その1 正義の味方の戦闘服は、
★四季色喝采サニービーツ!
第一話『正義の味方サニービーツ!』
その1 正義の味方の戦闘服は、
◆
――俺の正義の源は、とっくに決まってる。
◆
その日は雪が、降っていた。
頭に積もった雪を振り落とすことすら、俺はできずにいた。
自らの頬を伝う雫は、雪が溶けたものなのか、自分の涙なのかすらも、その時の俺にはわからなかった。
そのくらい、当時の俺は壊れていた。
正しく、正しく、正しく正しく正しく。
強く優しく誠実に。
そんな風に生きて、この世の全ての悪から全部を守る気でいた。
手の届く範囲、届かない範囲、そんな測り方、括り方をすることすら嫌だった。
全部だ、全部。
何も、取りこぼしたくなかった。
「……風邪、引いちゃいますよ?」
冷たいはずの空気の温度が、少し変わった。
彼女が持つタオルが、俺の雪をひらり、ふわりと払っていく。
ぼんやり顔を上げると、俺より小さな身体の彼女が、俺をふわりと優しく抱き締めた。
全てを包み込むように、全てを許すように。
「すごく、すごく頑張りましたね。凄い、凄いです。……だから」
俺を包む彼女の細腕が少し離れ、冬のせいで冷えた両手を握られる。
目が合う。
彼女の澄んだ瞳からも、温かい雫が溢れていた。
「わたし、ずっとずっと貴方に贈りますから。貴方がふと、ごくまれにでいいから……いつか思い出した時、貴方の力になれるようなーー」
あの日、俺と彼女の頬を濡らしていたのは雪なのか涙なのか、結局わからずじまいだが。
彼女との出会いは、彼女の献身は。
彼女のあたたかな慈愛は。
ーー長く凍っていた俺に、雪解けをもたらしたのは確かだ。
◆
四季は巡る。月日は巡る。
巡り巡って、日々は変化と進化を遂げていく。
俺ーー天守 幸雄 23歳もまた、巡り進む時間に翻弄される現代人の一人で、現在は仕事の関係で全力疾走していた。
ーーなお就いている仕事は、決して現代的でも現実的でもない。
ひとまず物凄くざっくり言うと。
俺の住んでいる街はやや、いやかなり変わっている。
この街には昔から、正義の味方と悪の組織が存在する。
古い時代から正義と悪が対立し続け、街の平穏を巡り騒動を繰り広げる街。
長年対立し続けるというか……正確には、長年対立、していた。
近年は正義の味方が衰退し、悪の組織サイドが圧倒的に優勢で、勝負にすらならない日々しか続いていなかった。
が、今は違う。状況も何もかも。
正義の反撃のターンが始まりつつある。
正義がまた、立ち上がろうとしている。
正義の味方を擁する組織は今や新体制で生まれ変わり、新生ヒーロー陣営として、日々悪の組織と派手にバトルしている。
フィクションみたいな奴らが起こすフィクションみたいな出来事が平気でのさばる、そんな冗談みたいな街で。
俺は冗談みたいな騒動の、丁度当事者として、カオスの渦中で生きていた。
ざっくりとした説明終わり。
かなり簡略化したが、大体は本当のことだ。
さらに本当ついでに――俺は、正義のヒーローだったりする。
しかも組織の一応リーダー。
目的地に向かって、ヒーロー専用のインカムが反応を見せる。
通信越しに聞こえてくるのは、組織で救護班長兼オペレーター担当の茶目っ気が強い眼鏡っ娘、大和ひとみの声。
まあ通信越しに眼鏡が見えるわけではないが。
大和は聴覚情報だけだとわかりにくい持ち味がやたらと強い。
聴こえてくる大和の声は、今日もお気楽なトーンだ。
『ありゃりゃー、また職質食らったのかにゃあ? リーダーってば。もうみんな戦いおっぱじめちゃってるよん?』
「悪い! 今日に限って免許証保険証諸々忘れたからいつもより手間取って……」
『そんなことある??』
走る速度を緩めず、前を見据える。
もう少し、もう少しで俺は。
『まったく、そんなカッコしてるからいっつも職質引っかかるんだよ〜?』
「いや、服装の問題は俺たちほぼ全員抱えてるだろ」
『にゃはは、それもそっかあ』
大和の服装を補足しとくと、ドレス風にアレンジされたナース服、とかなり個性的だ。
まあうちの連中、つまりヒーロー陣営の奴らのカッコは大体そんなもんだ。
その証拠が、もうすぐそこに。
階段を飛ばし飛ばしに駆け上がり、駆け上がった先の広い敷地へと、勢い良く飛び降りる。
落下ついでに、『敵』二人の頭部を鷲掴みにして、俺の着地に合わせて砂に埋める勢いで、掴んだ敵を押し潰すようにうつ伏せに倒す。
よし、登場時点で二人撃破。
これで少しは遅刻のミスをカバーできればいい。
しかし俺たちヒーローの『敵』は、数多く。
俺たちが組織としてはほぼ新体制として活動しているが、悪の組織の規模は相当にでかい。
しかも、戦闘員の数はヒーローの数を多く上回る。
けれど負けるわけにはいかない。
それぞれの正義の為に、俺たちは今日もここに参上した。
「行くぜ! 名乗りを挙げろ!!」
リーダーらしく周りを鼓舞するように、俺は拳を天に突き上げる。
それに応えるように、俺の頼れる仲間たちが大勢の敵戦闘員に向けて構え始める。
「……ここに叫ぶは黒き風。コールサイン:ブラック。椋鳥、見参」
ーーそう述べたのは、黒い忍び装束に黒いマスク、黒いツインテールの小柄な少女。
「ここに叫ぶは金ピカ稲妻! コールサイン:イエロー! オレが栂咲ひつぎだよ♡」
ーーそう述べたのは、各種のパステルカラーが虹色みたいに散りばめられたロリータ服を着た、でかいリボンとツインロールの女装少年。
……うん、男。そう、男だ。これでも。
「あー……ここに叫ぶは……なんだっけ。叫ぶことねえな。コールサイン:確かブルー。岩苔ラブカ…………だっる」
ーーそう述べたのは、ジャージをだらしなく着て巨大なハンマーを担いだ、目つきの悪い猫背の男。
いや、お前はいい加減に口上覚えてくれ。
「ここに叫ぶは……えっと、僕はまだまだ色もテーマもない新人ですが、平和の為に精一杯頑張ります! コードネーム:ルーキー! 道流高留です! よろしくお願いします!」
ーーそう述べたのは、この中で唯一テレビとかに出てきそうなヒーローらしい戦闘スーツを着た青年。
ヒーローらしい、のにこいつは一番新人だからまだまだ未定部分が多い。
色々と締まらないが、名乗って存在知らしめて、悪に対峙し市民を安心させてこそヒーローの真髄にして精髄。
「ここに叫ぶは真っ赤な豪炎!! コールサイン:レッド! 天守 幸雄、またの名をリーダー!」
ーーそう述べた俺は、警察官の服装を纏っている。
勿論正規の制服じゃない。コスプレだ。
普段着がこれだからこそ、俺は頻繁に普段から正規の警察に職質されたり説教を食らっている。
それでも俺の一番最初の記憶に映る正義は、こういうポリスだったから。
勇気とやる気の為にも、ヒーローとしての俺はこの服を着ていたい。
例えしょうもないと言われても、譲れないもんでもあるわけだ。
俺たち五人が、現在の正義のヒーロー。
全員分の共通戦闘服の予算がまだないくらいに困窮した正義の組織で、色の決まりも諸々の名づけの由来も全てがバラバラな、できたて新生ヒーローとして活動中の行き当たりばったり組織。
その名も。
「正義のヒーロー、四季色喝采サニービーツ!! 見参!!」
ーー名乗りに四季があるのに、今は五人組だとか。
ーー傍から見たら完全にコスプレ集団だとか。
そんな数多くの問題を抱えすぎた状態ながら、我らサニービーツは悪へと立ち向かうのである。
未熟ながらも、正義に燃ゆるヒーローとして。
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