その2 みんなのレッドの弱点は、
★四季色喝采サニービーツ!
第一話『正義の味方サニービーツ!』
その2 みんなのレッドの弱点は、
teller :天守 幸雄
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歴史を辿ると、最初のきっかけは派閥争いらしい。
まだこの街が村だった遠い昔、村を統べる名家が跡取り問題でひどく揉めたらしく。
片方の跡取り候補が、カリスマ性に優れ、村に暮らす民を思いやり民の心に寄り添える、利他的な人格者。
もう片方の跡取り候補が、統治や交易の才には長け、村の為となる利益を生み出す術はいくらでも持っていたが、利己的で選民思想の持ち主。
二人の跡取り候補の対立は深まり、結局は村を巻き込んだ大きな争いへと発展し。
戦いは子孫たちへ受け継がれ、両陣営はそれぞれ極端な方向に変化を遂げた。
その極地が正義を掲げるヒーロー陣営と、悪の組織を謳う陣営の対立。
これが今にも受け継がれている。
時代の流れに沿って、もともとの目的である『統治する』立場がまったくの別の家に決まろうとも、悪の組織陣営が暴走したらヒーロー陣営が動き、ヒーロー陣営が民の支持を集めようものなら悪の組織陣営が彼らの絶望を目的に動き出す。
最初は派閥争いだったのが、片方は極端に強固な信念を武器に、片方は極端に歪んだ野望を武器に、ぶつかり合って歴史の裏で騒動を起こし続けてきた……とのことだ。
それから歴史の途中で、わけあって一度はひどく衰退したヒーロー陣営本拠地の現在。
敷地自体は古くから残っている為、純日本風の屋敷の広間。
こたつの時期は過ぎたというのに、何人かが電源を切ったこたつの中で未だにくつろぐ中。
現代のヒーロー陣営のリーダーである俺、天守 幸雄は、こたつから離れた場所で正座させられていた。
本日の遅刻の罰で。
本日の悪の組織の戦闘員たちとの戦いは、到着して間もなく無事勝利を飾った。
出動のきっかけは、悪の組織側のサイバーテロ未遂行為。
サイバーテロ準備から目を逸らそうと撹乱目的で暴れていた多数の戦闘員の鎮圧に俺たち全員が招集された。
これが本日のことの顛末、なのだが。
「ユキさん職質食らうの何回目だっけ〜? やっぱリーダーが遅刻はまずいんじゃないかにゃあ。こうなったらアタシが自腹切って戦闘服作ったげよっか〜?」
こたつの中でせんべいを齧りながらぐだぐだ寛ぐナース姿の眼鏡っ娘。
大和 ひとみ! 18歳!
元ヒーローだが、数々の事情を経て現在は救護班に所属。
しかし我が組織が年中人手不足なこともあって、大和はオペレーター、サポートアイテム管理など手の貸せそうな裏方仕事には積極的に関わっているナイスなメガネだ。
「……いや、でもな、大和? 俺、このポリス服にはこだわりがあって……信念あって普段着にしてるっていうか……」
「……皆様、お茶です」
「お、ありがと椋鳥ちゃ〜ん♡ かわゆいねえ、ハグしたげる!」
「……ひとみ殿、いけませぬ。お茶が溢れます故……」
お盆に乗った湯呑みを運んで来たのは、忍装束の黒髪ツインテールの小柄な忍者娘。
椋鳥! 推定16~17歳!
ヒーローとしてのサイン、つまりパーソナルカラーはブラック!
椋鳥は代々このヒーロー陣営に仕える特殊な家庭の出身らしく、リアル忍者だ!
俺たちの中では最年少で、本人には『ヒーロー全員に仕える立場』という認識があるらしく、こいつはやたらと礼儀正しい。
妙に口調が時代錯誤ではあるが。忍者だからか?
「っていうかさあ、ユキさんが信念あってポリスコスしてようがしてまいがどうでもいいけど、大の男のポリス服ってぶっちゃけダサくない?」
「スカート履いてる男に言われたかねえわ、ひつぎ! だって警察官って一番わかりやすい正義の象徴だろ!?」
「あっ、ユキさん! 今、時代を敵に回した! わかってないな〜、オレはネットじゃ可愛いって評判なんだよ?」
椋鳥が運んできた湯呑みに早速手をつけながら、こたつで茶菓子を食うロリータ服の金髪ツインロールの、男。
栂咲ひつぎ! 19歳!
サインことパーソナルカラーはイエロー!
ひつぎはヒーローであると同時に、ネットアイドルとして活躍して組織の活動費用を稼いでいるやり手だ。
活動資金源の自負があるせいか、少し生意気なヤツ。
中身は至ってノリが軽い現代っ子だ。
女装は本人曰く趣味、らしいが……色々聞いたが俺には良くわからない文化だった。
ひつぎが言うには最近のトレンドらしいが。
しかしひつぎの好みというか恋愛対象は普通に女の子、らしいから余計に色々ややこしい。
「大丈夫ですよ、幸雄さん! 警察官、かっこいいです!」
「高留 ……! お前はわかってくれるやつだと俺は信じて……!」
「だって立派なお仕事じゃないですか、警察官!」
「え?」
「幸雄さん、警察しながらヒーローも頑張るなんて、正義そのものですね! 僕も頑張らなきゃ……!」
……道流 高留、19歳!
俺たちヒーローの中で、唯一ヒーロー陣営本家の正統な血筋を継ぐ男。
と言っても、本格的にヒーロー活動に参加したのは今年からなので、扱いはルーキー。
パーソナルカラーも未だに持たず、ヒーロー活動中の個別のサインは『ルーキー』呼びが基本。
そして、何より。
「たかるんや、コスプレって言葉知ってる?」
「こすぷれ、ですか? ……何か、かっこいい言葉ですね! ひとみさんが考えた言葉ですか?」
「うーわ、笑顔がまぶしい……」
大和は、俺が本物の警察官ではなく普段から警察官のコスプレをしているだけの男、という事実を高留に伝えたかったんだろう。
話を振った大和が高留の純粋な笑顔に呆れたのか何なのか、こたつの上に潰れるように突っ伏した。
……そして何より、高留はとても純粋だ。
同い年のひつぎとはかなりピュア度に差があるくらい。
ヒーロー陣営の始まりの人がカリスマ性に優れ、村に暮らす民を思いやり寄り添える利他的な人格者だった……という歴史を信じるなら、まあ高留のこの性格に納得はいく。
高留は椋鳥と同じくこたつを利用しておらず、さっきから俺の傍に寄り添ってくれている。眩しいくらいに、やさしい。
正座を続けてきたから俺の足が痺れて来た頃。
こたつからゆら、と影が立ち上がった。
ジャージの、目つきが悪く兎にも角にも覇気がない、異常に怠そうな表情を浮かべた青年。
岩苔ラブカ! 21歳!
愛称は『ラブ』! パーソナルカラーはブルー!
組織就職理由は『服装に気を遣わなくて良さそうだから』、それだけ!
なのでラブカは正義にはまるで興味がなく、ただただ生活の為だけに住み込みでヒーローやって、求められるまま戦いの仕事をこなす、俺らの中では異質な男。
本人のあだ名は『ラブ』だが、性格にはまるでラブ要素がない。
普段何事にもやる気を出さないラブがわざわざ俺に近付いてきたので、俺は嫌な予感がして身構える。
「……まあ、幸雄は遅刻してきたから罰を与えればいいんだろ」
ラブが、何やら本を広げた。
「……ま、待てラブ、それは……」
俺は自然と脂汗をかいていた。
この、展開は。
俺の制止も無視して、ラブは本を読み上げる。
「『……主人が帰って来ないから……私、寂しくて……』」
「ぐっはぁっ!!!!」
俺は嘔吐する勢いでその場に蹲り、全身を蝕む拒絶反応からのたうち回り始める。
「『駄目なのに私……旦那じゃないあの人との夜が忘れられない……』」
「ぐはぁあああああああっ!!」
「『奥さん……口では嫌がっていても身体は』」
「や、やめろおおぉぉぉおおお!!」
のたうち回りながら伸ばした手は、力なく止まり、崩れ……俺は、泡を吹く勢いで意識を遠のかせていった。
ーー天守 幸雄、23歳。
パーソナルカラーはレッド。
そして、ヒーロー陣営の現リーダー。
これでも新婚ホヤホヤの既婚者でーー弱点は、所謂NTR。寝取られ。文字にするのもおぞましい。
とても優しく可愛い最高の嫁さんを家に残しがちなので、その手の心配は絶えず……。
NTRという弱点が明白なせいか、何かミスする度に主にラブにNTR物のエロコンテンツを音読され、拒絶反応で死にかけている。
そんな情けないヒーローが、俺、だった。
「あの……ひとみさん、ラブさんって、いつも幸雄さんに読み聞かせているんですか?」
「たかるんは知らなくていい文化かにゃあ。そのままの君でいてね」
「? はい! がんばります!」
「っていうかユキさんは結婚してるだけいいじゃんね? オレなんて初恋の女の子がここ数年よそよそしいよ!」
「たりめーだろスカート脱げよバカ」
「ラブくん切れ味ひどっ……」
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