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2 殿下、もしかして無自覚ですか

ここで騒いでも、状況は悪化するだけだわ。

まずは身を守る事。


敵は、順当に考えても、疑いたくはないけれど、ルイ王弟殿下。

次はシャロン様。


でも、王太子殿下の馬車を偽装するなんて、あのヒステリックなシャロン様にできるはずがない。

馬車をどうこうするなら、王弟殿下。


なら、かなり状況はまずい。

万が一、王弟殿下に手を出されても、相手は王族。責任をとって側妃にされてしまうだけ。

そうなったら王弟殿下一筋のシャロン様が黙ってはいない。

いつか命を奪われる。


身を守れるものは、護身用の短剣と、悪漢撃退用の魔粉、このくらいしか持ってない。

王弟殿下の魔力は、かなり強い。

拘束されたら、私に反撃できる魔法はない。

そう、おしまい。


聖属性魔法の使い方。

考えないと。こんなところで、無理矢理、側妃にされてたまるもんですか。


王宮内部の文官になるための上級試験に受かるため、寝る間を惜しんで勉強した。

希望は、宰相閣下の部署だったけれど、王妃様の希望で王太子殿下の秘書官になった。

周りから髪色で嫌味を言われるのは日常茶飯事。揶揄されたり、色々あったけれど、ここまで六年間、務めあげてきた。


あの日、王弟殿下にさえ遭遇しなければ。


そして馬車が止まる。

身構える。

扉が開く。


ああ、やっぱり。


「やあ、ウィンディ・ウィング伯爵令嬢、僕の未来の妃よ」


もう、ウンザリだわ。



⌘

その頃、王宮の王太子執務室では密かに慌ただしくなっていた。


「殿下、広域捜査に変えた方が」

側近が言い出した。何を馬鹿なことを言っている。


「馬鹿を言うな。貴族令嬢が拐われて、数時間経てばどんな噂がたつかわかっているだろう。どれだけ身の潔白を訴えても、誰も信じない。そんな事、私は耐えられない。フリオ、時間との勝負だ。口の堅い騎士を目立たぬように揃えろ。くれぐれも平静を装え、いいな」


フリオが返事をし、静かに出て行く。

もう一人、護衛をつけるべきだった。

いやしかし、王族専用の馬車止めが危険なんて誰も考えない。

フリオのせいでもない、いつもそうしていたのだから。

今更悔やんでも遅い。


側近に指示を出して行く。

一人の側近が戻ってきた。


「どうだった」

「王妃様にお伝えして調べていただいたところ、王弟殿下は、昨夜から狩りに出られたご様子。だれも王宮内でお姿を見ておりません」


「叔父上が狩りだと?私の秘書官を狩るつもりなら許さない!それで母上はなんと?」

叔父上は芸術家肌だ、狩りなどしない。美しいものを集める収集癖があるだけだ。


「はい、イーダー侯爵令嬢は妃教育で朝から登城し、特にいつも通りで、共謀の可能性は低いかと」


シャロン嬢はすぐに顔に出る。いつも通りなら、知らない可能性が高い。


「馬車の線は?」

ああ、イライラする。

こんな時こそ、有能なウィンディがいてくれたら。


「はい、王妃様の影からの報告では、王弟殿下の専用馬車が三台出払っている模様。王弟殿下専用装飾の馬車二台と、ルシエル殿下と同じ形式の馬車が一台、だそうです」


母上の影は優秀だ、信じていい。

私は王家の所有地の地図を広げる。


叔父上所有の土地と建物、常に自由に使っている別宅。

愛人をつれこんでいる屋敷は、高位貴族全員が知っている。そこは除外でいいか。

皆があまり知らぬ場所で、無人ではなく、管理の使用人が少ないのはどこだ。


フリオは、騎士を五人連れて戻ってきた。

「殿下、皆信用に足るものばかりです」


確かに、若い騎士ではなく、父上や母上の護衛をしていたものもいる。


「集まってくれて礼を言う。私の秘書官が拐われた」

一瞬で空気が冷え、緊張感が高まる。


一人の古参の騎士がこちらを見る。父上の護衛を長年務めた後、騎士団の特別任務の指導をしている教官だった。

私が頷くと口を開いた。


「殿下、王弟殿下の動きは?」

「これまでに集まってきた情報を精査しているが、叔父上が狩りと称して王宮を出ている」


「秘書官殿の仕事ぶりは王宮内でも有名です。宰相閣下と王妃様が取り合いをした程の才媛。王弟殿下でなければ、王太子妃候補の家門でしょうな」


「なぜ、私の妃候補が怪しいのだ」


一番の側近のマレウス・ハイブレラが呆れたような声を出した。

「殿下のお妃候補のライバルは、候補同士ではなくて、ウィンディ・ウィング伯爵令嬢ですよ。もしかして無自覚だったのですか」


「どういう意味だ、なぜウィンディが」


「ほら、執務室内だけとは言え、名前呼び。常に帯同させ、秘密保持が厳しい仕事ほど、彼女で回っている。もちろん私達も同様ですが、彼女の受け持ち範囲が広すぎる。王妃様の信頼が一番厚い貴族女性と言えば、ウィンディ・ウィング伯爵令嬢しかおられませんが」


は?

「それは、ウィンディが有能だからであって」


いや、それだけか?

いつも側にいてくれると安心するし、執務も捗る。

どんな困難な事でも共に立ち向かってくれた。

だから、ただの有能な秘書官だろう。


みんなが私の顔をじーっと見る。

なんだ、その視線は。


「あっ」

「急に大声を出すな」

「ほら、昨日ウィング嬢が、王弟殿下の使途不明金云々って」

「あ、それ。殿下、昨日、極秘の監査が必要って、ウィング嬢が言ってませんでしたか?」


そういえば。

執務机の上の書類を。

ウィンディが数時間いないだけでなぜこう散らかるんだ。


あった!封印魔法がかけてある書類。

ウィンディの魔法の痕跡はすぐにわかる。


魔力を流して、書類を開く。


ここまで調べていたのか。

「叔父上が屋敷を購入していた」

皆が書類を覗き込む。

新しい屋敷だった。


古参の騎士が図面を見て発言する。

「他の屋敷にも巡回の振りで騎士を行かせますが、ここは馬車が数台停められます。他の屋敷は馬車が一台しか入れない。そこは除外してもいいのでは」


「確かに、愛人が住んでいる屋敷と、絵を描くアトリエは確認だけでも良さそうだが。念には念を入れてほしい。ウィンディに何かあったら」


そして、数班に分かれて、目立たぬように王宮を出発した。

母上が万が一の為に、影の中から女性を二人貸してくれた。


万が一はあってはならない。

必ず助ける。

ウィンディ、頼む、持ち堪えてくれ!


不定期更新ですが完結します。

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