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四季色喝采サニービーツ!  作者: ハリエンジュ
第一話『正義の味方サニービーツ!』
3/12

その3 レッドの愛しのヒロインは、

★四季色喝采サニービーツ! 

第一話『正義の味方サニービーツ!』

その3 レッドの愛しのヒロインは、


teller(語り手)天守(あまもり) 幸雄(ゆきお)





 雪解けのその日、俺は桜を見た気がした。


 自身の頬を濡らしていた涙を拭って、改めて見た景色に居た彼女。

 そこに、居てくれた彼女。


 ふわりと淡く温かい笑顔の周りに――その微笑に似合う、ふわふわひらひらとした桜の花びらが、俺には見えた。


 俺だけには、見えたんだ。





 昨日の出動後の記憶は、実はもう大分おぼろげだ。

 遅刻の罰で、何かNTR……いや、口に出すのも本当におぞましい焚書必須の書物を仲間に音読されたような気はしたが、おそらく悪夢だろう。

 それからふらふら帰って、日常に包まれて、それで。


 俺はまだ、優しい日常の延長の中に居る。


 起き抜けのぼんやりした頭。

 寝癖だらけだろう頭を掻いて寝室の扉を開けたら、空気がふわっと澄んだ気がした。


 彼女の纏う空気は、彼女の存在は。

 最初からずっと、俺にとってはふわふわと包み込んでくれる優しいもので。


 彼女が振り向く。

 ふわり、とした音が、またどこかで鳴った気がした。


「おはようございます、幸雄さん。朝ご飯出来ましたよ?」


 エプロンをつけて、彼女は笑いかけてくれる。

 暖かい夕陽に似た色の栗毛を長く伸ばし、一つの三つ編みに結った女性。


 天守(あまもり)  桜子(さくらこ)


 俺の大切な奥さんだ。

 優しくて可愛い最高の嫁さん。

 歳は俺より三つ年下の20歳で、桜子の態度からは穏やかで成熟したような落ち着きを感じるが、これでも俺たちは新婚ホヤホヤだったりする。


 色々あって、出会って、こうして結ばれた。

 本当の本当に大切な人。


 桜子のふわふわとした空気にあてられて、俺も気の抜けた笑顔を返す。


「おう、ありがとな、桜子! ……あ〜……桜子の飯だ〜……」


 俺はテーブルにつく前に桜子を抱き寄せる。

 あったかい、やわらかい。ふわふわした良い匂いがする。


 春みたいな、桜みたいな。

 俺は桜子に会ってから、ずっとそんな世界の存在を知っている。

 桜子が、優しい力で俺をぎゅっと一度抱き締めてから、諭すように俺の身体をゆっくりと引き離した。

 俺の方が完全に脱力していたから、されるがまま離れてしまう。


「ふふ、まだ寝ぼけてるんですか? ほら、早く食べましょう? ごはん冷めちゃいますよ?」


 その声色に棘は微塵もない。

 桜子はいつもと変わらない、にこにことした笑みを浮かべていた。

 そういうおっとりとしたところが、とても愛しいと思う。


 俺は名残惜しく思いつつも、それでも表情は自然と笑顔になる。


 桜子といると、ずっとこうだ。

 凪いでいるのか浮ついているのかわからない気持ちのまま、席について手を合わせる。


「……いただきます!」





 桜子と向かい合って朝食を食べ始めた後も、流れる空気は穏やかなものだった。


「……うう~……沁みる……」


「ふふ、食べながら泣かないでくださいってば」


「だって最近本拠地の方に泊まり込みが多いからさ……昨日だって帰ってきたの深夜だし……桜子の手料理が恋しくてさ……」


「もう、幸雄さんは大袈裟なんですから」


 桜子は苦笑してそう言うけど、桜子との日常を愛する俺にとっては本当に死活問題なんだ。

 恋しいのは、そりゃあ手料理だけじゃないし。


 ただ今は、目の前の朝食に舌鼓を打ち、運動部の学生みたいな勢いでたいらげていく。

 大学時代、一人暮らし中の色々不摂生な生活を思い出し俺は心の中で苦く笑った。

 この日常が成立する理由は――理由、なら。


「……やっぱ俺って愛されてるよな……幸せ者だよな……」


「……ふふ。はい、愛してますよ。幸雄さん。お味噌汁のおかわりもありますから、いっぱい食べてくださいね」


 この優しい日常が当たり前のように俺を迎えてくれるのは、桜子の愛があってこそだと、俺はとっくのとうに知っていた。





 身支度を整え、いつものポリス服に着替える。

 俺にとっての正義の象徴。

 俺にとっての戦闘服。


 と言っても未だに慣れないネクタイに手間取っていたら、察したらしい桜子が寄ってきて結んでくれた。 

 新婚の奥さんが、結び方がわからない俺のネクタイをやってくれるという状況に密かにときめいてしまう。

 ベタな状況は、経験してみると手放せないくらいには胸に刺さってしまうもんだ。

 もう結婚したとは言え、桜子に対して照れたり心臓が高鳴る気持ちが消えたわけじゃない。

 ここに関しては、もしかしたら俺より桜子の方が余裕のあるところかもしれない。


「行ってらっしゃいませ、幸雄さん。忘れ物はないですか?」


「おう! ありがとな」


 玄関先まで見送りに来てくれる桜子に笑いかけ、さっきのネクタイで意識したのもあって、桜子をじっと見る。


「幸雄さん? どうかしましたか……?」


「……いや……俺の嫁さん宇宙一可愛いなって……」


「ふふ……わたしのことですか?」


「他に誰がいるんだよ!?」


 桜子の頭をぐしゃぐしゃに撫でてやりながらそう言うと、桜子は照れたように笑ってくれた。

 その仕草が可愛らしくて、愛おしくて、俺は軽く桜子を抱き締める。

 それさえも幸せそうに笑って受け入れてくれる桜子を見ると本当の本当に、名残惜しくなる。


「……行って来る、桜子」


「……はい、お気をつけて」


 触れるだけのキスをした。

 多分、時間にするとほんの数秒。

 見つめ合って、お互い照れを誤魔化すように笑い合って。

 改めて、告げた。


「行って来るな! 今日は早く帰れると思うから!」


「ふふ……行ってらっしゃい。お帰り、お待ちしてますね、幸雄さん。……応援しています」


 抱き締める腕をほどくと、桜子はひらひらと手を振ってくれる。

 俺も手を振り返し、玄関の扉をくぐった。


 大切で大好きな、俺の奥さん。

 優しい日常から少し寄り道するように、今日も俺は、ヒーローと言う名の非日常に飛び込む。


 そうして最後には必ず、この家に。

 いや、桜子の待っててくれる場所に帰れるようにと、俺は一歩を踏み出した。



 ……その途中、昨日音読を食らったNTR本の内容が過ぎる。

 それと同時に桜子の容姿も。

 普段は桜子に悪い気がしてあまり意識しすぎないようにしているが、まあ、柔らかい。色々。

 可愛いや綺麗だけじゃないというか、うん。

 露出自体は少ないが、こう、色々大きい。

 出るところは出ていて、健康的にむちむちとしている、というか。

 それでまあ、普段からエプロンをしているから色々な要素が合わさって、言ってしまえば妙な色気があるというか……。


 一瞬、立ち止まりそうになった。


 …………うん。

 ……絶対に、絶対に寝取られてはならない。

 いや桜子はNTRに屈するようなやつじゃないけど、それでも。ほら。嫌だから。どうしても嫌だから。マジで嫌だから。


 俺はこの日常を守ってみせる。この街と一緒に。

 当たり前を守る為に、当たり前じゃない世界を今日も駆けて行って、そして夜には日常に帰る。


 夜に帰れるかどうかはわからないとしても、活動制限はあっても良いだろ。制限時間はあっても良いだろ?

 だってその方が、ヒーローっぽいじゃないか。


 歩き出すのに合わせて、桜子の言葉の一つ一つが胸を満たす。


 雪解けのその日から、ずっと。

 俺の春は続いている。

 


 俺の。

 俺の、正義の源は――。




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