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5 このお人好しが!

⌘

宰相閣下への書類を届け終わり、ルシエル殿下の執務室へ戻る途中、廊下を急いで歩いている時だった。


少し先に、うずくまっている人がいる。

あのブロンドの巻毛は、もしかしてシャロン様?

どうしてこんなところに、待ち伏せ?


「シャロン様、いかがされましたか」


「……すこし、めまい、が」


どうにも具合が悪そう。

「シャロン様、ウィンディです、わかりますか」


「……あ、ウィンディ様、私」

泣き腫らした目をしている。


助け起こして、一番近い、女性の休息室へお連れする。

「女性専用の休息室ですから安心なさって。医務室へ行かれますか」

「ここで大丈夫、ありがとう。少し休めば良くなると思うの」


シャロン様には長椅子を勧めてから、

お茶を用意してくれるメイドにハーブティーを頼んだ。


そしてシャロン様の側にかける。

「侯爵家にご連絡を入れましょうか」


「いいの。ルイ様に勝手に会いに来たから、お父様に知れるとお叱りを」

ああ、白い塔のルイ王弟殿下に面会しにいらしたのね。


「シャロン様、こんな事になってしまって」

「いいえ、私もウィンディ様に酷く当たっていたからお詫びしなくては。ルイ様をお止め出来なかったのは、婚約者の私が至らなかったせいだから」


そういう事ではないと思うけれど。


お茶が来た。

二つのティーカップに香りの良いハーブティーを注いで、シャロン様に勧める。


「ありがとう、ウィンディ様。あなたは優しいのね、私は虐めてばかりだったのに。でもルイ様があんなになられてしまって」


シャロン様が涙をこぼす。

「あの髪を大事そうに持って話しかけていたわ。何度呼んでも、私に気がついてくださらないのよ」


もう何と言っていいのか、言葉が見つからない。


「あっ、ごめんなさい」

シャロン様がお茶をこぼしてしまった。

動揺してしまうのもわかる。

あの髪を拾っている姿を見てるから。


リネンをもらいに、メイドのところへ立った。


席に戻ると、シャロン様が小さなバッグからハンカチを出していた。


「シャロン様、こちらお使いください」

シャロン様はハンカチを仕舞い、渡したリネンでドレスを拭く。

その間に、もう一度お茶を足す。


私もひと口飲んで、シャロン様の話を聞いた。

ここのハーブティーはいい香りがする。

気のせいか、今日は濃いめね。


婚約は解消になって、シャロン様は隣国の侯爵家へ嫁ぐ事になりそうだと聞いた。貴族女性の運命って、どうして男性によって決められてしまうのだろうと、しばし考え込んでしまった。


「ありがとう、ウィンディ様。聞いていただいて気持ちが楽になったわ。それにハーブティーが効いたのかしら。めまいもましになったので、お暇いたしますわ。もうお会いできないかもしれないけれど、お元気で」


「お気をつけて、ごきげんよう」


シャロン様はよろよろと馬車止めの方へ歩いていく。


婚約者を失うと、あんなになってしまうのね。威勢がよかったから、なんか人が変わってしまったみたい。


もっと別の出会いをしていたら、お友達になれていたかも。

そんな事を考えながら、執務室へ急ぐ。



⌘

執務室の前にルシエル殿下が行ったり来たりしていらした。側には護衛騎士のフリオ様もいる。


「ルシエル殿下、お出かけですか」

「遅い!」

「えっ?」

「宰相のところに書類を渡しに行っただけなのに、なんでこんなにかかった」

「あ、申し訳ございません。急ぎが出たのでしょうか」

「違う、どこかで、また連れ去られたかと」


あ、心配してくださっていたのね。

「ご心配をおかけして」

「心配などしていない!なんで遅くなった」

「シャロン様が具合が悪くなられて」


「シャロン・イーダー侯爵令嬢が?」

殿下が嫌そうなお顔になる。


「ええ、それで女性休息室で、休んでいただいて、ハーブティーをお勧めしていたのです。少し良くなられたので、もうお帰りになられました」


「茶を?飲んだのか」

「ええ、メイドが準備してくれたものを」


「それで……」

急にめまいがして、立っていられない。どうして。


「ウィンディっ!ウィンディ!どうした。フリオ!女性休息室だ」


「殿下、まさか、ハーブティーですね、茶器を押さえます」


「行け、急げ!」


「で、ん、か」

苦しい。頭が割れるように痛い。


「このお人好しが!」


殿下に抱き止められてどこかに寝かされた。

「マレウス!侍医を呼べ!解毒師も、すぐにだ、急げ」


周りが騒がしい。

頭が痛い。


「で、ん、あた、ま、いた、い」


踏み潰されるみたいに痛い、誰か、助けて。


そこで意識が途切れた。


不定期ですが完結します。

少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマや評価をいただけると嬉しいです。

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