頭に味が入ってこない。何が美味しいのか自分でもよくわからないっていうか、オムライス食べてるのにケチャップ美味しいって思ってたのと同じ気持ちだ。ただこれはさっきみたいに空腹だから細かい味が気にならないと言うよりも、母さんの言葉が頭に響いてるのが一番の原因なんじゃないだろうか。

 コスプレ。意味は確か、制服を着るとか特別な格好をする事。

 どう考えても、部屋のクローゼットの中、タンスの後ろに隠した彼や此れやが見られてしまったと言う事だろう。なんだよな。どうしよう。母さんがどこまで本気なのかわからない。


 本気で、俺がファンタジーな世界で冒険してきたと思ってるのか。


 俺自身の今の有様を考えると、状況証拠的には充分あり得ると言うか、それ以外考えられないとは思うんだけど、それはあくまで俺が召喚されたからなんじゃないだろうか。普通の人はあんな世界があるなんて知らないわけで、別に母さんから寝物語としてそういう体験談を聞いた事も無い。よって、とりあえず、母さんはファンタジーな世界が実在する事は知らないと仮定して。じゃあ俺の状況をなんだと思うんだろうか?

 塾を休み、風呂場の蛇口? を破壊し、ほとんど二日程眠り続け、身体が急成長し、部屋にはファンタジーな鎧の一部を隠し持ち、やたら勢いよくご飯を食べている。

 よし、まだ魔法を使ってないし武器も持って無いからセーフ!

 ……な訳無いよな。

 うん、あれ? カレーが辛いせいかな、心の汗が止まらないよ……?

 美味しいものを食べてるのに、どうしてかな? おかしいな? どうしてお腹は減るのかな?

 ……いや、コレ心の汗じゃねーや。普通に冷や汗だ。現実逃避はやめよう。

 やめよう……とは言うものの、結局のところよくわからないんだよな。少なくともこの事態を母さんが普通の出来事として捉えてるってことは無いだろう、ちゃんと異常事態として捉えた上で対処しようとしてくれているんだと思う。じゃあそれを正確に読み解いて、本当にファンタジーな世界に行ってきたと思ってるのかどうかと言うと……どうなんだろう? 判断がつかない。いや、正確に読み解いたときにそういう判断が出来るのかどうかという判断がつかない、と言うべきか。


(でも、母さんはコスプレって言ったんだよな)


 あれはどういう意味だったんだろう。本気でコスプレだと思ってるって意味だろうか、それともそう思っておくって言ってくれてるんだろうか。

 例えばあれが、いつの間にか母さんに発見されていたらしい例の彼や此れやが地球上の物質以外のもので作られていたら……というかそうである事が母さんに区別出来るのなら事体はとても簡単だ。間違いなくファンタジーな事体か、あるいは宇宙人的なSF事件に巻き込まれた事がわかるだろう。

 それなら諦めて、バレたんだと思って開き直る事も出来る。

 ……でも残念ながらあれは地球にあるものとそう違わないもので出来てたはずだ——何度も言うけど俺は無敵だったから防具にはこだわる必要もなかったし、外世界でドワーフの鍛冶屋が見つかっても新しいものは用意しなかった。仲間のはちゃんとミスリル製品とかオルハリコン製品とか超頑張ったけどな! ——し、それを見分けるような技術を母さんが持ってるとは思えない。そして誰かに鑑定とか頼むとか、そういう大事になりそうな事をすることもないだろう。

 少なくとも救急車を呼ぶんじゃなくてお医者さんを呼ぶ配慮をしてくれたわけだし、それをはっきり教えてくれたんだから他に誰かを呼んだらそれも教えてくれるだろう……っていうか、どんな理由があっても俺のもの勝手に誰かに見せたりはしないだろうし。掃除ついでに色々机の上に並べられた事はあったけど、あれに関しては洗濯物の入ってるはずの部活バックに入れてたのが悪いわけで。

 あ、でも名誉の為に断っておこう。

 あれは部活の先輩から選別だと言って渡されたんだ! 俺の趣味じゃない!

 ふう。

 あ、そうか。あれ選別だって言って卒業式のときに後輩に渡さなきゃいけないんだ。


「あっちゃん、カレー美味しい?」

「あ、うん。美味しいよ」

「そう。今晩食べたいものはあるかしら」

「それって、お昼食べてる最中に聞く事かな」

「それもそうね……じゃあ、あとで一緒に買い物いく?」

「なにがじゃあなの?」

「さあ?」


 なにがじゃあって、もちろん買い物かごを持つ代わりに晩ご飯のリクエストを聞いてくれるってことなのはわかるんだけど、でもついさっき学校に顔を出さずに引きこもるかって言ったのに、その一方でいきなり外出に誘われても。誘われたんだよね?

 最後の言葉とともに流しに向き直った母さんの後ろ姿を見つめてみる。新しく出来た洗い物……昨日のカレーの入ってた鍋を洗ってるんだ。それは、なにも言わずに聞いてくれるってポーズで。陸上部で出場した大会で成績が振るわなかったときも、友達と喧嘩して学校を早退してきたときも、父さんに片付けなかったおもちゃの列車を踏みつぶされた時も。今は明確な答えを出さなくて良いってことか。


 でも、ついさっき洗い物を一度やめて、話しをしようって母さんは言ったぞ。


 まじめな話しなんて全然してない。

 でも俺がほとんど喋れないでいるうちに母さんはまた洗い物に戻っちゃった。どうして?

 俺が、喋れないからだ。スプーンの柄を握りしめて、あと一口程になったカレーを見つめる。

 どうしよう。何て言おう。

 母さんはなんて言ってほしいんだ?


「母さん」


 名前を呼んでも反応はない。多分、聞こえてないふり。俺が弱音を吐くと思ってる態度。でも母さん知らないでしょ、確かにそれ、なに言っても良い気がしてほっとするけど、ちょっと寂しくて怖いんだよ。顔が見えないのが不安なんだよ。


「母さん、俺」


 母さんの顔を見たければ、言える事はある。でも、スプーンの柄を握りつぶしたから替えが欲しいなんて今言ってどうなる? それで母さんの顔をみて、なにか満足出来るのかと言えば……それはそれで出来そうだけど。

 深呼吸。

 ねえ母さん。


「学校行くよ。多分」

なんかこれ、引きこもりが学校に行く決意したみたいですね……なんだこれ……?

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