公爵のお披露目会
「皆様‼︎ 本日はお忙しい中、我が社にお越しいただき、誠に感謝いたします。私、このクラウンを経営する社長のデューカス・O・クラウンです。お見知り置きだと思いますが。まぁ、デュークというあだ名も気に入ってますので、本名よりこちらの方で呼んでいただければ幸いです。
さて、今回は我がクラウンが誇る、ロボット技術の最新作をお見せいたしましょう。」
スキンヘッドと対照に、金色の髭を立派に生やした大柄な白人男性がステージに立ち、流暢な日本語で、会場にいる僕等の方へ話しかけた。普通の会社ならば、このままプレゼンに入るであろう。
といっても、会場のあちこちにテーブルが置かれ、テーブルの上には高級なワイン、料理が並べられている。ワイングラスにしっかりと会社のロゴである「C」が王冠をかぶって、刻まれていた。
「ですが、その前に乾杯といたしましょう。楽しみは最後まで取っておくものです。それに今回は様々な方が、本社に来てくださりました。政治家の方々、大企業の社長の方々、日本の防人の方々、一流有名人の方々など…数え切れないぐらいです。
私デュークは、この一期一会の出会い、そしてこの日本の愛国心を持っている方々に対面することができ、非常に感激しています。感謝感激、雨嵐。とは、まさにこのことであります。
私は、日本という国が大好きです。日本の漫画のロボットに憧れ、来日してから40年が経とうとしています。今回はそれの新しい節目となるでしょう。」
会場にいる誰よりも腰を低く、丁寧に社長は話した。まるで日本人より、日本人らしい。
会場にいる全員が社長の話に耳を傾けている。所々、笑ったり、拍手したりなどリアクションを取っていた。今回僕は、仕事の為に来たというのもあるが、個人的に彼のことについても知りたかったのだった。
「さぁ、皆様‼︎ まずは目の前の料理をぜひ、お召しになってください。このクラウンが誇る最高のシェフが、丹精を込めて作り上げたものです。テーマは、『協調』。我が祖国の味、そして第2の故郷である日本との、これからの良きパートナーとして手を取り合っていきましょう‼︎ では、乾杯‼︎」
乾杯‼︎ と、会場が割れるぐらいの声量がビリビリと鼓膜に響いた。耳鳴りが残る中、目の前の料理を食べる。うん、美味い。
ステーキの肉汁と、その適度な噛みごたえが身体全体を満足させる。他にも、ワイン以外に焼酎が置いてあった。しかもバリバリの本格的芋焼酎だ。もはや、仕事を忘れ目の前の料理の美味さに舌鼓を打つばかりだった。
会場の至る所に人型ロボットの姿があった。顔の再現度に関しては、現実の人間と見分けがつかないほど、いや、それ以上の次元だ。おかげで、メイド服の姿をしたロボットに思わず、声をかけてしまう所だった。危ない、危ない。酔ってる証拠だ。
会場のステージには、1人の歌姫が天使のように透き通るような歌を披露していた。もちろん、ロボットである。
聴いてる者の中には、札束を投げ出したり、下品な声をかけたり、気持ちよすぎて寝てしまったりなど目に痛い状況。せっかくのムードが台無しである。だがしかし、何度見ても綺麗だな。
それにしても、さっきから作業してるこのメイドは、やけに気がきく。空き皿がテーブルの上にあると、速やかに下げて、新しい料理を持ってくる。会場の隅に、シェフが料理を作って、料理を空き皿に乗せている。もしや、あのロボットが社長が言ってた最高のシェフなのだろうか。彼の腕前は、5つ星を遥かに超えた素晴らしいものだった。
ほろ酔いと満腹により眠くなる時があるが、仕事中だと忘れてはいけないので、なんとか自制した。僕のプライドに反するからな。それに、社長に会って挨拶しなければならない。
人混みを掻き分けて探す中、急にステージの袖から「パチパチパチ」と拍手が聞こえてきた。音の主は、にこやかな笑顔をしたデューク社長だった。
「皆様。今宵の宴を楽しんでおられますでしょうか?はい。ありがとうございます。今回、この宴を盛り上げてくれてる3名の仲間を紹介します。」
社長に手招きされ、先ほどのロボット3人がステージにあがる。会場から拍手、声援が送られた。
「ありがとうございます。ありがとうございます。今回、我々は人型ロボットの開発を進めました。しかし、ただの人型ロボットではありません。『人に活力を与える』ことをテーマに研究を進めた結果、無事に完成し、皆様にお披露目することができました。」
拍手が更に盛り上がる。社長は話を続けた。
「なるべく簡潔に、この3名の自己紹介を行います。
まずは、ステージで歌を披露した彼女。名前は、『ライディーン』。
彼女の声を聴いて、雷に打たれたかのような衝撃を受けた方もおられると思います。この日本には、『言霊』という言葉の強い力を大変信じておられます。我々人間の疲れた心へ歌を届け、癒しまたは、言葉の強い力を与える存在になるでしょう。
ちなみに、私は彼女の声を聴きながら、妻と楽しい夜を過ごしています。」
「次は、皆様の近くで作業を行っていた彼女。メイド服がなんともお似合いな『フーガー』でございます。
風のように現れ、風のように去る。彼女は我々が仕事で忙しい時、猫の手を借りたいそんな時に役に立ってくれる存在です。それに大変器用である為、様々な職場でも皆様方の知恵と技を支える存在となるかと期待しています。
あと彼女は、私の背中の痒い所に手が届かない所を掻いてくれます。これが、大変気持ちがいいのです。」
「最後になります。彼の、真心詰めて手がけた情熱的な料理は、いかがでしたでしょうか?はい。ありがとうございます。我が社が誇る最高のシェフ『シャク』も大変喜んでおられます。
どんなに美味い料理でも冷め切った心では、我々の心に火が点きません。彼のように腕が立ち、料理に対して熱い思いのある者が、我々に元気と勇気を与えるのです。
また、彼は我々の健康も考えてくれています。私がこうして、皆様の前におられるのも、贅沢病にかからないのも、彼のおかげでもあります。」
にこやかな笑顔を絶やさず、社長はジョーク混じりに説明を行った。会場は大変、リラックスしていた。拍手は未だに鳴り止まない。
「ありがとうございます。ありがとうございます。皆様が、我が社の仲間を受け入れてくれて、社長である私も、ほっと胸を撫で下ろす気持ちでいっぱいです。
思えば、私はアメリカの工業大学を経てすぐ、来日しました。その時はコネや技術、お金もありませんでした。毎日、住み込みで下町の工場で仲間と自らの技術を高め、日々勉強していたことが鮮明に思い出されます。
心が折れそうな時もありました。夢を捨て、故郷に帰る決意を行ったこともありました。その時、私を救ってくれたのが、皆様。そう、日本の方々だったのです。」
「辛い時、悲しい時は子供達が、歌を歌ってくれました。不器用な私に手を貸してくれたのが、日本の男性達でした。財産が尽きて飢死を覚悟した時、満杯のご飯を持ってきてくれたのが、日本の女性達でした。」
「我々、アメリカは過去、日本に原子爆弾を2個投下し、膨大な犠牲者を出しました。その時は恨まれても、止むを得ないと覚悟していました。」
「しかし、違った。皆様が私に与えてくれたことが、私の今を支えてくれた活力となりました。いつか、この方々に恩返しをしよう。アメリカと日本を繋げる架け橋のような存在となろうと、決意したのです。そして私は、この株式会社クラウンを立ち上げ、日本のロボット産業に名を挙げることが出来ました。」
社長の演説は熱いものだった。中には、感動して泣き出す者もいる。その社長も涙を一筋流していた。
「冴えないアメリカ人が来日して40年…私は日本で言う『還暦』を迎え、孫も産まれました。今、私がこうして皆様の目の前に立っていること、ロボット技術で2つの国を結んでいること、紛れもなく皆様、日本人の存在がなければ、なし得なかったことです。これからも益々、努力していきます‼︎ 本当に、本当に、心から感謝致します‼︎」
腰を90度に曲げた姿は、圧巻だった。フーガーがハンカチを取り出し、社長へ手渡しした。
「ありがとう、フーガー。…さて、皆様‼︎ 少し気分を変えてましょう。まだまだ宴は終わりではありませんので。今夜は楽しく、過ごして下さい。では、また。」
突然、ライディーンの胸から音楽が流れ出す。どうやら、あれがステレオになってんのか。ダンスミュージックが流れ、会場にいる人間が踊り出した。まるでバブルに戻ったかのようだ。
社長がいつの間にか、いなくなっていた。まだ、遠くへ行ってないだろう。人間達を跳ねのき、全速力で社長を追いかけた。
バタンッ‼︎ 大きな扉が閉まった音が聞こえた。ふと、音のした方に行き、場所を確かめる。そこは、クラウンの「社長室」だった。
意を決して、中に入ろうとする。だが、扉に鍵はかかってなかったようだ。
「入りたまえ。霧島 透くん。」
社長の声だ。だが、あのにこやかな雰囲気なんか微塵も感じない、冷却された鉄のような言葉だった。
社長室の中に入る。大変広く、高価な物ばかりが目に映った。奥に社長の後ろ姿が見える。彼は、気持ち良さそうに葉巻を吸っていた。
「ここから見える景色は、大変眺めがいいだろう?特に夜景がお勧めだ。社畜どもが、キィキィ猿のように声をあげながら、飼い主の尻を舐め合っているのだからな。」
振り返ったその姿は、悪意に満ちた表情だった。ステージで見せたあの表情と180度の変わりようだった。
「そうですね。アカデミー賞ばりの名演技でしたよ。デューク社長。」
株式会社クラウン。社長の名は、デューカス・O・クラウン。
表向きは、ロボット産業で有名な大企業。しかし、裏の顔は非人道的な人体実験・改造実験を繰り返す企業である。
通称「破壊の公爵」。僕の数少ない知り合いでもある。




