6 髪が無くなりました
頭が痛くて目が覚めてしまった。
「……ここは」
「気がつかれたか。気分はいかがかな」
「……あ、バスゴーレ先生。殿下の」
「そうだ、私がわかるか」
ルシエル王太子殿下専属の侍医であるバスゴーレ先生だわ。
殿下の体調やお食事のことなどで、よくお会いしていたから。
「ええ、バスゴーレ先生。私、どうして」
バスゴーレ先生が、この数日のことを話してくださった。
そうだった、シャロン様とお茶を飲んで具合が悪くなったんだわ。
そしてお茶に、私のティーカップに毒が入っていて、倒れて三日間意識不明だったらしい。
「毒は解毒したが」
「私、どこか悪いのでしょうか」
「いや、はっきり伝えた方がいいので、伝えておこう。髪に異変があった」
「髪に?元から、忌み嫌われた髪色なので、異変があっても構わないです」
もう短く切ってしまったし、今更だわ。
先生が頭に巻いた包帯を外していく。
「痛みは、どうかね?」
「少しズキズキしますが、それだけです」
「そうか、痛みは少しずつ治まるから心配はいらない」
「はい、ありがとうございます」
そして鏡を見せてもらって、絶句した。
ない。
髪の毛が。
あの忌々しいピンク髪が、一本も頭には残ってなかった。
一本もない。
「大丈夫か、ウィング嬢。これからまた生える可能性もある。気を落とさないように」
先生が慰めてくださるけれど。
「ふふっ、ふふふふっ、あははは、これって、つるつる?」
「大丈夫か、ウィング嬢」
「ええ、ふふふっ、あの忌々しい髪が全部抜けちゃったのですね。ふふふふっ。スッキリしました。これでもう誰からも何も言われなくて済みます」
髪は女性の命って誰か言ってたかしら?
でもピンク髪は疎まれる、虐められる。ならいっそ無い方がいい。
どんな毒か知らないけれど、ピンク髪が無くなる毒って最高だわ。
そして涙が出てきた。
辛かったの。ピンク髪。忌髪。
王太子殿下の秘書官に相応しくない。
上司を破滅させる髪色。
辞職すべき。
ありとあらゆる揶揄を受けてきた。
あんな髪、無くていいのよ。
ずっと嬉しくて笑っていたら、先生が少し休みなさいと、お薬をくださった。
そしてぐっすり眠った。
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次に目覚めた時、殿下が側に座っていらした。
「ウィンディ、気分はどうだ」
「いつでも仕事に戻れそうです。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「謝るな。守ってやれなかったのは私の落ち度だ」
「いいえ、私の不注意が招いたことです。もっと気をつけるべきでした。でも、あのピンク髪が無くなったのですよ。私、嬉しくて。良かったです。本当に」
「ウィンディ、髪があってもなくても、ウィンディはウィンディ。私の大切な人だ。だから、もう髪のことは考えるな、いいね」
「殿下、秘書官を続けていいのでしょうか」
「……ウィンディ、それについては改めて話そう」
「えっ?仕事を続けられないのですか」
殿下が口ごもる。
目の前が真っ暗になった気がした。
ずっと続けていくつもりだったのに。
そう、用済みなのね、やっぱり髪がないと見た目も悪い。涙が出そうになる。
殿下の前で泣いてはダメだわ。
泣き落としみたいなこと、一番いやなのに。
「……殿下、一人にして、ください」
それを言うのが精一杯だった。
それでも、涙が溢れそうになってきた。
殿下は私の手をぎゅっと握ってくださるけど、そんな慰め。
「ひ、ひとりに、して、ください」
「一人にはできないな。君は優秀だが、早とちりが多い」
そんなこと言われたって、仕事が無くなるのに。
「これは、後日伝えるはずだったが、今のあなたを一人にはできない」
「ですから」
「ウィング嬢、次の役目を伝える」
「次の?」
次の仕事に、どこに行かされるの?
髪のない女ができる仕事なんて。
「ウィンディ・ウィング伯爵令嬢。王太子妃を命じる。これは王妃陛下が決定され、王命が出た決定事項だ」
「え?」
「聞こえたら返事をしろ」
「えっ?」
今、なんて?
「ウィンディ、何度も言わせるな。王太子妃だ」
「王太子妃ですか?誰が?」
殿下、意味がわかりません。
もしかしたら、王妃様の昼食会でそんなお話があったような気もするけれど、あれって意味がわからなくて。
「ウィンディ、愛している。私の唯一の妃になって、一生、私の側にいて欲しい、いいな!」
「……私が?」
「ウィンディ、良いのか嫌なのか?返事は?」
「は、はいっ。その、嫌じゃないです、良いです」
嫌じゃない私がいる。
殿下のことは、ずっと好きだった?私そうだったの?
「わかったならいい」
「では、秘書官は」
「秘書官もしたければすればいいが、どのみちずっと私の側にいるのだ。忙しくなるだけだ」
「あの……」
ずっと一緒にいるの?
「もう質問は受け付けない。こんなところで求婚させるやつがあるか。責任を取れ」
殿下は私の顎に指を添えて、口付けられる。どうしよう。
でも、あ、殿下が口付けを。
恥ずかしい。
そして抱きしめられた。
頭がむずむずする。こんな時に。
本日、完結予定です。




