第13話 生存報告
翌朝。
クレスタは商隊と別れた。
「世話になったな」
「こちらこそ助かりました」
商隊長と握手する。
少女も手を振っていた。
「熊さん、元気でねー!」
「熊じゃねぇ!」
最後まで誤解は解けなかった。
ニックが肩で楽しそうに鳴く。
「ピー!」
こうしてクレスタは南へ向かった。
目指すはジャムの街。
そして昼過ぎ。
懐かしい城壁が見えてきた。
「おお……」
クレスタは立ち止まる。
転送されてから初めて見る文明だった。
人。
荷馬車。
店。
煙。
活気。
それだけで少し感動した。
門番もいた。
しかし商隊から貰った簡単な紹介状が役に立った。
熊毛皮姿に怪訝な顔はされたが通してくれた。
「久しぶりだなぁ」
クレスタは街を歩く。
まず向かったのは。
冒険者ギルドだった。
生存報告をするためである。
ギルドの扉を開く。
ガヤガヤと騒がしい。
酒。
依頼。
冒険者。
いつも通りの光景。
受付嬢もいる。
そして。
クレスタが中へ入った瞬間。
受付嬢が固まった。
「え?」
クレスタを見る。
目を擦る。
もう一度見る。
「えええええええっ!?」
ギルド中が静まり返った。
「クレスタさん!?」
「おう」
「生きてたんですか!?」
「たぶん」
「たぶんじゃありません!」
受付嬢が飛び出してくる。
周囲の冒険者も集まる。
ざわざわ。
ざわざわ。
「死んだと思ってた」
「消息不明じゃなかったか?」
「銀狼の牙の荷物持ちだろ?」
クレスタは苦笑した。
そんなに騒ぐことか。
受付嬢は半泣きだった。
「本当に生きてたんですね……」
「まあな」
「どこにいたんです?」
「山」
「山?」
「マチョモ山」
受付嬢の笑顔が消えた。
「え?」
「山頂から歩いてきた」
「え?」
二回聞き返した。
三回目はなかった。
理解が追いついていない。
その時だった。
後ろから。
ポン。
肩を叩かれる。
クレスタが振り向く。
そして。
固まった。
そこにいたのは。
銀狼の牙。
元雇い主たちだった。
剣士ガルド。
魔法使いレミア。
斥候バッシュ。
神官ミリア。
A級パーティ。
クレスタを置いて逃げた連中である。
「クレスタ!」
ガルドが叫ぶ。
「無事だったか!」
いきなり抱きしめてきた。
「心配したんだぞ!」
涙まで流している。
周囲が感動した。
「おお……」
「仲間思いだな」
「さすがA級」
「泣いてるぞ」
だが。
クレスタは冷めていた。
ものすごく冷めていた。
(こいつら……)
思い出す。
魔法陣。
囮。
転送。
荷物。
撤退。
(おれを囮にしたくせに)
抱きしめられながら思う。
全然感動しない。
むしろ若干腹が立つ。
レミアも駆け寄る。
「良かったぁ!」
涙ぐんでいる。
ミリアも手を握る。
「神に感謝します!」
大騒ぎだった。
だが。
クレスタは気づかなかった。
いや。
誰も気づかなかった。
銀狼の牙の四人。
その目だけは笑っていなかった。
一瞬。
本当に一瞬。
視線が交差した。
そして。
理解する。
最悪の事態だった。
クレスタは生きている。
つまり。
喋る。
全部。
喋れる。
魔法陣を踏ませたこと。
荷物を優先したこと。
見捨てたこと。
全部。
ギルドへ報告されたら。
問題になる。
下手をすると。
A級資格停止。
依頼停止。
賠償。
最悪なら犯罪扱い。
積み上げた名声が終わる。
ガルドは笑顔を作る。
完璧な笑顔。
だが頭の中は別だった。
(まずい)
レミアも同じだった。
(生きてるなんて)
バッシュも焦る。
(証言されたら終わる)
ミリアも顔色を変えない。
だが内心は冷たい。
(消さないと)
四人は同時に考えていた。
方法は違う。
結論は一つ。
クレスタを再び取り込む。
信用を回復する。
そして。
必要なら。
口を封じる。
そのためにも。
今は歓迎しなければならない。
ガルドは笑う。
「今日は祝杯だ!」
周囲も盛り上がる。
「おおー!」
「生還祝いだ!」
「飲め飲め!」
ギルドは一気に祭りになった。
クレスタは頭をかいた。
嬉しくないわけではない。
だが。
胸の奥に小さな違和感が残る。
ニックは肩の上から銀狼の牙を見ていた。
じっと。
じっと。
そして。
小さく鳴いた。
「ピー……」
その声は珍しく低かった。
まるで。
何かを警戒しているようだった。




