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六刻のイグジステンス ― 世界を拒絶された能力者たち ―  作者: マーたん


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第五話 適応という名の代償



――前書き――


異世界において、能力者たちの優位は崩れ去った。


力は万能ではない。

法則が変われば、常識も崩れる。


圧倒的物量。

通用しない異能。

そして観測者の宣告。


「適応」。


それは進化か、侵食か。

祝福か、破壊か。


第五話――

能力という概念そのものが、静かに書き換えられる。

「……数が、異常だろ……」


霧島ハルの喉から、かすれた声が漏れた。


視界を埋め尽くす異形の群れ。


地平線の彼方まで蠢く、異界の存在。


常識という言葉が完全に無意味となる光景。


「検証を次段階へ移行する」


観測者の声だけが静かに響く。


感情も、敵意もない。


ただの宣告。



「笑えねえな……」


相馬レンが吐き捨てる。


すでに理解していた。


通常の戦闘では押し切れない。


能力の出力は不安定。


敵は無尽蔵。


消耗戦にすらならない。


「ユウト!」


トウカが叫ぶ。


「さっきのをもう一度――」


「無理だ」


即答だった。


天城ユウトの額に、わずかに汗が滲んでいる。


「固定には膨大な演算が必要だ」


「この規模では維持できない」


能力が万能ではない現実。


世界の法則が違うという絶対的障壁。



「だったらどうすんのよ……!」


黒曜マキナの声に焦りが混じる。


その時だった。


異形の群れが、一斉に動いた。


雪崩のような突撃。


圧倒的質量。


圧倒的死の波。


「迎撃――!」


レンが重力場を展開。


トウカが空間を裂く。


ガイが前へ出る。


だが。


押し潰される。


止まらない。


「くそッ……!」


「キリが……!」



「適応を開始する」


観測者の声。


次の瞬間。


世界が、歪んだ。


空気が変質する。


重力感覚が崩れる。


ハルの視界が激しく揺れる。


「な……!?」


「今度は何……!?」


観測者の姿が揺らぐ。


世界と同化するように。


「お前たちの存在情報を解析」


「この世界へ最適化する」


ユウトの顔色が変わった。


「……まさか」


観測者の言葉が続く。


「能力構造の再定義を実行」



激痛。


それは突然だった。


ハルの頭部を、見えない杭が貫いたかのような衝撃。


「が……ッ!?」


膝が砕ける。


視界が白く弾ける。


周囲でも同様の異変が起きていた。


「……ぐッ……!」


「なに……これ……!」


能力者全員が苦悶の表情を浮かべる。


脳が焼かれるような痛み。


存在そのものを書き換えられる違和感。



「やめろ……!」


レンが怒鳴る。


重力が暴走し、地面が陥没する。


だが止まらない。


観測者は淡々と処理を続ける。


「適応は不可逆」


「拒絶は許容されない」



ハルの意識が沈みかけた、その瞬間。


――理解が流れ込んだ。


能力の感覚。


世界の構造。


異界の理。


自分の力の“本質”。


「……え……?」


痛みの中で、ハルの瞳が見開かれる。


(見える……?)


異形の輪郭。


揺らぎ。


存在の不安定性。


世界を満たすノイズ。


すべてが“理解可能な情報”へ変換されていく。



「……ハル?」


トウカの声。


ハルはゆっくり立ち上がる。


先ほどまでとは明らかに違う眼差し。


異形の群れを見る。


「……そういうことかよ」


自分でも驚くほど冷静な声。


手を伸ばす。


迫り来る異形へ。


「お前ら――」


空気が軋む。


世界がわずかに震える。


「最初から安定してねえんだな」


次の瞬間。


異形の一体が、音もなく崩壊した。


レンが目を見開く。


ユウトの瞳が鋭く細められる。


観測者が初めて反応を示す。


「……適応完了個体」


ハルの能力が、目覚める。


異世界仕様へと。


だがそれは――


取り返しのつかない変質の始まりだった。



――後書き――


第五話を読んでいただき、ありがとうございます。


物語はここで一つの大きな転換点を迎えました。


異世界という舞台は、単なる戦場ではありません。

能力者たちの存在定義すら揺るがす領域です。


そして描きたかったのは、


「力を得ること」ではなく、

「力に適応させられること」。


そこには必ず代償が伴います。


ハルに起きた変化。

観測者の目的。

能力の本質。


これらが次話以降、より明確になっていきます。


物語はさらに不穏に、さらに残酷に進行しますが、

引き続きお付き合いいただければ幸いです。


――ありがとうございました。

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