第16話 槍の主
銀狼の牙は焦っていた。
非常に焦っていた。
予定では簡単だった。
クレスタを始末する。
神器を奪う。
帰る。
それだけだった。
しかし現実は違う。
「くそっ!」
ガルドが壁を殴る。
「また行き止まりだ!」
二時間。
二時間も歩いていた。
完全に迷っていた。
しかも最悪なことに。
食料。
水。
予備装備。
寝具。
調理器具。
全部。
クレスタの収納バッグに入っている。
そして。
その収納バッグは使えない。
「最悪だ……」
レミアが座り込む。
ミリアも青ざめていた。
「帰れなかったらどうしましょう」
「帰るしかねぇだろ」
バッシュが苛立つ。
しかし誰も道がわからない。
地図は役に立たない。
二種類ある。
しかも内容が違う。
地獄だった。
そんな時。
通路が変わった。
長い。
異様に長い。
しかも分岐がない。
真っ直ぐ。
ひたすら真っ直ぐ。
そして。
遠くに光。
「あれ?」
レミアが目を細める。
「出口か?」
ガルドも顔を上げる。
「外かもしれん!」
全員の表情が明るくなる。
助かった。
そう思った。
そして走る。
ひたすら走る。
二十分ほど。
ようやく到着した。
だが。
外ではなかった。
小部屋だった。
石造り。
静寂。
中央には祠。
そして。
祠の裏。
一本の槍が刺さっていた。
真っ黒な槍。
異様な存在感。
空気そのものが重い。
ガルドは近づく。
「なんだこれ……」
手を伸ばす。
握る。
その瞬間。
頭の中に声が響いた。
『我が名はロンギヌス』
ガルドが固まる。
全員が驚く。
声は続く。
『全てを貫く槍』
『我を手にする者よ』
『汝を主と認める』
次の瞬間。
槍が光った。
黒い光。
禍々しいほど美しい。
そして。
知識が流れ込む。
神器。
五天神器。
全てを貫く槍。
ロンギヌス。
「……はは」
ガルドが笑う。
「ははははは!」
笑いが止まらない。
レミアたちも震えていた。
神器。
本物だ。
しかも五天神器。
伝説そのもの。
ガルドは槍を掲げる。
「見ろ!」
目が輝いていた。
「俺は選ばれたんだ!」
さっきまでの恐怖が消える。
自信が湧く。
万能感が湧く。
生きて帰らなければならない。
絶対に。
神器を持って。
英雄として。
ガルドはそう強く思った。
一方その頃。
クレスタ。
「……ん」
目を開けた。
天井が見える。
石。
暗い。
冷たい。
「どこだ?」
ゆっくり起き上がる。
頭がぼんやりしている。
妙に眠かった。
二時間ほど眠った感覚がある。
身体は重い。
だが動く。
「なんだったんだ?」
記憶が曖昧だった。
途中までは覚えている。
ダンジョン。
松明。
仲間。
そこから先がない。
途切れている。
「寝たのか?」
よくわからない。
立ち上がる。
そして。
違和感に気づく。
「あれ?」
肩が軽い。
腰も軽い。
「ん?」
収納バッグがない。
クレスタは周囲を見る。
何もない。
もう一度見る。
やっぱりない。
「え?」
冷や汗が流れる。
「嘘だろ」
慌てて探す。
ない。
完全にない。
収納バッグ。
神器。
旅の相棒。
全部入っている。
ニックもいる。
「おーい!」
叫ぶ。
返事はない。
当然だ。
ニックは収納空間の中。
バッグごと持って行かれている。
「なんだこれ」
意味がわからない。
なぜ自分は寝ていたのか。
なぜ一人なのか。
なぜバッグがないのか。
理解できない。
だが。
クレスタの結論は単純だった。
「みんなとはぐれたのか」
そう思った。
悪意など想像もしない。
裏切りなど考えもしない。
人が良すぎた。
「探さないとな」
立ち上がる。
そして。
歩き始めた。
問題は。
方向である。
クレスタは倒れていた。
意識もなかった。
つまり。
どちらから来たか分からない。
本人は考える。
「たぶんこっちだな」
勘だった。
そして。
逆だった。
完全に。
見事なまでに。
来た方向と逆。
銀狼の牙とは反対方向へ。
クレスタは進む。
のんびり。
何も知らずに。
そして。
歩き続けること三十分。
遠くに。
うっすらと光が見えた。
「あれ?」
クレスタが立ち止まる。
「出口か?」




