第四話 崩れる優位
‥
「……おかしい」
最初に異変へ気づいたのは相馬レンだった。
怪物の群れが押し寄せる中、彼は即座に能力を発動する。
重力干渉。
見えない圧力で敵を叩き潰す――
はずだった。
「効きが……浅い……?」
異形の動きが鈍る。
だが止まらない。
本来なら骨ごと圧壊するはずの質量が、
まるで軽い幻影のように揺らいでいる。
「レン!」
白峰トウカが叫ぶ。
すでに彼女も異変を察していた。
空間切断。
振るわれた不可視の刃。
確かに斬れている。
だが――
「手応えが違う……!」
断裂したはずの怪物の身体が、
ノイズのように揺れ、再接続される。
物理的な破壊が成立しない。
世界のルールが違う。
◆
「最悪ね……」
黒曜マキナが舌打ちする。
精神干渉を試みる。
恐怖を植え付け、敵の行動を鈍らせる能力。
だが。
「……え?」
感触がない。
怪物の意識が掴めない。
「感情構造が存在しない……?」
異形の瞳なき頭部が、ゆっくりこちらを向く。
理解。
拒絶。
人間的な精神が通用しない。
◆
「はは……面白えな」
九条ガイが低く笑う。
一歩踏み込み、怪物の群れへ突っ込む。
爪が振り下ろされる。
肉が裂ける。
血が飛ぶ。
だが――
「……ちっ」
再生が遅い。
傷口の閉じる速度が明らかに鈍っていた。
「再生阻害……?」
違う。
能力そのものが弱体化している。
「この世界……!」
ガイの顔から笑みが消える。
「俺たちを拒絶してやがる……!」
◆
「当然の結果だ」
声。
観測者。
戦場を眺めながら、まるで実験記録を読み上げるかのように語る。
「お前たちの異能は確定世界の産物」
「この未確定領域では優位性を維持できない」
「……ふざけんな」
レンが歯を食いしばる。
重力場をさらに強化。
周囲の空間が軋む。
それでも。
効果は限定的。
圧倒的な違和感。
◆
「下がって」
静かな声。
天城ユウトだった。
戦闘の最中でありながら、異様なほど冷静。
「原理は単純だ」
異形が迫る。
ユウトは一歩も動かない。
「この世界は“揺らぎ”で構成されている」
手を伸ばす。
怪物へ向けて。
「ならば――」
空気が変わる。
言葉にならない圧力が広がる。
「揺らぎそのものを固定する」
次の瞬間。
怪物の身体が停止した。
動きではない。
存在の揺らぎが止まった。
ノイズが消える。
再構築が止まる。
レンが目を見開く。
「……おい……」
トウカが息を呑む。
ユウトが静かに告げる。
「未確定性の否定」
怪物の輪郭が硬直し、
今度こそ完全な物理存在へ収束する。
「今だ!」
トウカが反応する。
空間が閃く。
断裂。
今度は消えない。
怪物が崩れ落ちる。
◆
観測者が、初めてわずかに沈黙した。
「……興味深い」
抑揚のない声。
だが確かに変化があった。
「概念干渉の適応個体」
ユウトの瞳は揺るがない。
「実験対象としての価値を確認」
次の瞬間。
異形の群れが、さらに増殖した。
地平線を埋め尽くすほどに。
「……は?」
ハルの声が震える。
観測者は静かに告げる。
「検証を次段階へ移行する」
能力者たちの優位は崩れた。
異世界の法則。
絶望的物量。
そして――終わらない実験。
戦いは、まだ始まったばかりだった。
…




