4 思い知らせてやる
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ルシエル王太子殿下の執務室。
「殿下、ここと、ここに、ご署名を」
「ああ、わかった」
「殿下、これから宰相閣下との昼食会議があります。議題は来年度の昇格人事について。資料はこちらに。殿下!聞いておられますか」
「えっ、ああ、聞いている」
「お昼のご予定は?」
「え?ウィンディと昼食だろう?」
「違います!宰相閣下との昼食会議です、しっかりなさってください」
「ああ、ウィンディの髪は切っても、しっかりとまっすぐなのだな」
「はい?」
「っくっく」
側近のマレウス・ハイブレラ卿が笑っている。
「ハイブレラ卿、笑ってないで、何とかしてください。私、これから王妃様の昼食会のお手伝いに行くので、殿下の昼食会議への同行をお願いいたします」
「ウィング嬢、承知した。珍しいね、王妃様の手伝いって」
「ええ、殿下の婚約者候補の皆様の昼食会だそうです。殿下に関わることなので手伝うようにと」
「確かに、高位貴族のご令嬢ばかりだからな」
「まあ、ハイブレラ卿も、侯爵家でいらっしゃるのに」
「男の侯爵家出身と、女性のはちょっと違う。なかなか大変らしい。うちは姉上が隣国の王族に嫁いだからね、大変だったよ」
「おい!マレウス、何の長話をしているのだ」
「……」
ハイブレラ卿が肩をすくめる。
「では殿下、行って参ります」
「ウィンディ」
「はい?」
「終わったらすぐに戻ってくるように、すぐにだ!」
「はい、では行って参ります」
私は王妃様の昼食会へ急ぐ。
それにしても最近の殿下が少しおかしい気がするのだけど、原因がわからなくて、少し困っているのよね。
後で王妃様にご相談してみようかしら。
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ウィンディが出て行った後の王太子執務室。
「殿下」
「なんだ」
「早く、王妃様におっしゃった方がいいかと」
「いや、しかし」
「妃候補は、現在五人。今日、昼食会があるなら三人に絞られるはず。これ以上減ってしまうとイザベラ・バルトレル侯爵令嬢が筆頭。動くものも動かせなくなります」
「しかし王太子妃に関しての決定権は、父上と母上にある」
「そうですか、では私が、侯爵家から婚姻を申し込んでもいいのですね?ウィング伯爵家は、我がハイブレラ侯爵家からの婚姻申入れは断れないですよ」
「マレウス、お前!決闘してもいいんだぞ!」
「殿下、決闘の前にすることがあるのでは?」
「……わかっている」
「殿下、宰相閣下との昼食会議です」
「……わかった」
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そして王妃様の昼食会場。
「失礼いたします」
「あら、待っていたのよ」
「遅くなりまして、え、まだどなたも?」
王妃様以外、誰もいない。
あ、そうだわ、準備なのね。
「では、ご準備をお手伝いいたします」
「いいのよ、ウィンディ、かけてちょうだい」
「え?」
色々と食事が運ばれてきて、王妃様は人払いをなさった。
え?
殿下の婚約者候補の方々の昼食会のはずでは?
「あの、王妃様」
「びっくりしたでしょう?婚約者候補の昼食会で間違いないわよ」
それって、どういう?
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同じ頃、バルトレル侯爵家のガゼボに招待されたシャロン・イーダー侯爵令嬢は、イザベラ・バルトレル侯爵令嬢と秘密の話をしていた。
「ねえ、シャロン様。私たち、お互いに婚約を潰されたのですわよ」
「バルトレル侯爵家が筆頭候補と伺っておりましたが、何かあったのですか」
「昨日、選考外になったと正式な通達があったのよ」
「ええっ、そんな急に?」
「そう。それで今は、誰が最有力候補かご存知かしら」
「他に思い浮かびませんわ」
「あの女よ。忌み嫌われる凶髪の女よ」
「まさか、そんな。あの女は、ルイ様を白い塔へ追いやった上に、まだ私たちを苦しめるのですか」
「そうよ、この国の将来のために、あの女を生かしてはおけない」
そしてイザベラはシャロンに、特殊な薬を作れる魔女を紹介した。
「これだけあれば、いい薬を作ってくれるわ。あなたの恨みも晴らせるわよ」
「だいがの魔女。イザベラ様は一緒に行かれないのですか」
「私はあなたとこの屋敷にいた事を示すためにも、ここにいなくてはならないわ。さあ、シャロン様、ドレスを着替えて出発なさって。あなたのドレスは侍女に着せて、ここにいたように見せかけるわ」
「何から何までありがとうございます。では、行ってまいります」
「シャロン様、くれぐれも、手筈どおりにいたしましょう。きっとルイ殿下も報われますわ」
「ええ、きっと」
シャロンは紋章のない地味な馬車に乗り、だいがの魔女の元へ向かった。
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代替の魔女の森の家。
「で、お嬢さん、人を殺す薬がほしいのかい」
「えっ、その、私、思い知らせてやりたいのです」
「殺して、かい」
「いえ、死んでほしいわけじゃなくて、髪が、髪が許せないんです」
「髪?」
「ピンクなんです。ピンクの髪だったから、婚約者が」
「詳しく話しておくれよ、薬を作るには、話をよおく聞かないとね」
シャロンはたくさん話した。
「そうかい、そうかい、よくわかったさ。ではお嬢さんに一番ぴったりな薬を作ってやろう。ただね、お嬢さん、よく聞きな。人を傷つけたら、いつか自分にも返ってくる、それを知っておくんだよ」
「でも死なないで、懲らしめることはできるんですよね」
「できるさ、この薬と引き換えに、お嬢さんの持ち物を一つくれるかい」
「お金はたくさんあります」
「お金は少しでいいんだよ。でもお嬢さんの持ち物、そうだね、髪を一本くれるかい」
「髪を?たった一本でいいのですか?」
「そうさ、一本でいいんだよ」
「ええ、どうぞ」
だいがの魔女は、シャロンの髪を一本抜き取った。
そして薬を渡してこう言った。
「一滴でいいからね。お茶でも菓子でも、一滴かけるだけでいいんだよ」
「だいがの魔女様、ありがとうございます」
代替の魔女はにっこりと笑ってシャロンを見送った。
シャロンはその薬の小瓶を大切に持ち帰った。
「きっと、きっと、思い知らせてやるわ。ルイ様の仇を討つのよ」
不定期更新ですが完結します。




