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転校生

学校に着いた僕は、教室の後ろの端っこの窓際の席で頬杖をついていた。正直、ご飯を作るのに早起きしすぎて、頭の中がボヤけている。さっきから欠伸が止まらない。

対して、僕の周りはガヤガヤと何か騒がしい。類は友を呼ぶとは、上手くいったものだ。

同じような顔、同じような性格、同じような趣味。何個かのグループが、それぞれのリーダーの机をまるで中点のように囲っている。


話してることは、バラバラだ。アニメの話、アイドルの話、恋愛、愚痴、スポーツ、聞いてるだけで耳が痛くなりそうだ。

特に、僕の隣がうるさい。内容は、テレビで芸人が話してた「すべらない話」をそのまま騒がしく言っているだけだ。

はっきり言って、全然クスリとも笑えない。周りの奴等は、リーダーの機嫌を損ねないように、ゲラゲラ笑ったり、相槌を打ったりなどリアクションをとっている。大変だな。これが後の社会で必要な常識力なんだと思ったら、こんな面倒くさいことにつきまとわれるなんて骨が折れそうだ。


窓際から校庭を眺める。制服を着た男女が手を繋いだり、付き添ったりして登校している。

ああ、そういえばバレンタインも近いな。最後に貰ったのはいつ頃だったっけ?特に覚えていないのに、記憶のない頭で思い出を探る。当然、そんなものはないので考えることを辞めた。

授業始業のチャイムが校内に響き渡る。僕はこの、耳障りな音が嫌いだった。脳内にガンガンと音が篭りながら、だらしない格好した担任の教師がガラガラと雑にドアを開けた。

ちなみにこの男は、いつも竹刀を常備しているため、怒らせると竹刀を振り回すため非常に面倒である。それに剣道部の顧問でもないにも関わらず。


「おーい、お前ら。今日から新しくこのクラスに転校してきた生徒を紹介する。おい、そこ‼︎男子、女子騒ぐな。うるせーぞ、ボケ。廊下に立たせるぞ。」


先程の騒音が嘘のようにピシャリと止んだ。教師は、辺りを見回しジャージの尻の部分をポリポリと掻いていた。

みんな、奴の死んだような目と合わせようとしない。何をされるかわからないからだ。石像のように固まる中、教師はマイペースに事を進めた。


「よし、ワンコどもが静かになったしな。いいぞ!入ってこーい。」


廊下で待っていた転校生が静かに入ってきた。スローモーションのように、みんなの目線が変わった。男子は鼻の下を伸ばして見とれ、女子も「綺麗…」と呟く生徒も中にはいた。

背丈は150cmほどの小柄で、さらさらした黒髪のショートが光を浴びて光沢を出している。今にも折れそうな小さな手足だが、その彼女から溢れる大きな目は力強いものがあった。

だが、正面を向いた時の彼女の顔を見て、またみんなの目線が変わった。ザワザワと騒ぎ出す者もいる。


「オイッ‼︎お前ら‼︎ 誰が騒げって言ったか⁉︎うるせーぞって、言ったのが聞こえんのか⁉︎年上の大人の命令には、絶対って言ったはずだぞ‼︎」


バンッ‼︎ バンッ‼︎ バンッ‼︎っと、教師が乱暴に竹刀で黒板を叩く。一瞬のうちに生徒が犬のように静まる。

まるで、恐怖政治というか絶対王政というか。まさか、この男から習う歴史の授業がここで活かされるなんて、皮肉な話だ。それにしても、この男はよく教師になれたもんだ。いったい、採用試験はどのようにして、行われたんだろう。全く、上の教育委員会は何してるんだ。


「チイッ…クソ犬が。黙って、俺の言うことを聞けばいいんだ。余計なことを喋るな、ゆとり世代が。」


明らかに暴言では済まされない独り言を吐きながら、教師はチョークで黒板に名前を書き出した。おそらく、彼女の名前なんだろう。


「はい。でー、気を取り直して。じゃあ、みんなに自己紹介して。」


明らかに面倒くさそうな素振りで、彼女に投げ出した。「はい。」と返事をした彼女は、自分の名前を僕らに伝えた。綺麗に澄み渡るような声だった。


「転校生の、 佐凪(さなぎ) 真緒(マオ)です。たった1年間の少ない期間ですが、よろしくお願いします。」


無表情のまま、ぺこりと45度のお辞儀をした。思わず、見とれてしまった。あげた顔は、さっきの表情と変わっていない。

「拍手ッ‼︎‼︎」

パチパチパチパチと、教師の号令がかかったと同時に、一斉に両手の平を叩く。満更でもないドヤ顔をしている教師に腹を立てたのは何回目だろう。早く卒業したいなぁ。


彼女の顔の右半分に、1本の切り傷がツギハギのように痛々しく残っていた。

それは、おでこから口元まで。傷は目を通り、黒目と対称に赤色のした右目という奇抜なものだった。最近のオシャレ義眼かなんかかな。


教師は紗凪さんに対し、席へ着くようにと指示した。教師は、僕のいる所に指を指す。ちょうど、僕の隣の席が空席だった。あそこに座れってことなのだろう。


「川原、初めて来たばっかだから、校内のこと色々と教えてやれよ。性的なこともな。」


最後のは余計だ。周りがドン引きしてるか、キョトンとしてるぞ。僕ははあっと、溜め息をついた。ただ、年上のコイツがみっともないことに呆れたからだ。


「はい、わかりました……ええと、僕の名前は、川原(かわはら) (トオル)。川原って周りから、呼び捨てで呼ばれるけど、トオルでいいよ。むしろ、そう呼んで欲しい。」


隣に来た彼女にぼくは、そう伝えた。彼女は顔を僕の方に向けた。


「そう……わかった。じゃあ、トオルと呼ぶね。トオル、私のことは自由に呼んで。」

自由と言われたので、一瞬迷った。

「ん〜、じゃあね、お互い名前で呼ぼう。僕も紗凪さんのことを『真緒さん』って呼ぶから。」

「さんは要らない。マオでいいよ。」


彼女からキッパリと断られた。心にグサリと何かが突き刺さるとは、こういう状況のことをいうのかと、僕は感じた。


「わかった。これからもよろしくね、マオ。」

素っ気ない言葉が返ってくるのかと思ったら、意外な言葉が返ってきた。


「こちらこそ。よろしくね、トオルくん。」

えっ?まさかの、くん付け?僕がキョトンとしてると、プフッと笑いを漏らした音がした。

見ると、彼女の頬が風船のように膨らんでいる。眉間にシワを寄せ、身体を震わすその姿はとても可愛かった。

「ごめん、冗談だよ。」

彼女はそう言っていたが、僕からすればご褒美に近かった。


「よーし、互いに自己紹介終えた所で、授業始めるぞ。寝たら、お前らわかってんだろうな?」


何やら、目の前で竹刀をコツコツと地面に向けて突っついてる男がいたが、僕は彼女のことで意識がいっぱいだった。


どっかで彼女と会った記憶があるんだが、思い出せない。ぼや〜とした何かが、ウヨウヨと僕の頭の上で雲を作っている。

それにしても、彼女は普通の女子と違う気がする。まるで、先日会ったあの男のようだ。さて、僕も授業に集中するか。


左から見た彼女の姿は、真面目にノートをとっていた。なにやら、僕の心の中がドクドクと脈打っており、さっきから止まらないでいる。身体が熱い。

そろそろ、久しぶりにチョコが食べたくなってきたな。贅沢な願いだと思うけど、あの甘くてほろ苦い食感を、記憶の底から思い出したかったからだ。

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