二月目(ふたつきめ) :2月21日
二人で思い出を作り上げた筈だったのに、それは夢か幻だったのか?と錯覚するほどの彼女の去り際…もっと話したかった。あのまま別れるのは名残惜しく、せめて次の約束を確実に取っておきたかった。別れ際、彼女は何を言いたかったのだろう?どうして消えるように去ってしまったんだろう。
僕はしばらくの間、喪失感に苛まれながら、タクシーのハンドルを握っていた。
再会から1週間後、あの時の恩人であり先輩の田中と飲んだ。
「そんな別れ方だったんだ。あの時の彼女は、どう見たって藤崎にベッタリだったけどな…」田中は焼き鳥を齧りながら言う。
「ああ、僕もそう感じてた。だから余計に分からないんだ。ただ…浅草に戻って雷門の近くから、彼女がちょっとすぐれない表情をし始めてたのは、感じてたんだけどー。」
「まあ、彼女にもそれなりの理由があったんだよ、多分な。また会えるといいな、彼女に。」そう言って田中はコップ酒を口にする。
「ああ、そう願っているよ。僕は手紙を待つしかないんだ。」そう言って僕はビールを飲み干し、空のジョッキをテーブルに置いた。
それから2週間後、彼女との再会から3週間経った日、仕事を終えてアパートに帰ると1枚の葉書がポストに入っていた。 宛先は前と同じく美しいペン字で縦書きされており、やはり消印は押されていない。そしてドキドキしながら裏面を見る。
「2月21日 12時正午 吾妻橋 キミより」
僕は一瞬にして胸が高鳴り、居ても立ってもいられなくなる。
「そうだ、タクシーで都内観光だ!」 その日から僕は、巡る場所とコースを計画しては変更を繰り返し、何度もシミュレーションを重ねる。
そして、いよいよ今年2度目の再会を約束した日を迎えた。この日、僕はタクシーの出番とする。朝7時に出庫して仕事を始めるが、どうしようもなく心が落ち着かない僕は早めの休憩にする。結局前回と同じく、約束の30分前には例の街灯の下に立っていた。 僕は前と同じく、常にキョロキョロしながらスマホの時計を何度も見返している。そんな時間を重ねているうちに背後から回り込んで、僕の顔を覗き込む女性が現れた。
「トシくん…ですか?」
そう尋ねた彼女は、ベージュ色のチェスターコート姿だった。
「キミちゃん!会いたかった。君にまた会えて嬉しいよ。」 僕は興奮しながら彼女の両手を思わず握ってしまう。彼女は恥ずかしがり、僕から少しだけ目を逸らす。慌てて僕は握っていた手を解くと同時に、彼女の姿に妙な違和感を覚え、つい口走ってしまう。
「キミちゃん、前よりも更に肌艶良くなってない?若返ったみたいだよ。それに肩辺りまでだった髪がとても長くなっている…。」
僕は、彼女の背中まで掛かった、緩やかなウェーブしている栗色の髪を見つめる。
「あー、うふふ。トシくんったら…」 彼女は、僕が興奮している様子を見て、困ったような顔をしながらも微笑む。
「あっ、ゴメン。会っていきなりキミちゃんをこんな風に言っちゃって。デリカシーないよな、僕…」 僕は無意識に後ろ髪を指で触りながら彼女に謝る。
「あーその仕草、やっぱりトシくんだ!変わってないわー。」彼女の表情が明るくなる。
「あっ、つい…」そう言いながらも僕は後ろ髪を触っていた。
彼女はそれを見つめながらゆっくりと話し出す。
「ねぇトシくん、トシくんはやっぱり気付かないか…」
「何を?僕はキミちゃんがひと月前、忽然と姿を消してしまった理由を聞きたかったんだ。でもまた会えて嬉しいよ。」僕は彼女の言葉の意味が分からず、つい自分の思いを口にしてしまう。すると彼女は少しだけ神妙な顔をして僕に言う。
「びっくりしないでね、トシくん。わたし…トシくんの目の前にいるわたしはー、2020年のわたしなの。」
僕は彼女の突然の告白に理解が追いつかない。
「えっ、どういう事?2020年のわたしって?」狼狽えている僕に向かって彼女は冷静な感じで尋ねる。
「今、ココは何年なの?西暦で…トシくん。」僕はまだ真意が汲めないまま答える。
「えっ、今は2028年だよ。今年で僕たち還暦になるんだよ。」
「あー28年なんだ。わたしは2020年からやって来たの。トシくんからすれば8年前?わたしは、まだ51歳なの。」彼女はココの時代が分かったようで、少しホッとした表情を見せている。僕は、やっとこの状況を吞み込んでくる。
「ええーっ!キミちゃんは過去の世界から来たの?しかもどうやってココに?」
「えーと…1週間前に未来の自分?から連絡があってー。今日この時間、この場所に来れば『トシくん』に会えるのよって。でも少し年上のトシくんだよ~って。」
「未来の自分?未来のキミちゃんから?」
「あー、トシくんからすれば『この時代のわたし』からの伝言か…」
「そ、それで?ココに来れた?」
「ええ、そして今日、半信半疑で電車に乗って浅草駅に着いてここまで歩いてきたら、一瞬パーッと目の前が眩しくなって、気が付いたらトシくんの後ろ姿が現れたの。」
「キミちゃんが、過去から僕に会いに来た…」
「わたしが、未来のトシくんに会いに来た…」
「それ凄いよ、信じられない…」僕は、ただ驚くばかりだった。
「ええ、わたしもまだちょっと信じられないけど、トシくんだよね?私の目の前にいるのは、本当に藤崎トシヒロくん…よね?」
「そうだよ、こんな風に歳食っちゃったけど、僕は藤崎トシヒロだよ。」僕はそう言って、再び彼女の両手を握る。
「夢じゃないわ…トシくんの手、温ったかい。会いたかった、トシくんにもう一度だけ会って、そしてお話しできればな~って思ってたの。」彼女は目を潤ませながら言う。
「僕もキミちゃんに会いたかった。僕はひと月振りだけど、また君に会いたかった。」僕は彼女を思わず抱きしめたくなる衝動に駆られるが、何とか堪えながら手を握り続け彼女を見つめた。
「これから、どうします?ランチでもしましょうか?」
僕に見つめられ続けて恥ずかしくなったのか、彼女はそう言った。
「あっ」という感じで僕も慌てて手を解き、彼女に答える。
「あの~実はひと月前にキミちゃんと会った時、今度は僕のタクシーで一緒に都内観光をしようって、約束してたんだ。」
「えっ、僕のタクシー?トシくん、タクシーの運転手さんなの?」
「そうなんだよ。それを知ったらキミちゃん、次は僕のタクシーに乗りたいって言ったんだ。キミちゃん、いいかな?」
「もちろんですとも! うわー、トシくんの運転で都内観光できるのね?素敵ー。」
「よかったー。駐車場はあっちなんだ、行こう。」
そう言って二人は歩きだし、程なくして止めてあるタクシーの前に着く。
「あれだよ僕のタクシー。」僕は彼女をエスコートして、助手席のドアを開ける。
「さあキミちゃん乗って。あっ、後ろの席が良かったかな?」
「ううん、わたしトシくんの隣に座りたいから助手席がいい。では、おじゃましまーす。」彼女が乗り込み、僕はドアをゆっくり閉める。僕も運転席に周りドアを開け、制服の上着に着替えて乗り込み、手袋を嵌める。そしてエンジンを掛けシートベルトを挿し込み、タクシーメーターを「貸切」にする。
「キミちゃん。本日はさくら交通をご利用頂く為、そして未来にお越し頂きまして誠にありがとうございます。このタクシーは今からキミちゃんの貸切です。運転手兼案内させて頂きますのは、わたくし藤崎トシヒロでございます。それでは出発します。」
僕は観光タクシー風に演出してゆっくりと出発する。
「はーい、お願いしまーす。トシくん凄い、運転手さんみたい! 制服も似合っているわ…素敵ね。」
「キミちゃん。『みたい~』でなくて、本当に運転手なんだからね。」
クルマは駐車場を出てから、言問い通りを西に進む。
「あはっ、わたし…もう舞い上がっちゃってるの。トシくんに会えたーって思ったら、ココは本当に未来で…そして運転手さんに変身するんですもの。それで何処に連れて行ってくれるのかしら?」 彼女は少し興奮気味に尋ねる。
「まずは春山荘に向かってるよ。そこにランチの予約もしているんだ。キミちゃんは行ったことあるかな?」
「ううん、行った事ないわ。でも名前は聞いたことあるかなー。確か結婚式や披露宴会場で有名なところよね?」
「そう、庭園がいいんだよ。都心なのに緑が多くて…」
「楽しみだわー。ランチまで予約しているなんて、さすがね。」
「イタリアンだけど大丈夫かな?カジュアルだけど。」
「イタリアン大好きよ。わたし好き嫌いないし、それにトシくんが選んだ所なら何処だっていいわよ。」
「嬉しいこと言ってくれるね、キミちゃん。」
二人はそんな話をしながら、クルマは渋滞もなく順調に進み、30分程で春山荘に着く。クルマから降りて二人はホテル棟3Fのビストロを訪れ、予約している事を伝えると庭園が見える窓際の席に案内される。コートをクロークに預けた彼女は、グレーのワンピース姿になり椅子に座る。
「凄ーい。ここからもトシくんの言っていた庭園が見えるのね。」
「良かった。キミちゃんに喜んでもらえて。」
「でも、トシくんは、ひと月前のわたしと来たかったのよね?」彼女は、ちょっと意地悪そうな顔をわざと僕に向ける。
「あー、でも、キミちゃんはキミちゃんだよね?それだけで僕はとっても嬉しいんだ。」そして僕は水の入ったグラスを口にする。
「そう言ってくれてホッとしたわ。ひと月前のわたしは、いつ頃のわたしだったんだろうなー。」
「そうだねー、あっ、そう…あの時、話の辻褄がちょっと合わない…年月が少しずれているなーって思う事が時々あったんだ。」
「そうだったのね。わたしと会うのは2回目?」
「いや、3回目なんだ。初めて会ったのは去年の暮れに病院で…」
「病院?」
「僕は会社の同僚の見舞いを終えた帰りのエレベーターで、君に呼びかけられた。」
「入院してたんだ…」
「そう、キミちゃんは~」僕は話を続けようとすると遮るように、
「それ以上言わないでいいわ… トシくんわたし、未来の事はそんなに知りたくない…」彼女は少しだけ声を震わせて言う。
「そうだね、分かる気がする…ゴメン。」
「ううん…わたしが思った事、トシくんも分かってもらえて嬉しいわ。それで、ひと月前にも会ってーそして今日…か。」
「あっ、キミちゃん2020年から来たって言ってたよね?」
「ええ、そうよ。」
「とすると、ひと月前は2024年のキミちゃんだったかも…」
「あー、4年後のわたし。」
「僕からすれば4年前のキミちゃん、そう考えると辻褄が全て合う。あー、何で僕は気が付かなかったんだろう。あの時の君は、時々ちょっと困った顔してたのに…やっぱり僕は鈍感だね。」
「鈍感?言いたくなかった、言わなくてもいい事だって…思ってたんじゃないかしら。」
僕はひと月前を思い起こす。次に会う約束をしても、少しだけ愁いを感じる笑顔だったこと。別れ際に体調がすぐれなくなったのは、時空を超える兆候を感じたからだろう。そして消えるようにいなくなったのは、彼女が過去に戻った瞬間だったんだ…と、全てが理解出来た。そして彼女が言い残した言葉の続きも想像がついて、僕は呟く。
「そうだった…んだね。」
「きっとそうよ、だってその人もわたしなんだもん。何となく分かる…気がするわ。」
「そうか…でも今日は打ち明けてくれた。どうして?」
「だってトシくん興奮しちゃって、若ーい!とか髪が伸びてるーとか言うんだもの。さすがに誤魔化せないじゃない。」
「そうだね…。それより、どうやって君に連絡が来たの?」そう問い掛けた時に、前菜とスープが運ばれてきた。
「そんな事よりも頂きましょうよ、スープの器が可愛いわー、それにとっても美味しそうよ。」彼女は上手い具合に話を逸らす。僕も気を取り直し、
「そうだね、いただきまーす。」
「いただきます。」二人同時に両手を合わせ食べ始める。
「わぁ、ホント美味しいわ、これクラムチャウダーだったのね。」彼女はスープを口にして言う。僕は今日も桜色の唇に見惚れてしまう。
「ホントだ、美味しいね。良かった、キミちゃんのお口に合って。」
「ねえ3回目ならわたしの事、大体は知っている…のかしら?」
「あー、うん。君がいつ頃結婚したとか、娘さんと息子さんがいてー。そう、キミちゃんは保健所に勤めてるんだよね。」
「ええそうよ。あっ、あの危険なウイルスがとうとう日本にもやって来て、これから大変な事になりそうだって。今、職場中がザワザワしてるのよ。」
「ああ、それはね…」僕がそう言いかけると、彼女は遮る様に、
「トシくん、いいわ、その話は。こうして会えているのだから、無事だったんでしょ、トシくんもわたしも。」
「そうだよ。そう…それで僕たちは7年後に再会した。」
「それだけで十分だわ、安心できる。」
「それより、僕はキミちゃんの事を思い出せないでいるんだよ、小学校の頃の君を。名前が出てこない…ホント情けないよな。」
「ふふふ、そうみたいね。だから…ゆっくり思い出してくださいな。」
彼女は前菜の生ハムとトマトのマリネを一口食べて、僕に訊く。
「あら、これも美味しいわー。ねえ、トシくんのこと教えてくれないかしら。トシくん、大学卒業して東京の方に行った~って事までは、聞いていたんだけど。」
「あっ、この前のキミちゃんもそう言っていた。」
「断片的によ。わたし小・中は盛岡だったし、高校はまた引っ越して花巻だったけど、医療学校の時は盛岡に戻ったもの。友達伝いで少しだけ…噂話くらいは知ってたのよ。」
「そうだったんだ、キミちゃん…」そうしていると、メインが運ばれてくる。それを食べながら僕は、就職してからの生立ちや家族構成とかを彼女に話す。
「それで今はタクシーの運転手さん。お仕事はどう?」彼女は、メインの肉料理をナイフで小さく切りながら僕に訊く。
「ああ楽しいよ。ほんの僅かな時間でも、自分が誰かの役に立っていると実感するのが嬉しいんだ。」僕はひと月前の彼女に言った台詞を繰り返すが、彼女はそれを同じように共感してくれる。 (あー彼女は本当にキミちゃんだ、歳は違っても同じキミちゃんなんだ)と、しみじみしながら彼女を見つめてしまう。
「トシくん…そんなに見られると、ちょっと照れちゃうわ…」
「あっ、ゴメン。つい…」
「ふふふ、いいわよ…」彼女の食べ方はやはり綺麗だった。 そんな話をしているうちにメインを終え、デザートと食後の飲み物が運ばれてくる。彼女はやはり紅茶だった。
「ねえ、2020年のトシくんは何をされてたの?」彼女はデザートのフロマージュを口にして、満足そうな顔をしながら尋ねる。
「8年前かー、自動車関連の会社で設計の仕事をしてた。」
「就職してから、ずっと同じ会社?」
「いや2回転職したね、仕事内容は同じような感じだけど。」
「トシくん、クルマ好きだったわよね。クルマの消しゴムを学校に持って来て…」
「そうそう、やったやった!スーパーカー消しゴム。レースや押し合いっこ相撲とか…」
「ROXYのボールペン?」
「そう!バネを改造してさ、キミちゃんよく覚えていたね。あの頃は大流行りで、男子はみんなやってたなー。」
「だって見てたもの、隣のクラスだから廊下からだけど。机の上でパチンパチンって、トシくん目をキラキラさせて…」
「そんな事もキミちゃん見てたんだ。」
「そうよ、わたしも話しながら思い出したわー、懐かしい…」
彼女はそう言って、ティーカップを口にした後それを皿に置く。
「ねえ、そろそろ庭園、散歩しましょ。」
「そうだね、行こうか。」 そう言って席を立ち会計カウンターに進む。彼女はコートを羽織りながら、支払いを気に掛ける言葉を僕に囁くが、
「キミちゃん、4年前にお札は新しくなったんだ。キミちゃんが出したら古くてお店の人びっくりすると思うよ。」 僕はそう言いながら彼女にウインクする。彼女は(もうー)という感じで少し膨れっ面をする。僕はその表情までもが愛おしくなる。
二人はホテル棟を出て庭園散策を始める。始めに「赤い橋」を渡って左に進み「三重塔」を目指す。
「トシくんは、前にココに来たことあったのかしら?」
「ああ、僕が就職したての頃に会社の先輩と『バスツアー』に参加して、ここが見学コースに入ってたんだ。あの頃は若すぎて馴染めなかったけど、今の僕達にはちょうど良いかな~と思って。」
「わたしのために、ここを観光コースに入れてくれたの?」
「そうだよ。何か気持ち良くない?梅も咲いていて見頃だね。」
「トシくん嬉しいわ…」
彼女はそう言いながら僕の左腕に抱きついて、そのまま腕を組んで歩く。僕は彼女からの仄かな香りがこの前と同じだという事を認識し、それに包まれながら歩く。途中に階段道があり、それから坂を上ると景色が開けて、三重塔を目の前にする。
「こじんまり建っているけど雰囲気いいわね、この塔。」
「何かいい感じでしょ、庭園も広すぎる程ではないし。」
「そうね、わたしたちには丁度いいわ…」
そんな事を話しながら、そのまま進んで階段道を下り終えると、チャペルが見えてくる。
「和の建物に洋館もあって、ホント欲張りな庭園ね。あれは結婚式に使うのかしら。」
「そうだね、あのチャペルで式を挙げて横のテラスでお披露目するのかな?今日は、予定が無いみたいだね。」
「ガラス張りじゃない…素敵。ねぇ、近くまで行ってみたいわ。」 そういって二人はチャペルの入り口まで行くが、鍵が掛かっていて中には入られなかった。
「残念だったね…」僕がそう言うと、彼女は僕の正面に立ち…
「藤崎トシヒロさん。あなたはキミちゃんを病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、互いに愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
突然そう言って僕を見つめる。僕は少し間を置いて、
「はい、誓います」とニッコリと微笑み、答える。
「ホント?トシくん、ホントに?」彼女は目を輝かせる。
「きみちゃんも、誓いますか?」僕も問い、彼女を見つめる。
「はい、誓います!」
彼女はそう言うと同時に、僕に抱き付いて軽く唇を重ねる。
「嬉しい、嬉しいよトシくん。ごっこ遊びでも…わたしとっても嬉しい。本当にありがとう、トシくん。」
「僕もだよキミちゃん。この歳になって、こんな気持ちになることが出来るなんて…キミちゃんは一体誰なの?」 僕はそう言いながら彼女を抱きしめ、後頭部の髪を撫でる。お互いに幸せの余韻に浸っていると、他の観光客がやって来る声がする。二人は慌てて身体を解き、彼女は再び僕に腕を組んで歩き始めた。
「トシくん…ここに連れて来たのは、こういう事を狙ってたのかしら?」彼女は僕の腕を組んだま、顔を見上げて言う。
「そんなー、まさか。さっきも言ったけど、僕はー」 そう弁解しようとすると、彼女は微笑みながら僕の顔を見る。
「冗談よ。トシくん。ふふふ…」
「もう、キミちゃんったら…では、次の場所に移動しようかな?」
「ええ、次は何処かしら?」
「それは、少しだけのお楽しみ。」
「あら、お返しかしら?はいはい、楽しみにしましょう。」
二人は駐車場に止めてあるタクシーに戻り再び出発する。
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