第22話 城の隠し部屋
クレスタは即決した。
「これ買う」
不動産屋の担当者が何度も確認した。
「本当に?」
「うん」
「十万枚ですよ?」
「うん」
「後悔しません?」
「しない」
結果。
庭で契約書にサインした。
金貨十万枚。
その場で支払う。
担当者は途中から手が震えていた。
人生でこんな取引は初めてだった。
そして。
契約成立。
悪徳領主の城は正式にクレスタの所有物となった。
「おめでとうございます」
「ありがとな」
こうして荷物持ちクレスタは城主になった。
本人は全く実感がなかった。
そのまま二人は敷地内へ入る。
まず庭。
広かった。
とにかく広い。
綺麗に整備された庭園。
色とりどりの花畑。
小さな家庭菜園。
さらに普通の畑まである。
「広すぎないか?」
「広いですね」
担当者も苦笑する。
さらに進む。
大きな池。
鯉が泳いでいる。
かなり大きい。
池というより小さな湖だった。
「魚釣れるかな」
「鯉しかいませんね」
「そうか」
少し残念だった。
さらに奥。
裏山への入り口。
石段まで作られている。
「山付きか」
「山付きです」
「すげぇな」
そして。
いよいよ城へ入った。
巨大な玄関。
土足仕様。
冒険者向きだ。
クレスタは気に入った。
中央には巨大な階段。
馬車でも登れそうなほど広い。
「何人住んでたんだ?」
「使用人含め百人近くですね」
「多いな」
まず一階を見て回る。
左側。
大浴場。
「おお!」
クレスタが目を輝かせる。
広い。
大きい。
洗い場まである。
「最高じゃん」
その隣。
トイレ。
無駄に広い。
落ち着かない。
「なんでこんな広いんだ」
担当者も知らなかった。
さらに進む。
巨大なキッチン。
厨房と言った方が近い。
大人数向け。
右側。
大食堂。
長いテーブル。
豪華な椅子。
何十人でも座れる。
「ここで飯食うのか」
「そうですね」
「一人で?」
「一人ですね」
想像した。
寂しかった。
さらに奥。
庭へ出る扉。
開ける。
「おお?」
温室だった。
ガラス張り。
暖かい。
見たこともない植物。
果物。
花。
そして。
大量の蝶。
ひらひら舞っている。
大きい。
綺麗だ。
中には手のひらほどある蝶までいた。
「これ逃げないのか?」
「不思議ですよね」
担当者も知らない。
元領主が集めたものらしい。
その後。
地下へ向かう。
石の階段。
地下一階。
まず見えたのは。
牢屋。
「へー」
四部屋ある。
鉄格子付き。
頑丈そうだ。
「牢屋か」
「牢屋ですね」
使う予定はない。
その奥。
詰所。
さらに扉。
開ける。
「なんだここ?」
広い部屋だった。
壁が厚い。
音が反響しない。
そして。
奇妙な道具が並んでいる。
「楽器部屋ですね」
「楽器?」
クレスタは首を傾げる。
興味がない。
知識もない。
だから全部変な物に見えた。
五本の弦が付いた巨大な楽器。
カブトムシみたいな形。
白と黒の鍵盤。
巨大な太鼓。
他にも色々。
見たことがない。
「なぁ」
クレスタが聞く。
「これ全部俺のか?」
「はい」
担当者が即答する。
「全部込みです」
「いらねぇな」
担当者が苦笑する。
「売れば高いかもしれません」
「これ以上金増えるのはごめんだな」
本気だった。
十三万枚を持った今。
金のありがたみが逆に分からなくなっていた。
その時。
クレスタが壁を見た。
違和感。
ほんの少し。
色が違う。
誰も気づかない程度。
しかし。
荷物持ちとして何年も生きてきた。
観察力だけはある。
「ん?」
近づく。
叩く。
コン。
コン。
コン。
違う。
一か所だけ。
音が微妙に違った。
「なんだこれ」
もう一度叩く。
やっぱり違う。
担当者も近づく。
「本当ですね」
「隠し部屋かな?」
二人とも壁を見る。
その時。
クレスタは思い出した。
「あ」
「どうしました?」
「ニック出すの忘れてた」
収納バッグを開く。
「ニック」
ポン。
小さな炎が現れる。
フェニックスの子供。
ニックだった。
「ピーーー!」
嬉しそうに飛び回る。
久しぶりの外。
羽を伸ばす。
部屋を一周。
二周。
三周。
そして。
ピタッ。
壁の前で止まった。
隠し部屋らしき場所。
「ん?」
クレスタが首を傾げる。
ニックが壁を見ている。
いや。
壁の向こうを見ているようだった。
「ピー!」
ニックが壁をつつく。
コン。
そして。
もう一度。
コンコン。
さらに。
「ピーーー!」
興奮し始めた。
クレスタが近づく。
「どうした?」
ニックは壁に頭を押し付ける。
まるで。
『ここだ』
そう言っているようだった。
次の瞬間。
ニックが鍵盤に乗った。
ボロンと低い音が出た。




