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荷物持ちのお荷物だったおっさん、その荷物はチートでした。  作者: 忍絵 奉公


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第12話 焚き火と冒険譚


その日の移動はそこで終了となった。

巨大狼の群れを撃退したとはいえ、護衛の何人かが怪我をしている。

夜の森を進むのは危険だった。

商隊長の判断で野営となる。

クレスタも誘われた。

「せっかくだから一緒にどうです?」

「いいのか?」

「命の恩人ですから」

「じゃあお言葉に甘えよう」

久しぶりの人間との食事だった。

クレスタは少し嬉しかった。

護衛たちは焚き火を囲み、食事の準備を始める。

すると解体担当の男が困った顔をしていた。

巨大狼の解体に苦戦しているらしい。

「貸してみろ」

クレスタが言う。

短刀を受け取る。

そして。

シュバッ。

シュババッ。

シュバッ。

ものの数分で解体が終わった。

肉。

皮。

骨。

魔石。

綺麗に分けられている。

護衛たちが固まる。

「はやっ」

「職人か?」

「冒険者やってると覚えるんだよ」

クレスタは笑った。

実際には二十年近く荷物持ちをやっていた副産物だった。

荷物持ちは暇なので、解体も覚えるのである。

そして。

夕食が始まった。

その時だった。

荷馬車の陰から少女が出てきた。

昼間気絶した子だった。

十五歳くらい。

栗色の髪。

可愛らしい顔立ち。

だが。

クレスタを見る。

熊毛皮を見る。

目が合う。

固まる。

「ひっ」

クレスタが手を振る。

「よう」

「熊が喋ったぁぁぁぁぁ!!」

再び気絶した。

ドサッ。

「えぇ……」

クレスタが傷つく。

周囲は爆笑だった。

「はははは!」

「まだ誤解してる!」

「完全に熊扱いだ!」

商隊長まで笑っている。

クレスタだけ納得がいかない。

その後。

少女は起こされた。

今度はちゃんと説明された。

人間だと。

熊ではないと。

すると。

「本当に?」

「本当に」

「でも熊ですよ?」

「人間だ」

「熊にしか見えない」

そんな会話をしながら夕食が始まった。

話題は自然と旅の話になる。

「そういえば、どちらへ向かうんです?」

商隊長が尋ねた。

クレスタは肩をすくめる。

「実はわからない」

「わからない?」

「とりあえず南へ歩いてる」

全員が首を傾げた。

すると商隊長が地図を広げる。

「ここが現在地です」

「ほう」

「私たちは北の街へ向かう途中なんですよ」

地図を見る。

確かに北に大きな街がある。

そして。

南を指差された。

「南へ十キロほど行けば街があります」

「近いな!」

クレスタは喜んだ。

十キロなら半日もかからない。

久しぶりの街だ。

風呂があるかもしれない。

ベッドもあるかもしれない。

「ちなみに街の名前は?」

「ジャムです」

クレスタが固まった。

「ジャム?」

「はい」

「ジャムの街?」

「そうですよ」

全員が不思議そうな顔をした。

クレスタは頭をかく。

「そこ知ってる」

「え?」

「そこの近くのダンジョンで飛ばされた」

沈黙。

焚き火がパチパチ鳴る。

全員がクレスタを見る。

「飛ばされた?」

「転送陣だな」

「どこへ?」

クレスタは空を指差した。

「山頂」

また笑いが起きそうになった。

だが今回は違った。

真顔だったからだ。

「本当なんだ」

クレスタは説明した。

A級パーティ。

未踏破区域。

転送陣。

そして山頂。

そこから一か月かけて下山したこと。

全て話した。

話が終わる。

沈黙。

やがて。

商隊長が聞いた。

「その山の特徴は?」

「雲海が見えたな」

「ほう」

「祠があった」

「……」

「変な鳥拾った」

「……」

「巨大蜘蛛に捕まった」

「……」

「角が五本のカバに吹っ飛ばされた」

「……」

誰も笑わない。

少女が青ざめていた。

護衛たちも顔色が悪い。

「まさか」

商隊長が呟く。

「マチョモ山……」

「知ってるのか?」

「有名ですよ」

全員が頷く。

「神域です」

「神域?」

「人類未踏の山です」

クレスタが首を傾げる。

「そうなのか?」

「近づくだけで死ぬと言われています」

「え?」

「恐ろしい魔物の巣です」

「へぇ」

「誰も登れません」

「そうなんだ」

全員が頭を抱えた。

目の前の男。

普通に下りてきている。

しかも一か月。

歩いて。

ありえない。

護衛の一人が尋ねる。

「その鳥ってどこで拾ったんです?」

「落ちそうになってた」

ニックを見る。

「ピー」

「助けた」

「それだけ?」

「それだけ」

さらに聞かれる。

「熊は?」

「力比べから始まった」

「力比べ?」

「向こうから突っ込んできた」

「それで?」

「倒した」

全員が沈黙する。

少女が呟いた。

「すごい……」

そして。

焚き火を囲みながら。

クレスタはこの一か月を語った。

巨大蜘蛛。

ベヒモス。

激流下り。

魔猿。

ケルネイヤ。

ミスローチ。

普通なら誰も信じない話だった。

だが。

クレスタの話し方は妙に自然だった。

盛っているように見えない。

本人が本気で語っている。

だからこそ。

聞く者の心を引き込んだ。

気づけば全員が聞き入っていた。

焚き火が揺れる。

夜が更ける。

そして。

いつしか拍手が起きた。

「すごい旅でしたね」

商隊長が言う。

「そうか?」

「間違いなく英雄譚ですよ」

クレスタは少し照れた。

だが。

自分ではただ生き延びただけだと思っていた。

その夜。

久しぶりに人の笑い声に囲まれながら。

クレスタは穏やかな気持ちで眠りについた。


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