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四季色喝采サニービーツ!  作者: ハリエンジュ
第一話『正義の味方サニービーツ!』
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その4 彼の正義の源は、

★四季色喝采サニービーツ! 

第一話『正義の味方サニービーツ!』

その4 彼の正義の源は、


teller(語り手)天守(あまもり) 幸雄(ゆきお)





 俺がヒーローとして非日常に踏み出してすぐ、異変は起こった。


 ――街の様子が、おかしい。

 様子と言うか、街に流れる空気から確かな違和感を感じた。

 息が詰まるほどの淀みが、街中をそよぐ風を穢している。

 俺の五感全てが、全力で危機感を訴えている。

 街の危機を。人々の危機を。世界の危機を。


 それが意味することは、ヒーロー()が立ち上がる合図だ。


 足を止め、辺りを見回す。

 まだ朝の早い時間。

 普段なら賑わっているはずの路上から、苦しみを感じた。

 通学途中の子どもたちが頭を抱えて辛そうに目を閉じて足を震わせている。


 「君たち、大丈夫か!?」


 怯えた様子の子どもたちに駆け寄り、しゃがみこんで顔色を確認する。

 ひどい汗だ。

 青ざめて、目尻には涙が滲んで。


 原因も仕組みもわからない。

 ただわかるのは、今この空間には『恐怖』を誘発する何かが漂っている。

 そしてそれは恐らく、俺が感じている淀んだ空気と関係している。



「……あっれえ? オッサン、動けんのかよ? ハッ、無駄にタフなヤローだな」



 不純で不透明になりゆく空気に呼応するかのように、悪意を含む声が突然響いた。

 口調は乱暴だが、女性の声だ。


 ふらふらとその場に膝をつくように崩れ落ちていく子どもたちを守るようにまとめて抱き寄せてから、俺は声の主を探る。


 道路標識柱に、その女は立っていた。

 不安定な足場でバランスを崩すこともなく、ひたすらに泰然(たいぜん) と。


 腰まではある長い鼠色の後ろ髪。

 前髪は一直線に切り揃えられている。ぱっつんってやつだろう。

 一番に目を引くのは、その服装だった。

 フード付きの、吸い込まれそうなほどの闇色のローブ。

 長く艶やかな髪が露になるくらいにはフードは今は外されており、あどけなさと妖艶さがアンバランスに入り交じった顔立ちも晒されている。

 声といい体型といい、若い女性なのは明白だ。

 うちの桜子か、大和と同い年くらい……だろうか。

 それでも俺は彼女を、うら若きいたいけなお嬢さんだとは思えない。

 彼女の深紅の瞳から、ビリビリとした悪意と敵意がハッキリと伝わってくるからだ。


「あんた……見たことない顔だが、悪の組織の一員か?」


 相手を見上げ、見据え、問いかける。

 すると彼女はククッとこちらを嘲笑するように笑った。


「そういうオッサンは、オンボロヒーロー集団の大将だろ? 思ったまんまのおキレイでうっぜ~アホ面してらぁな」


 挨拶かわりに繰り出された、こちらを貶す言葉。

 その言葉と共に彼女は片腕を、風切るように振った。

 切られた風が、淀み濁った空気が、彼女の片手に纏わりつく。

 彼女の手を基盤にするように、それは形を成し――やがて、彼女の片手に収まる大鎌と化した。


 漆黒のローブと、身の丈をゆうに超える大鎌。

 目の前の彼女の姿は、まるで――死神のようだった。


 そうしてようやく、彼女は名乗りを挙げる。



「名乗るのなんざだりぃけど……ま、アンタは大将首だしな。あたしは絶佳(ぜっか) =コッペリア。この街の悪の組織、『セピア・フェルマータ』の幹部ってやつだよ。……お察しの通りアンタの敵だぜ? オッサンよお」



 絶佳と名乗った女性はにたりと俺を見下ろす。


 セピア・フェルマータ。

 それが、俺らが立ち向かうべき悪の組織の名。


 ……そりゃあ今までも散々、セピア・フェルマータとは戦ってきた。

 多くの戦闘員をボコボコにしてきた。

 だが――幹部クラスを相手にするのは久々だ。

 なにせ幹部の奴らは、滅多に前線に出ねえから。


「……絶佳=コッペリア。ここいらの空気が濁ってるのも、子どもたちが苦しんでるのも、おまえの仕業か?」


「ご名答ってなぁ。あたしの鎌はな、ふわっふわに漂う『平穏』を存在ごと斬り捨てる力を持ってる。平穏を斬られた世界に取り残されたヤツにゃあ、苦痛と絶望しか残んねえ。アンタが守ろうとしてるガキどもみてえにゼーヒー苦しむってわけよ」


「……っ! なんで、そんな真似を……!」


 子どもたちを抱き締める腕の力を強め、絶佳を睨み上げる。

 が、絶佳は怯むどころか、にたりと歪んだ笑みをより一層深める。


「イイ感じに、か弱いモンを苦しめれば……アンタみたいな御立派なヒーロー様がゴキブリみてえにホイホイされんだろぉ……?」


 絶佳と、目が合う。

 その瞳の奥で、(くら)くも熱っぽい感情が(うごめ)いているのを俺は見逃さなかった。


 絶佳が鎌を強く握り締めたまま、ふらりと道路標識から飛び降りる。

 落下中もなおバランスを崩さずに地に足を乗せた絶佳は、今度は俺を正面から見据えてきて。

 強烈に俺を捉えるその瞳のまんま、絶佳は至って愉しそうに悪意を吐き出した。


「あたしはさあ……うっぜえうっぜえヒーローってもんが大っっきれえなワケよ。いたぶりたくてたまんねーの……アンタらみてえな生き物がなっさけなく狼狽える姿だけがあたしの悦び……あたしは『ヒーロー』の絶望が大好きさ!! そのためなら何人でも何十人でも巻き込んでぶっ壊したいね、楽しいねえ!!」





 ――歴史とは、移り変わる。


 争いの最初のきっかけが、ほんの派閥争いだとしても、そこから今に至るまで、もう気の遠くなるような時間が経っている。


 争いは姿かたちを変え、今や正義と悪の戦いに。


 俺たちヒーロー陣営は正義や平和を謳い、それらを信条として悪に立ち向かう。


 だけど、俺たちと敵対する絶佳たち悪の組織、セピア・フェルマータの信条は違う。

 悪の組織の面々は大なり小なり絶望を愛している。

 己の誇りと信条の為に、彼らは悪を騙る。


 先日のサイバーテロ未遂といい、セピア・フェルマータの悪行の果てにある最終的な目的は俺にもわかっちゃいない。

 そのくらいには長いこと争い続けてきた俺たちには対話が足りていない。

 正義を名乗る俺たちには足りないものだらけだ。準備も知識も予算も、何もかも。


 対話が足りないからと言って今の絶佳の言い分は俺にとっては到底許されるものではない。

 でも――セピア・フェルマータの連中がそれぞれ口にする『悪』は、ある意味では、彼らにとってだけは正義なのかもしれない。


 ――まあどっちみち今のままじゃ、お互いがお互いの主張を曲げられないままじゃ、二つの組織は絶対に分かり合えないことは確かだ。


 お互いの主張を擦り合わせる為には、まずお互いの力の均衡を取るべき。

 色々と力が足りてない俺たちは、まず強くならなきゃならない。

 悪の組織を名乗る絶佳たちに俺たちの言葉が真に響くまで、戦って戦って、勝って勝って――本当の意味でいつか、平和を掴むんだ。



 ――で、今の俺がヒーローとして、正義の味方としてやるべきこと自体はハッキリしている。


 苦しんでいる子どもたちを、一刻も早く助ける。

 頼れる仲間を呼ぶ時間は今は惜しい。

 この場は、俺一人で対処する。


 抱き寄せていた子どもたち一人一人の顔を順番に見て目を合わせていく。

 彼らに言い聞かせるように、俺は告げた。


「……ちょっと待っててな。兄ちゃんが、なんとかする。絶対にだ」


 未だに不安そうな表情の子どもたち。

 そんな彼らに――より確実に俺が勝てる魔法の言葉を、小声で教える。

 それを唱えてくれないかと、俺はお願いした。

 子どもたちの不安で潤んだ瞳が一瞬丸くなり――だけどみんな、頷いてくれた。


 なら、俺はもう大丈夫だ。

 戦える。

 俺の正義の源の準備がもう、万全だから。


「な~にをこそこそしてんだか……うっっ、ぜえなあ~~!!」


 絶佳が苛立ったように鎌を一振りすると、薄汚れた空気がより強く辺りに広がり、濃すぎる気体はついには実体まで得ていく。


 現れたのは、二対の角が生えた――鬼火のような怪物。

 絶佳の能力によって創られた、負の感情を撒き散らす異形の怪物。


 俺たちヒーロー陣営は科学技術をメインに街を守ろうとするが、悪の組織は(いにしえ) より組織に伝わる呪術秘術の手も使う……んだったか。

 この手の異能に近い術で生み出された怪物を実際に目にする機会は少なかったが、どうやら絶佳はこういう術のセンスに長けているらしい。


 絶佳が使役する『鬼』が、咆哮を上げる。

 叫びに呼応し、息苦しさが濃くなる。

 視界が、感覚が、煙たい不快感に支配されていく。


 意識が、遠のきそうになる。


 『鬼』の出現で威力を増した負の空気が、俺をも汚染し取り込んでいく。


 まあ、絶佳から『絶望』の能力の話を聞いた時から、何となくこうなる予感はしていた。


 参るな、これ。

 俺、こういうの弱いんだもんな。

 そこまで心、強くねえからさ。



「おーおー……? んだよ、あんたさ。キラッキラした目ぇしてたクセに、イイ感じに絶望抱えてんじゃねー……?」


 興味深そうに声を弾ませる絶佳。

 絶佳の声が、言葉が、どこか遠いものとして聴こえる。



 ――ああ、そうさ。

 俺は、そういうやつさ。

 絶望なんて、とっくに知っている。

 幸せなだけの人生なんて、俺は送っちゃいない。

 

 絶佳が愛する、ヒーローの苦痛と絶望。

 それを俺は、良く知っている。

 俺には、そんな苦しみの底に囚われていた時期がある。


 それは、長い冬だった。

 俺はただ、凍えていた。

 静止し停滞した冷たい時間の中を、俺はずっと彷徨っていた。


 その日は――その日も、雪が、降っていた。


 だけど、俺は――。





『……風邪、引いちゃいますよ?』



『すごく、すごく頑張りましたね。凄い、凄いです。……だから』



『わたし、ずっとずっと貴方に贈りますから』



『貴方がふと、ごくまれにでいいから……いつか思い出した時、貴方の力になれるようなーー』





 ――だけど、俺は。


 長い冬を、永い絶望を打ち破る術だって――とっくに知ってる。


 ほら。

 意識を失いかけてたのに。

 視界が真っ暗闇になりかけてたのに。

 悪の――絶佳=コッペリアの声は遠かったのに。


 俺を呼んでくれる声なら、鮮明に聴こえる。

 こんな、こんなにも、そばに在る。



「が……がんばれ、にーちゃんっ!」


「負けないで! かお、上げて!」


「かっこよく戦って! 勝って、勝ってよ!」


「がんばれ、にーちゃん……っ……がんばれ、ヒーロー!!」



 絶佳に怯えていた子どもたちが、口々に俺を呼ぶ。

 俺に、言葉を与えてくれる。


 さっき俺が彼らに、そう願ったから。

 彼らの声を、俺は心の底から望んだから。


 守りたい誰かの声援。

 救いたい誰かの喝采。

 それが俺が彼らに望んだ、彼らだけが持つ魔法。

 俺にとっての正義の源。

 俺の、絶対の勝利の合図。

 

 不安に、恐怖に打ち克ってまで彼らが贈ってくれた声は、必ず俺の力になる。

 声じゃなくてもいい。

 子どもたちの中には、俺を信じて真っすぐに見てくれる子もいる。

 一瞬停まってしまった俺の腕を、小さな手でくいくいと引き続けてくれた子もいる。


 全部、全部が俺の背中を押す喝采だ。

 俺を信じてくれた彼らの勇気に、俺は応える。

 その想いが、俺の絶望を簡単に終わらせる。





『わたし、ずっとずっと貴方に贈りますから。貴方がふと、ごくまれにでいいから……いつか思い出した時、貴方の力になれるようなーー喝采、を』





 ……ああ、大丈夫だよ。

 ちゃんと、届いてる。

 お前の言葉だって、今も俺の胸を満たしてくれてるよ――桜子。


 喝采。

 かつて絶望の中に居た俺が知った、俺の正義の源。

 立ち上がる為の原動力。

 愛しい妻が贈ってくれた喝采も、今、目の前の子どもたちが贈ってくれる喝采も。

 ずっと俺の胸に在り、力に変わる。



 改めて、顔を上げる。

 この両の眼で、前を見据える。


 立ちはだかるは悪の組織の幹部、絶佳=コッペリア。

 そして、絶佳が従えている『鬼』のような怪物。


 俺が立ち向かうべきものは、俺が勝ちたい相手は把握した。


 よく見える。よく、眼に映る。

 世界が、希望で色付いていく。



 子どもたちの声は、今も響いている。

 子どもたちの視線も想いも、俺の心には響いている。


 さあ行くぜ、名乗りを挙げろ。



「……ここに叫ぶは真っ赤な豪炎!! 

サイン:レッド! 天守(あまもり)  幸雄(ゆきお)、またの名を、リーダー! 

正義のヒーロー、四季(しき) (しき)喝采(かっさい)サニービーツ!! 見参!!」



 さあ、もっと。一人でも。

 名乗りを挙げろ。

 名乗りを挙げろ。

 名乗りを挙げろ!!



「――サイン・アップ!! 

レッド、(べに)()し! いざ新章を! 

おてんと様よ、(しん)()らせ!」



 名乗りを挙げろ、手を伸ばせ、拳を握れ。

 

 俺たちは未完成の組織だけど、未完成のヒーローだとしても、まだまだ課題だらけだとしても。

 それでも完全無欠のヒーロー目指し、己の色を、ここに示せ。今一度!



「叫び散らせよ、赤の拍動!! 

未来彩るサニービーツ、虹祭(こうさい) 序奏(じょそう) !! 

赤章(せきしょう)、開演!! 

皆々様よ、喝采!! あれ!!」



 贈られた喝采に応じ、俺自身の叫びに応じ。


 ――握り締めた俺の拳は、燃えるように赤く硬い、特別製のナックルグローブ『赤章(せきしょう)』で覆われていた。

 俺の中の正義をもって、戦う為に。



 名乗りを挙げろ。


 俺は、天守幸雄。

 正義の組織、サニービーツのリーダー。

 サイン:レッド。

 炎の如し赤き色で、未来を彩り照らす者。


 名乗りを、挙げろ。


 俺は、ヒーローだ!!



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