その1 暗躍へのカウントダウン
★四季色喝采サニービーツ!
第二話『純情忍ぶ、偲ぶ』
その1 暗躍へのカウントダウン
teller:――
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この街における、悪の組織『セピア・フェルマータ』本拠地。
現在は、世間にも、勿論サニービーツにも実体を晒していないその場所の、地の底の暗がりにて――。
「あ゛~~~~……っ、クッソがよぉ……腹立つぜ、あのオッサン……ッ!」
がなるように怒鳴り、壁を蹴り壊す勢いで当たり散らす女性が居た。
黒いローブを纏い、鼠色の長い髪を覗かせた20歳手前頃の美しい女性。
しかしその整った顔立ちは今や怒りで歪みきっており、仰々しい大鎌を抱えていることも、彼女の纏う近寄り難いオーラを増幅させていた。
絶佳=コッペリア。
セピア・フェルマータの女性幹部だ。
古より伝わる呪術秘術、魔術の類を得意とするセピア・フェルマータにて確かな実力を誇る彼女だが――その彼女は先日、対立組織サニービーツのリーダー・天守 幸雄に敗北を喫していた。
「ムカつく……ッ!! あのクソオッサン、今度会ったら徹底的にいたぶってやる……ッ……その信念、へし折ってやる……!!」
「こーら、絶佳ちゃん。そんなカリカリしないの。可愛い顔が台無しだよ?」
唐突に。
絶佳一人しか居ないはずだった空間に、若い男の声が響いた。
甘さと軽さが乗った声に反応し、絶佳はますます眉間に皺を寄せ、勢い良く振り返る。
「てっめえ明日夢……!! あたしの後ろをトるんじゃねえよ!! 回し蹴んぞ、刈んぞ!!」
「あはは、まあイライラしてる絶佳ちゃんも最高に可愛いけどね~? 誰かにイジメられちゃったのかな~? よしよーし、絶佳ちゃん、かーわいそー……」
絶佳の背後に突如現れたのは、眩しいまでに煌めく金髪が目立つ青年だった。
ホストを思わせるスーツにシルクハットを被り白手袋を嵌めた、西洋手品師のような雰囲気の、20代前半くらいの青年。
――その青年に、怒りが頂点に達した絶佳の鎌の一振りが直撃する。
が、絶佳の鎌に手応えは全く無い。
斬った感覚も裂いた感覚も刈った感覚も、まるで無い。
聴こえるはずだった青年の悲鳴も、撒き散らされるはずだった血しぶきも生まれない。
「こわーい。絶佳ちゃんってば物騒だな~? ま、ボクはそういう女の子も好きだけどね!」
何事もなかったように、今度は絶佳と距離をかなり空けた位置に金髪の青年は立っていた。
愉快そうに、片手でステッキを弄びながら。
「テメェ明日夢……! しょうもねえことに幻術使ってんじゃねーよ!」
「一応は命の危機だったから、しょうもないことではないよ? あ、でもでもボク、絶佳ちゃんに殺されるんならそれはそれで大歓迎☆」
「ふざけ……っ!」
「はいはい、怒んない怒んない。怒るのもカワイイけどさ、目的を忘れるのはダメじゃない? ボクらの今の目的は、とにかく街で絶望を集めること。……ボクにとっては別にどうでもいい目的だけど、キミにとっては違うでしょ? ――キミが一番、ボスに忠誠誓ってるんだからさ」
明日夢と呼ばれた青年の言葉に、絶佳はぴたりと固まるように動きを止めた。
怒りに染まっていた表情が、一瞬で無表情になる。
代わりに、彼女が鎌を握る力は、より強くなった。
血が滲みそうになるほど強い力で、絶佳は鎌を握り直している。
その反応を見て、青年――明日夢は満足そうに笑うと、絶佳に背を向けてゆったりと歩き出した。
「ま、ボクは絶望とか……正義も悪もどうでもいいんだけどね。ボクはいつだって可愛い女の子の味方だから!」
「……どこ行く気だ、テメェ」
「ん? お仕事。とびっきりの絶望を集められるかもしれない……ね」
そう言って――明日夢は、ほくそ笑む。
「絶佳ちゃんをイジめた、サニービーツのレッドさんってね、新婚ホヤホヤの奥さんいるんだってさ。ラブラブなんだってさー……」
そして、彼はステッキを一振りして――。
「そんな大事な奥さんが、ボクみたいなイイ男に口説き落とされちゃったら――ヒーローだって、さすがに心折れちゃうよね?」
――そう言い残して、暗がりから姿を消した。
明日夢=サムシングフォー。
セピア・フェルマータの妖しき幹部が、最悪の形で動き出そうとしていた――。
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