第23話 隠し財産
ニックは上機嫌だった。
久しぶりの広い場所。
飛び回る。
つつく。
鳴く。
自由だった。
そして。
いつの間にか楽器の上に降り立った。
白と黒の鍵盤。
クレスタは楽器のことなど分からない。
ニックも当然分からない。
ただ止まっただけだった。
ポロン。
低い音が響く。
その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……
「ん?」
クレスタが振り返る。
壁が動いている。
さっきまで普通の壁だった場所。
それがゆっくり後ろへ下がる。
さらに横へ消えた。
「え?」
担当者も固まる。
「え?」
二人同時だった。
ニックは音が鳴ったことに驚いた。
「ピー!?」
慌てる。
バタバタする。
そして隣の鍵盤へ。
ポロン。
少し高い音。
パチッ。
隠し部屋の奥に明かりが灯った。
部屋全体が明るくなる。
沈黙。
数秒。
クレスタが言った。
「それスイッチかよ!」
担当者も苦笑する。
「随分おしゃれな仕掛けですね」
隠し部屋が現れた。
中は意外と広い。
埃も少ない。
保存状態が良い。
そして中央。
五つの宝箱。
並んでいた。
「……」
クレスタが止まる。
嫌な予感しかしない。
悪徳領主。
隠し部屋。
宝箱。
ろくなものが入っていない。
そんな気がした。
「帰ろうかな」
クレスタが呟く。
担当者が驚く。
「え?」
「いや」
「開けないんですか?」
「嫌な予感がする」
「でも気になりません?」
「気になる」
「でしょう?」
担当者も完全に興味津々だった。
目が輝いている。
「何があってもあなたの物です」
「そうだけど」
「秘密も保持します」
「本当か?」
「もちろんです」
その時だった。
ニックが勝手に動いた。
宝箱の上へ着地。
そして。
クチバシでカチャッ。
開いた。
「あ」
クレスタが止める前だった。
宝箱が開く。
中には。
書類。
大量の書類。
「なんだ?」
クレスタが手に取る。
読む。
数秒後。
顔が引きつる。
「おいおい」
担当者も覗き込む。
そして。
顔色が変わった。
横領帳簿だった。
詳細。
金額。
流用先。
裏金。
賄賂。
全部書いてある。
しかも。
とんでもない金額。
担当者が震える。
「すごいな……」
「そんなに?」
「王家が怒るレベルです」
「そりゃ処刑されるな」
クレスタも納得した。
すると。
ニックがまた動く。
「ピー!」
二個目。
パカッ。
眩しい。
二人とも目を細める。
黄金だった。
金の延べ棒。
ぎっしり。
箱いっぱい。
「うわっ」
担当者が声を上げる。
「これは凄い」
三個目。
パカッ。
金貨。
ぎっしり。
四個目。
また金貨。
ぎっしり。
クレスタが頭を抱える。
「やめろニック」
ニックは止まらない。
最後。
五個目。
パカッ。
宝石。
指輪。
首飾り。
王冠。
腕輪。
宝飾品。
山のように入っていた。
部屋が静かになる。
誰も喋らない。
ニックだけが満足そうだった。
「ピー!」
褒めてほしいらしい。
クレスタは無言。
担当者も無言。
しばらくして。
担当者が計算を始めた。
職業病だった。
指を折る。
何度も折る。
そして。
震えながら言った。
「ざっとですが」
「うん」
「金貨だけで五十万枚」
クレスタが固まる。
「は?」
「五十万枚」
「は?」
担当者はさらに続ける。
「延べ棒と宝飾品も売れば」
「売れば?」
「二百万枚程度でしょうか」
沈黙。
クレスタの脳が停止した。
二百万枚。
意味が分からない。
十三万枚でさえ困っていた。
それが。
二百万枚。
もう数字が現実味を失っていた。
クレスタは担当者の肩を掴む。
「頼む」
「はい?」
「誰にも言わないでくれ」
真剣だった。
本気だった。
「これ以上有名になりたくない」
担当者が笑う。
「安心してください」
「本当か?」
「もちろんです」
そして小声で続けた。
「私も共犯扱いは嫌ですので」
「だよな!」
二人は固く握手した。
その時だった。
ニックが宝飾品の山をつつく。
カラン。
小さな指輪が転がった。
クレスタは拾い上げる。
黒い金属でできた古い指輪だった。
宝石も付いていない。
「なんだこれ」
担当者も首を傾げる。
「価値はありそうですが、宝飾品としては地味ですね」
クレスタは適当に宝飾品の箱へ戻した。
今気になるのはそこではない。
山積みの金貨だった。
二つの箱だけで五十万枚近い。
さらに金塊。
宝飾品。
頭が痛くなる。
「もう嫌だ……」
思わず本音が漏れる。
担当者が笑った。
「普通は喜ぶんですがね」
「俺は平穏に暮らしたいだけなんだ」
クレスタは宝箱を見渡した。
そして一つの結論に達する。
「これは持っといちゃダメなやつだな」
横領帳簿。
裏金。
財産。
全て前領主の犯罪の証拠だ。
処刑されたとはいえ、王家の財産として扱われる可能性もある。
下手に隠して後で見つかれば面倒だ。
「王都に持って行くか」
担当者が驚く。
「王都ですか?」
「あぁ」
クレスタは帳簿を手に取る。
「こういうのは偉い人に渡した方がいいだろ」
「確かにそうですね」
「俺じゃ判断できん」
帳簿を収納する。
続いて証拠書類も収納。
念のため数冊抜き出して確認したが、内容は本物だった。
不正会計。
横領記録。
賄賂の受け渡し。
証人の名前。
全部残っている。
「これ残してたのもすごいな」
「逃げ切れると思っていたのでしょう」
担当者が苦笑した。
クレスタは頷く。
金貨や宝飾品は一旦そのまま隠し部屋に残した。
収納してもいいが、逆に危険な気がした。
まずは王都。
報告。
その後だ。
「しかし」
担当者が言う。
「また大変なことになりそうですね」
クレスタは遠い目をした。
「最近そればっかりだ」
マチョモ山から帰ってきてから。
熊。
蜘蛛。
フェニックス。
暗殺未遂。
大金。
城購入。
隠し財産発見。
一つも平穏な出来事がない。
「とりあえず今日は風呂だな」
「それがいいですね」
「あと飯」
「それも大事です」
クレスタは大浴場の方向を見る。
せっかく城を買ったのだ。
まずは一番大きな風呂に入ろう。
王都へ行くのはその後でも遅くない。
だが彼はまだ知らない。
銀狼の牙を救助したS級パーティ『悪楽の宴』が、ロンギヌスというとんでもない神器を持って街へ戻ろうとしていることを。
そしてその神器が、新たな騒動の始まりになることを。




