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六刻のイグジステンス ― 世界を拒絶された能力者たち ―  作者: マーたん


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第六話 最大の汚点

侵食は外から来るものだと思っていた。


異形。

裂界。

異世界。


だが本当の恐怖は、もっと内側にある。


「適応」という名の書き換え。

「成功」という名の失敗。


第六話では、物語の前提そのものが揺らぎます。


英雄譚ではない。

選ばれた物語でもない。


それは、人類が生んだ最大の汚点の話。

「……適応完了個体」


観測者の声が、初めてわずかに揺らいだ。


霧島ハルは、自分の手を見つめていた。


震えていない。


恐怖も、混乱も、不思議なほど薄れている。


代わりにあるのは――理解。


異形の構造が見える。


揺らぎの周期。


存在の継ぎ目。


未確定性の歪み。


「……簡単だ」


ハルは一歩踏み出す。


迫る異形へ向けて手をかざす。


「お前らは“完成してない”」


その言葉と同時に、空気が凍りついた。


異形の輪郭が固定される。


揺らぎが止まる。


存在が“確定”する。


次の瞬間。


レンの重力が叩き潰し、


トウカの空間が斬り裂き、


ガイの拳が粉砕した。


今度は再生しない。


消える。


完全に。



「……嘘だろ」


レンが低く呟く。


「俺たちより適応してる……?」


ユウトの視線が鋭くなる。


「違う」


短く否定。


「適応ではない」


観測者が口を開く。


「融合だ」


その一言が、空気を凍らせた。



ハルの耳鳴りが強くなる。


遠くで誰かが何かを言っている。


だが、はっきり聞こえない。


視界の端に、奇妙なノイズが走る。


この世界の景色が、少しだけ“馴染んで”いる。


まるで――


最初からここにいたかのように。


「……何をした」


ユウトの声は冷たい。


観測者は即答する。


「彼は裂界の観測点だった」


沈黙。


「最初から、侵食の媒介として設計されていた」


ハルの心臓が止まったような感覚。


「……は?」


レンが振り返る。


マキナの顔色が変わる。


トウカが、わずかに後ずさる。


「どういう意味だよ」


レンの声が低くなる。


観測者は淡々と続ける。


「裂界が発生した地点」


「彼の近傍だ」


「裂界を認識できた理由」


「適応速度」


「すべて説明可能」



理解が、遅れて追いつく。


あの日。


空が裂けた朝。


自分の真上だった。


偶然だと思っていた。


違う。


「……俺が」


喉が震える。


「原因ってことかよ」


観測者は否定しない。


「正確には“鍵”だ」


「確定世界と未確定世界を繋ぐ接点」


「接続子」



「ふざけんな」


レンが一歩前へ出る。


重力が歪む。


怒りが、露わになる。


「こいつは被害者だろうが!」


「設計段階ではその区別はない」


観測者の言葉は冷酷だった。


「彼は成功例だ」


「イグジステンス計画最大の成果」


ユウトの目が細まる。


「……最大の汚点、だろ」


静かな声。


だがその中には、明確な感情があった。


「人類が侵食を止めるために造った“鍵”」


「だが同時に、侵食を加速させる存在」



ハルの足元が揺らぐ。


心臓が早鐘のように鳴る。


「……俺がいなきゃ」


世界は侵食されなかった?


仲間はここに来なかった?


犠牲は出なかった?


思考が、闇へ沈む。


その瞬間。


トウカが、強く腕を掴んだ。


「違う」


真っ直ぐな瞳。


揺れていない。


「原因じゃない」


「利用されただけ」


「あなたは道具じゃない」



観測者が再び告げる。


「検証を継続」


空間が軋む。


今度は違う。


より巨大な歪みが生まれる。


大地が裂ける。


空が崩れる。


「……来るぞ」


ユウトが低く言う。


地平線の向こう。


異形ではない。


それよりも巨大な“何か”。


世界そのものを圧縮したような存在。


「最終段階の試験体」


観測者の声。


「接続子の限界値を計測する」


ハルの中で、何かが決壊した。


恐怖でも絶望でもない。


覚悟でもない。


ただ一つの衝動。


「……測らせるかよ」


瞳が異様な光を帯びる。


異世界の法則が、わずかに歪む。


最大の汚点。


人類の過ち。


侵食の鍵。


それでも。


「俺は――俺だ」


第六話、終。

第六話を読んでいただき、ありがとうございます。


ここが第一部の大きな分岐点になります。


ハルは被害者なのか。

加害者なのか。

それともただの媒介なのか。


物語において「原因」という立場は、最も残酷です。

責任を背負わされ、選択を迫られ、

それでも前に進まなければならない。


この作品は、力を持つことの代償だけでなく、

存在そのものに課せられる意味を描いていきます。


次話では――


・暴走の兆し

・仲間との亀裂

・より大きな犠牲の予兆


物語はさらに重く、深く沈んでいきます。


それでも読み続けてくださるなら、

この世界の行く末を共に見届けてください。


――ありがとうございました。

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