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止まない雨

ふぅん。山中は、デスクトップの画面と睨めっこしていた。どうも、気になる。20年前の事件がずっと頭から離れないのだ。頭をクシャクシャと掻いていると、後ろから角澤がぬぅっと姿を現した。


「わぁっ⁉︎」

山中の頭と角澤の顎が当たり、ゴチンと鈍い音を出した。山中は机で丸くなり、後頭部をさすっている。あのしゃくれ顎め。タンコブが立派に生えたじゃねぇか。山中の怒りの導線に火が点き、身体ごと後ろへ振り返る。


「おい‼︎ カクゥ‼︎ てんめー、なにしてくれんだぁ⁉︎ 急に後ろから、ゾンビのように来やがって‼︎ 俺の鉄拳制裁を喰らいに来たんかぁっ⁉︎」


カクと呼ばれた角澤は、「いやいやいや。」と呆れていた。左手にコーヒーを持ってたのもあり、被害は尋常じゃなかった。全身にコーヒーがかかり、ブラックの苦い匂いがした。

「そっちこそ、俺がさっきから、ヤマさんのこと何回も呼んでんのに、ずーっとパソコンの画面見つめたまんまでしょ。それで気になって見てみようとでもしたら、さっきのことになって。おかげで、煎れたばっかのブラックが台無しじゃないですか。あーあ、勿体無い。」


ハンカチを取り出し、角澤はパンパンと身体を拭きだした。

「で、さっきから何調べてるんですか?ヤマさん。」

どうやら、コイツには謝る気は無いらしい。まぁ、俺も悪かったし、なかったことにしてやろう。未だにコブが痛いがな。

「これなんだよ。この記事をさっき見つけてなぁ。」


身体を元に戻し、デスクトップの画面に指を指す。角澤は、その画面を眺めた。画面は黒の背景で赤の文字で、何かがデカデカと書かれていた。


「謎の黒い男、イビル・トラベラー…日本のスレンダーマン、各所にて出現…成瀬銀行爆発襲撃事件との関係はいかに…ですか。なんか記事が手作り感満載ですね。新聞社のものでもない。これがどうかしましたか?」


山中は手を顎に当て、角澤に尋ねた。

「なんか見覚えねぇか?20年前、捜査したあの事件によ。」

はい。と角澤は返事をした。

「あの廃墟デパートの悪霊の噂ですか?確か、バブルで弾けた後でしたよね。解体作業員が何十人もの亡くなって、事故として片付けられた事件ですが、悪霊が出没してたと噂が現場にも流れて、犯人も見つからず、未解決事件として幕を閉じたのは覚えてますよ。」


そうだ。山中は相槌を打った。

「実際にその悪霊がいたという証拠は見つかってねぇ。なんせ、現場に潜った奴が二度と陽の光を浴びることなく行方不明として片付けられたからなぁ。数年前も、1人の警察官が廃墟へ忍び込み、行方不明として未だに見つかってねぇのは、聞いたことあるだろ。」

「ええ。どうやら、その者の父親は解体作業員として勤務してたようです。その廃墟の解体作業中で、行方不明となりましたからね。もしかして、父親を探しに行ってたのでは…」

それは無いと、山中はキッパリと言い切った。

「なぜ、そう言い切れるのです?」

疑問に思った角澤は、山中に聞いてみた。

「まぁ、俺の勘なんだけどな。」

出たよ。ヤマさん名刀「俺の勘」この勘は不気味なくらい当たるんだよなぁ。


「おそらくだ。この廃墟へ忍び込んだものは、二度と戻ってこなかった。ということだ。仮によ、百歩譲って悪霊が現実にいたとする。その悪霊は、餌を求めて人間達を襲ってたと考えられる。第一、あのデパートで人が死んだとしたなら、骨とか色々見つかってるはずだ。それが確認されんってことは、神隠しにあったか、悪霊に喰われたかのどっちかだと思うんだよ。この警察官も悪霊の犠牲者だろう。『ミイラ取りがミイラになる』って捜査ではよくあることだが、まさかミイラじゃなく、悪霊だとはな。こりゃ、陰陽師も忙しかろう。」


悪霊ねぇ。超常現象を信じない角澤にとって、どうでもいい考えだった。

「まぁ、ヤマさんの言うとおり、百歩譲っていたとしましょう。じゃあ、ヤマさんに聞きたいですが、その悪霊に会ったことあるんですか?20年前ですけど。ちなみに俺は、すぐ他の署へ飛ばされたんであまり、捜査は出来なかったですがね。」

山中からは意外な言葉が返って来た。


「ああ、あるよ。だが、俺の見たものはこんな黒くなかったなぁ。なんかガイコツぽかった。」


「嘘ッ⁉︎」


角澤の声が事務所に響く。みんな角澤を注目していたが、目線は冷め切っていた。しばらく、目線が元の位置に戻る。

山中と角澤の隣にいた太めの女性警察官が「チィッ」と舌打ちする音が聞こえた。なんだ、この女。俺等、こんな嫌われ者か?

角澤は首を傾げ、中腰になり画面を見つめる。どうやら、コイツは全く気にしてないらしい。山中は空気を変えようと、欠伸をだしている亀野郎の肩に手をかけた。


「ちょうど、ここで話すのはアレだ。ちょっと外でタバコでも吸いに行こう。ついでに話してやるよ。」


曇天が広がり、ボタボタと大粒の雨が勢いよく降っている。外には、バケツが雑に置かれ、中には吸い殻が溢れていた。ちなみに誰も掃除しようとしない。山中は当時の現場の話をした。


「あれは俺がまだお前とコンビを組んで、間もなかったなぁ。今思えばあの時お前は…」


割愛。要は、廃墟デパートの捜査中に角澤が別の署へ臨時勤務となった後のこと。その時、若手新米としてバリバリだった山中が捜査中に便所で見つけた。というものらしい。


「で、便所で会ったヤマさんと悪霊はどんな感じだったんですか?それにしても、よくあそこから生きてこれましたね。」

角澤は山中の長い話を聞いて、疲れた肩を揉んでいた。タバコ6本消費するぐらいなんだから、もうちょっと簡潔明瞭に出来んのかな。

石頭な山中は、角澤の気持ちを察せず、思い出話を語った。

「俺がな。小便終わって便所で手洗ってたんだよ。で、後ろになんか気配を感じてな。殺意が剥き出しになったようなドス黒い奴だったと今でも覚えてる。急いで、掃除用具のあるロッカーに隠れて、気配を殺したんだ。そーっと10cmほど扉開けて、便所の個室見てみたんだよ。そしたらな。」


山中は煙を吐き出す。白い煙がゆらゆらとあがり、雨に濡れて消えていった。


「個室からのしのしと、化け物が出て来たんだよ。二足で歩くガイコツで両手が鋭い鎌だった。顎には真っ赤な血と人間の肉のようなものが、べっとりと付いていやがった。こみ上げてくる吐き気を漏らさぬよう、必死だった。なんせ、音出してしまったら、速攻お陀仏にされるなと感じたからな。まぁ、結局何も起こらず、事なきを得たんだが、その出来事を上司に報告したらな、ふざけんなと拳骨で返されたよ。『今度会ったら、その悪霊と記念写真撮ってこい‼︎』ってな。犯人は人間だと思っていたから、悪霊なんて全く信じてなかった。案の定、今に至るまで未解決な事件としてなっているがな。」


一通り、話終えた所で「あっ、そうだ。」と角澤に問いかけた。

「有中の身元は分かったか?あの変態野郎の、前居た職場よ。」

角澤はタバコの煙を鼻から出し、語りだした。

「とりあえず、奴はとある過激派の組織に入ってたと情報がきました。日本赤軍なんて赤ん坊みたいなもんで。最近の僕等のトレンドですよ。」

「やっぱり、あれか?」

「ええ、あれです。」

角澤はタバコを灰皿に捨てた。至って冷静だった。雨は更に強くなってきた。


「右翼系超過激派組織 日本黒軍(にほんこくぐん)。古き良き日本を取り戻す。というのは名目で、邪魔する者は排除。悪党退治と言いながら殺人・強盗・強姦をこなす輩達。現在、日本国内でヒーローのように崇められていますがね。そして、重犯罪者クラスの奴等もメンバーに入っています。危険な連中です。おそらく、最終目的は日本の壊滅でしょう。」


「そうか…こりゃ、奴等を止めるには、全身の骨を折る覚悟がいるな。」

「ただ、止めるだけでは意味がありません。二度と再起出来ないよう、首を折っておく必要がありますが。」

「俺等2人が、上から首を折られなければいいんだが。多勢に無勢とは、このことよ。」


まぁ、とにかくだ。山中は頭をポリポリと掻いた。

「さっさとしねぇと、罪のない犠牲者がねずみ算のように増えていくだけだ。奴等が本格的に狼煙をあげる前に、なんとかしておかんとなぁ。正義の味方を気取った悪党共には、日本のおまわりが、愛を持って教育するしかねぇ。」

ポキポキと拳を鳴らす。拳には無数の傷が存在しており、勲章とも言える。小さな身体に込められた力は、得体の知れない何かがあった。

「そうですねぇ。目には目を、歯には歯を。って言いますから、窓際に置かれてる僕等がなんとかするしかないでしょう。この前の事件も機動隊を機能出来なかったって言い訳してましたし。まぁ、こんな国守るぐらいなら、いっそのこと滅茶苦茶に潰されて欲しいですけどね。」

「おい。」

「もう、ヤマさん。冗談ですよ、冗談。ギャフンと言わせましょう。一泡どころでなく、大量の潮吹かせてやりましょう。」

ニヤニヤと角澤は笑う。悪い奴ではないんだが、コイツもやっぱり変人だ。だが、目の奥に燃えてる闘志が、メラメラと音を立てている。


「そうだな。さて、仕事場に戻るとでもするか。間もなく、定時だしな。あ、そういや、俺傘持ってきてねぇんだよな。畜生め。」

時計を見ると、17時前の針が間もなく刺そうとしている。角澤はバイクで通うため合羽を常備していたが、山中は徒歩なので持ってもいなかった。雨はまだまだ、強くなっていく一方だ。

「僕が乗せましょうか?」

角澤が問いかけた。山中は手を広げ、要らないという素振りを見せた。

「要らねえよ。こんな小雨ぐらい走って帰れるわ。」

「風邪、引きますよ。」

「途中で、コンビニ寄って休憩でもするし、酷ければ傘でも買って帰るよ。」


角澤は馬鹿にしたような笑顔で、山中の肩を叩いた。

「さすが、ヤマさん。見た感じの単細胞馬鹿とは違いますね。」

「おい。どういうことだ、カク。」

「なんも。褒めてるだけですよ。褒めてるだけ。」


ヘルメットを被り、帰宅の準備はできた。部屋を出ようとしたその時、「ねぇ、ヤマさん。」と山中に尋ねた。

「あのイビル・トラベラーって名前は誰が付けたんですかね?」

山中は首を傾げる。

「メディアかネットか知らんが、誰かが付けたんだろうな。それがどうかしたか?」

フルフェイスのバイザーを開け、角澤が呆れたような顔で言い出した。


「だって名前ダサくないですか?もうちょっと良いセンスの付け方ぐらいあったでしょう。」

「別に分かりやすいし、いいだろ。日本語で直訳すると〈邪悪な旅人〉だし、シンプルだと思うがな。そこまで言うなら、カク。お前さん、なんかいい名前あんのか?」

「ええ、ありますよ。」

角澤ははっきりと答えた。

「なら、言ってみろ。」

山中は腕を組んだ。さぁ、何が飛び出してくるのやら。



「パックマン。」

赤い長靴を履いたあの黄色の球体が目に浮かんだ。やっぱりコイツは変人だ。

「まぁ、ああいう感じで悪霊が可愛いかったら良いんだけどな。」

聞いて損したので、さっさと帰ることにした。

「カク。最後にお前さんに言いたいことがある。」

署内の入り口に2人は立っていた。雨は変わらず、土砂降りだった。


「お前、家に帰ったら鏡で自分の顔を見てみろ。ちゃんと、間抜けヅラした単細胞馬鹿が映ってるぞ。鏡は、正直だからな。」


じゃあな。と雨の中、駆け出した。

えぇー。と虚しい叫びが、雨の音とともに消える。

やがて、1台の大型バイクがクラクションを鳴らし、山中を通り越して、遠くへ消えていった。あれは角澤の愛車だった。


2人は泥水を跳ねながら、自宅へと急いだ。止まることなく、ただただ、前を見つめていた。雨は少々、小降りになってきた。

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