第21話 城を買おう
クレスタは悩んでいた。
十三万枚。
金貨十三万枚。
普通なら一生遊んで暮らせる金額だった。
だが。
嬉しいだけではない。
目立つ。
ものすごく目立つ。
「襲われたらたまらんな……」
街を歩きながら呟く。
盗賊。
詐欺師。
借金の申し込み。
変な投資話。
絶対来る。
クレスタにもそれくらいは分かった。
だから決めた。
「使おう」
貯め込むのは危険だ。
資産に変えよう。
残る物に。
「まず住むところだな」
宿暮らしは終わりだ。
立派な家を買おう。
そう考えて不動産屋へ向かった。
街で一番大きな不動産屋。
中に入る。
担当者が出てきた。
「いらっしゃいませ」
愛想のいい中年男だった。
「家を探してる」
「ご予算は?」
「十万枚くらい」
担当者が固まった。
「はい?」
「十万枚」
「じゅうまん?」
三回聞き返した。
クレスタは頷く。
担当者は顔を引きつらせた。
普通は金貨百枚。
良くて数百枚。
豪邸でも数千枚。
十万枚など聞いたことがない。
だが客は真面目だ。
最近話題の大富豪。
蜘蛛の糸の人。
間違いない。
担当者は慌てて案内を始めた。
最初の家。
大きい。
立派。
庭付き。
金貨一万二千枚。
「うーん。安いな」
クレスタは首を傾げる。
狭い。
次。
二万枚。
三万枚。
どれも悪くない。
しかし。
なんというか。
値段が普通だった。
「もっとないの?」
担当者が汗をかく。
「もっと……ですか」
「十万枚くらいで」
担当者は沈黙した。
そして。
立ち上がる。
「少々お待ちください」
奥へ消える。
数分後。
一枚の書類を持って戻ってきた。
「本来ならおすすめしない物件です」
「ほう」
「ですが予算的には十分です」
クレスタが覗き込む。
地図。
広い敷地。
裏山。
池。
畑。
森。
そして。
中央に巨大な建物。
「城?」
担当者が頷く。
「元領主の居城です」
クレスタが目を丸くする。
「城なの?」
「正確には城塞屋敷ですね」
「へぇ」
面白そうだった。
担当者が説明する。
「元城主が住んでいました」
「いた?」
「はい」
「今は?」
担当者は苦笑した。
「五年前に処刑されました」
クレスタが固まる。
「処刑?」
「はい」
「なにやったの?」
担当者は指を折り始めた。
「横領」
一本。
「奴隷売買」
二本。
「パワハラ」
三本。
「セクハラ」
四本。
「その他多数」
五本。
クレスタが呆れる。
「そりゃ処刑されるな」
「私もそう思います」
担当者も頷いた。
そして続ける。
「以後、所有者がおりません」
「なんで?」
「広すぎます」
「なるほど」
「維持費も凄いです」
「なるほど」
「それと」
担当者が小声になる。
「少しだけ幽霊の噂があります」
「へぇ」
クレスタは気にしない。
むしろ面白そうだった。
「見に行こうか」
「かしこまりました」
その日のうちに出発した。
馬車で移動。
街を出る。
十分ほど。
やがて坂道が見えてきた。
かなり立派な街道だった。
石畳。
排水路。
馬車も余裕。
整備が行き届いている。
担当者が説明する。
「昔は領主専用道路でした」
「へぇ」
クレスタは感心する。
そして。
坂を登り切った。
視界が開ける。
目の前に。
巨大な建物。
「おお……」
思わず声が漏れた。
城だった。
本当に。
高い石壁。
見張り塔。
巨大な門。
広い中庭。
屋敷というより要塞。
いや。
ほとんど城である。
担当者が胸を張る。
「あれです」
クレスタは見上げる。
圧倒される。
「でかいな……」
「敷地面積は街の一角に匹敵します」
「マジか」
裏山も見える。
かなり広い。
森まである。
狩りもできそうだ。
畑も作れる。
訓練場もある。
倉庫も巨大。
そして。
なぜかクレスタは思った。
「ニック喜びそう」
収納バッグから出したら好き勝手飛び回るだろう。
そんな光景が浮かぶ。
担当者が恐る恐る聞いた。
「いかがでしょう」
クレスタは城を見上げる。
壁を見る。
塔を見る。
広い庭を見る。
そして。
満面の笑みになった。
「気に入った」
担当者が固まる。
「本当に?」
「うん」
「即決ですか?」
「うん」
「中も見ずに?」
クレスタは笑った。
「どうせ住むなら大きい方がいい」
担当者は頭を抱えた。
普通は慎重に見る。
何日も悩む。
しかし。
目の前の男は違う。
荷物持ちだった男は。
人生初のマイホームとして。
城を買おうとしていた。




