その2 ヒロインチョロイン、忍べずじまい
★四季色喝采サニービーツ!
第二話『純情忍ぶ、偲ぶ』
その2 ヒロインチョロイン、忍べずじまい
teller:椋鳥
◆
歴史とは、移り変わる。
しかしどれだけ時が流れようとも、流れられない宿命はある。
正義の味方サニービーツと、悪の組織セピア・フェルマータ。
二つの組織の争いの最初のきっかけは、遠い昔の派閥争い。
その遠い、昔から。
サニービーツの、ヒーロー陣営の、はじまりの頃からずっと。
先祖代々『正義の味方』に仕えることを使命とする家系がある。
――某の名は、椋鳥。
サニービーツの一員で、サイン:ブラック。
ヒーローに仕える、由緒正しき忍者の家系に生まれた者だ。
物心ついた頃から某はサニービーツに仕え、正義の為に修行を重ねてきた。
なので、若輩ながら現在のサニービーツの面々の中では最古参だ。
本来ならば、ヒーロー陣営本家の正統な血筋を継ぐ……コードネーム:ルーキーこと道流 高留殿に、一番の忠義を尽くすべきなのだろうが。
高留殿の広いお心に従い、某はサニービーツ全員を敬い、彼らの正義を支えるべく、正義の味方として街を守るべく、使命に殉ずる覚悟である。
個を、捨てよ。
某自身など、正義の為には何の価値もない。
だから、現代人らしい名など最初から無い。
学び舎にも通わず、年頃の女子供らしい生活も捨てた。
某は、正義の味方の為だけの忍びだ。
先祖代々そうしてきた。
そういう家に生まれたのだから、歴史を重んじる為にも、某はこれからも、命尽きるその時まで。
心を殺し、ただ正義の為に在り続ける。
サニービーツ陣営本拠地である純日本風の屋敷の中庭で、某はいつもの忍装束を着たまま箒で清掃に勤しむ。
長い黒髪を高い位置で二つに結び、黒い口布で口元を覆い、わけあって眼帯で片目を隠し。
小柄で貧相、幼稚なこの容姿は、敵を油断させることにも時には役立つ。
某は本日も、淡々と。
正義のみに尽くす一日を、生きようとしていたのに。
「……あっれー? ワープ先まちがえちゃったかなあ。ここ、敵さんの本拠地じゃん。ココには今は別に用がないんだけどなー……」
――突如、くせ者の声が響いた。
敵襲。侵入者。諜報の可能性も高い。
反射のように某の中で鳴る警鐘に身を任せ、愛用のクナイを構えて――修行で研ぎ澄まされた聴力を利用して敵の位置を把握しようとした、のに。
「……あれ? 可愛い女の子がいる! うわあ~、そのカッコ、ニンジャじゃん! えー、かっこいいなあ。でもやっぱり可愛いなあ、髪なんてすっごくサラサラで綺麗だし……」
「な…………っ!?」
神経を、あれだけ研ぎ澄ませていたはずなのに。
瞬きしたらもう目の前に、見知らぬ男が居た。
陽の光を浴びて輝く金髪。
スーツにシルクハット、白手袋。
某のような忍びには縁がない、奇術師、のような服装だ。
そんな、20代ほどの殿方が、某の至近距離に、居て。
クナイを振り下ろす暇もなく、某の髪を手にとって、手袋越しに、髪の間を彼の指がさらりと通って――。
殿方は、くすりと妖艶に笑うと――某の、髪に、口付けを落とし、て。
「!?!?!?」
「本当に綺麗な髪だね……髪だけじゃない、あどけなさそうで凛として……キミは凄く魅力的だ……」
固まっている某の前で、殿方は跪く。
クナイを握っていた手をとられ、指をすり、と撫ぜられてしまうと、背が何故かぞくりと疼き、力が、入らなくなっ、て。
「……はじめまして、愛くるしい忍者娘ちゃん。ボクは明日夢=サムシングフォー。……キミ、とても可愛いね。気に入っちゃった。ね、ボクとこれからデートしない?」
「~~~~!?!?!?」
――某は、正義に仕える身で。
心など殺したはずで、目の前の殿方が悪の組織の人間だということもわかりやすかったのに。
なの、に。
大きな、誤算があった。
忍びとして生きるべく心を殺す修行は、まだ不完全で、某は。
――異性だとか、色恋だとか、そういう不埒なものへの免疫が、とにかく皆無に等しかったのである。
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