番外編1 ルシエル視点〜いまいまちい髪の令嬢〜
番外編です。
ウィンディに初めて会ったのは、私が八歳の時だった。
母上の側近をしていたウィング伯爵夫人が登城する際に、ナニーが風邪を引いたらしく、ウィンディがついてきたのだった。
当時ウィンディは四歳で、おしゃまな小さな令嬢だった。
「ウィング伯爵家が娘、ウィンディともうちます」と噛んだのが可愛かった。
それから、こう言ったのだ。
「わたくちは、いまいまちい髪をしています。ちかづいてはいけません。ではしつれい」
綺麗な真っ直ぐでサラサラしたピンクブロンドだった。
深い緑色の瞳が思慮深く聡明に見えた。
後から母上が教えてくださったのだ。
過去の王太子が、ピンクブロンドの男爵令嬢と問題を起こし、廃嫡になった。
王国の歴史でも有名で、多くの貴族が知っている事実。
母上が聞いた。
「ねえルシエル、あなたは髪色で人を判断する王になるの?」
「髪色で、優劣を決めるなんて馬鹿げています」
私はそう答えた。
それから、ウィンディは時々、私の勉強部屋へ遊びに来た。
庭園で虫取りもした。
昆虫図鑑はすぐに覚える。
取った虫をよく庭へ返してやっていた。
図書室へ行くと、他国の歴史も楽しそうに、でも必死で覚えていた。
私の宿題も一緒にしていた。
私が十歳の時、将来の側近、今のご学友を選ぶため貴族の子女ばかりが集まる茶会が開かれた。
そこで事件が起きた。
私が、男子ばかりと話していたせいだ。
ウィンディを選ぶつもりでいたから、他の令嬢は気にしていなかった。
気がついたらウィンディがいない。
護衛に頼んで探してもらった。
見つかったのは、母上の庭園の噴水の近く。
茶会の会場から、チョコレートソースが点々と続いていた。
びしょ濡れになって、髪の毛がチョコレートソースでグチャグチャの茶色になっていた。
忌々しい髪だと虐められたのは、わかっている。
「ウィンディ、誰にやられた」
「こないでください、殿下が汚れます」
深い緑の瞳に涙をいっぱいにため、両手でドレスをギュッと掴んで仁王立ちをしていた。
「ウィンディすまない、側にいるつもりだったのに」
「謝ってはなりません。殿下は謝ってはなりません」
そう言ってウィンディは倒れた。
私はウィンディを抱きしめて泣いた。
友人であり、私の立場を知って謝るな、という令嬢一人守れないのか。
チョコレート塗れの私たちは侍従に引き離された。
その翌日からウィンディは王宮に来なくなった。
領地に戻ったと母上から聞いた。
その後、権力争いをする女性を一切受け付けなくなった。
あの茶会で笑っていた令嬢の誰かが、ウィンディに手を下したのだから。
再会したのは、六年前。
母上が秘書官を推薦してきた。
女はやめてくれ!そう言ったのに。
今年の王宮官吏試験を首席で合格した才女だと言うけれど、
執務室に女を入れたくない。
その日、彼女はやってきた。
見たくもない女、何が才女だ。
私は余所見をして挨拶を受けた。
「ウィンディ・ウィングでございます」
目の端にピンク色の髪が見えた。
え?
顔を向けると、美しいカーテシーをして頭を下げている。
秘書官らしい地味なドレス。髪をキリッとまとめている。
「か、顔を上げてくれ」
「ご無沙汰しております、殿下」
美しくなった。
深い緑の瞳は理知的で、キリッと結んだ唇。
桃のような柔らかそうな頬。
それからは、どんな時もどんな事もどんな問題が起きても、ウィンディはこなし、共に解決した。
軽い剣の稽古でも相手になってくれた。
配属先の希望が宰相の執務だったと後から聞いて、奪い取ってきた母上に感謝した。
そうだ、幼い頃のウィンディを知っているのは私だけだ。
そして今。
結婚の誓いをするために、神殿の赤い絨毯を共に歩いている。
いつから好ましいと思ったのだ。
叔父上が攫ったときか。
いや違う。あのときは絶対に手放せないと思っていた。
六年前に再会した時か。
再会するのが当たり前だった、と思ったくらいだった。
では会えなくなった時か。
チョコレートソースを頭からかけられても仁王立ちしていた姿を見て、差別などさせない王になろうと思った。
正しく評価される国に。
いつだ?いつ大切な人になった?
『わたくちは、いまいまちい髪をしています。ちかづいてはいけません。ではしつれい』
そう言って、笑顔で踵を返した時。
あの凛々しさと強さに惚れたのか。
赤い絨毯が終点に来た。
司祭の前に立つ。
忌々しい髪じゃない。
私はピンクブロンドの時から、その髪も、深い緑色の瞳も好きだった。
それは、あなただったからだ。
今、私の髪色と全く同じ髪色になったあなたは、王太子妃となり、いずれ王妃となり、更に羽ばたくだろう。
どうか私を置いて行かないでくれ。
踵を返すのだけは禁止だ。
あとは私のそばで存分に羽ばたけ。
私の全て。私の最愛。
ウィンディが手を差し出した。
王家に伝わるただ一つの王太子妃の指輪を、婚約指輪の隣、ウィンディの中指にはめる。
呪いは心配するな。
毎日、欠かさず、呪いを解いてあげよう。
ウィンディ、愛している。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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忌み嫌われたピンクブロンドの髪が、最後には愛する人の色に変わる。そんな小さな童話のようなお話になりました。
聞き間違いの「だいがの魔女」は、実は「代替の魔女」。
気づいていただけたでしょうか。最後までお読みいただきありがとうございました。




