第15話 暗闇の迷宮
翌朝。
クレスタは目を覚ました。
久しぶりのベッド。
柔らかい布団。
最高だった。
「やっぱ街はいいな」
大きく伸びをする。
すると。
肩の上のニックが妙だった。
いつもなら朝から元気に鳴く。
しかし今日は違う。
落ち着きなく部屋を歩き回る。
窓を見る。
扉を見る。
そして何度もクレスタを見る。
「ピー……」
低い声だった。
警戒している。
明らかに。
「どうした?」
「ピー!」
ニックが羽を広げる。
怒っているようにも見えた。
クレスタは考える。
そして結論を出した。
「なるほど」
ニックが頷く。
「お前狙われるかもしれないもんな」
「ピー?」
話がずれていた。
クレスタは気付かない。
フェニックス。
神獣。
高く売れそう。
珍しい。
狙われてもおかしくない。
そう考えた。
「よし」
収納バッグを開く。
「いざという時は頼むな」
ニックを収納する。
ポン。
消えた。
収納される瞬間。
ニックは何か言いたそうだった。
「ピィィーー!」
だが消えた。
部屋は静かになる。
クレスタは満足そうに頷いた。
「これで安心だ」
全然安心ではなかった。
その頃。
銀狼の牙の宿。
ガルドたちは準備を整えていた。
「確認だ」
ガルドが言う。
「場所は新発見ダンジョン」
レミアが頷く。
「魔物はほとんどいない」
「だが迷宮構造」
バッシュが地図を広げる。
「光もない」
ミリアも続けた。
「迷えば終わりです」
全員が笑う。
嫌な笑いだった。
このダンジョン。
正式名称すらまだ決まっていない。
最近発見されたばかり。
ヒカリゴケが存在しない。
完全な暗闇。
魔物もほとんどいない。
しかし。
複雑すぎる。
何十人もの冒険者が迷った。
帰って来られなかった者もいる。
現在は立入禁止。
今回は地図作成調査依頼。
A級パーティだけに許された特別依頼だった。
そして。
暗殺には最高だった。
事故にしか見えない。
「迷った」
それだけで終わる。
昼前。
待ち合わせ場所。
クレスタがやってきた。
ガルドたちが近づく。
そして。
全員が辺りを見回した。
「あれ?」
レミアが聞く。
「フェニックスは?」
クレスタは平然と答える。
「ああ」
頭をかく。
「あいつ帰りたいって騒ぐからな」
「うん」
「マチョモ山に帰した」
沈黙。
四人が固まる。
「……」
「……」
「……」
「……」
内心。
大パニックだった。
フェニックスがいない。
最重要戦力。
そして最重要資産。
消えた。
ガルドが笑顔を作る。
「そ、そうか」
「うん」
「帰したんだな」
「元気でなって言っといた」
クレスタは笑う。
銀狼の牙は笑えなかった。
本当か?
嘘か?
判断できない。
だが今は追及できない。
ガルドは無理やり話題を変えた。
「行こうか」
「おう」
そして出発。
数時間後。
目的地へ到着した。
巨大な洞窟。
山肌に開いた黒い穴。
まるで怪物の口。
近づくだけで寒気がする。
入口には立入禁止の札。
さらにギルドの封印。
危険区域指定。
クレスタは感心した。
「でかいな」
「最近見つかったダンジョンだ」
ガルドが説明する。
「まだ全容が分かっていない」
「へぇ」
「だから調査だ」
クレスタは疑わない。
元仲間。
A級冒険者。
説明も自然。
怪しいところは何もない。
一方。
銀狼の牙は違った。
全員が内心で考える。
ここだ。
ここで終わらせる。
中へ入れば真っ暗。
誰も見ていない。
証人もいない。
死体も見つからない。
完璧だった。
やがて。
入口へ到着する。
クレスタが先へ進もうとする。
その時。
収納バッグの中から。
かすかに。
怒ったような声が聞こえた気がした。
「ピィィィ……」
ニックだった。
まるで。
今すぐ引き返せ。
そう警告しているようだった。
しかしクレスタには届かない。
そして。
五人は闇の中へ足を踏み入れる。
光の届かない迷宮へ。
銀狼の牙が仕掛けた。
死の罠の中へ。




