第20話 所有者
クレスタは呆然としていた。
目の前に積み上がる金貨。
金貨。
金貨。
金貨。
まさに山だった。
「十三万枚になります」
査定士が言う。
クレスタは聞き返した。
「いま何枚って言いました?」
「十三万枚です」
「十三万?」
「はい」
「十三万?」
「はい」
三回聞いた。
変わらなかった。
十三万枚だった。
クレスタの頭では理解が追いつかない。
荷物持ち時代。
月給は金貨三枚。
それでも十分だった。
なのに今。
十三万枚。
人生百回分くらい働いた額に思えた。
「えっと……」
クレスタが震える。
「これ全部俺の?」
「全部あなたのです」
査定士が笑う。
周囲の職員も笑う。
そして。
誰かが言った。
「一気に大金持ちだな」
その一言がまずかった。
噂は早い。
街中に広がった。
クレスタが大儲けした。
十三万枚。
蜘蛛の糸。
超高級素材。
富豪。
わずか半日で広まった。
クレスタは後に叫ぶことになる。
「個人情報は!?」
もちろん誰も答えてくれなかった。
一方その頃。
ダンジョン。
S級パーティ『悪楽の宴』は慎重に進んでいた。
リーダーのバッドが先頭を歩く。
巨大な剣を肩に担いでいる。
「気を抜くな」
低い声。
メンバーたちも頷く。
彼らは街最強。
S級パーティ。
迷宮探索の専門家だった。
地図。
目印。
帰還経路。
全てを記録しながら進む。
数時間後。
一人が叫んだ。
「いたぞ!」
全員が駆け寄る。
そこには。
銀狼の牙が転がっていた。
酷い有様だった。
レミア。
ミリア。
バッシュ。
そしてガルド。
全員やせ細っている。
唇も乾いていた。
今にも死にそうだった。
「生きてるのか?」
仲間が確認する。
胸に耳を当てる。
「息はしてる」
「よし」
全員ほっとした。
だが。
バッドだけは別のものを見ていた。
ガルドだった。
正確には。
ガルドが抱えている槍。
黒い槍。
異様な存在感。
見た瞬間に分かる。
普通じゃない。
「なんだ?」
バッドが近づく。
空気が震える。
魔力。
いや。
もっと別の何か。
神々しい圧力。
「この槍……」
思わず呟く。
「すごいな」
仲間も顔をしかめる。
「なんだこれ」
「魔道具じゃねぇぞ」
「気味が悪い」
ガルドは薄く目を開けた。
意識が戻りかけていた。
だが身体は動かない。
水も食料も尽きていた。
それでも。
槍だけは抱き締めている。
「さ……」
かすれた声。
「さ……わ……る……な……」
バッドは眉をひそめる。
「は?」
「さ……わ……る……な……」
「めんどくせぇな」
バッドはため息をつく。
そして。
無理やり槍を掴んだ。
ガルドが抵抗する。
だが力がない。
簡単に引き剥がされた。
ロンギヌス。
その神槍がバッドの手に渡る。
しかし。
何も起きない。
バッドは首を傾げる。
「ん?」
ガルドが笑った。
血の混じった笑い。
「くっ……くっくっ……」
全員が見る。
「無駄だ……」
ガルドが言う。
「俺が死なない限り……所有者は変わらない……」
沈黙。
悪楽の宴も固まった。
数秒。
静寂。
そして。
バッドが言った。
「お前」
「ん?」
「馬鹿だな」
ガルドの笑みが止まる。
次の瞬間。
ザシュッ!
剣が腹に突き刺さった。
「がっ!?」
全員が固まる。
バッドは無表情だった。
「じゃあ死ねや」
さらに刺す。
ザシュッ!
ザシュッ!
ザシュッ!
「ぎっ……」
「やめ……」
ザシュッ!
ザシュッ!
ザシュッ!
ガルドの身体が痙攣する。
やがて動かなくなった。
静寂。
誰も喋らない。
悪楽の宴の仲間たちは、ニヤケて見ていた。
「リーダー……」
「ん?」
「もう死んでる」
「そうか」
バッドが剣を収める。
そして。
その瞬間だった。
ロンギヌスが震える。
黒い光。
重圧。
神威。
全員の頭に声が響く。
『契約者の死を確認』
『所有権移行』
『新たなる主を認定』
ロンギヌスが輝いた。
そして。
バッドの手に吸い付く。
知識が流れ込む。
能力。
力。
使い方。
全て。
バッドは目を見開いた。
「なるほど」
笑う。
久しぶりに。
心から。
「5天神器か」
その言葉に。
悪楽の宴のメンバーたちが青ざめた。
神器。
伝説。
国家戦力。
その言葉の重さを知っていたからだ。
そして誰も知らない。
悪楽の宴は、もれなくA級パーティを殺した。
これから始まる神器を巡る戦いを。




